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その七十
十一時すぎ、宅配の人がチャイムを押してきた。チュツオーラ製菓からの試供品であった。
このところ、ちょくちょく試供品を送ってくる。すべて甘酒である。
終身名誉会員だか特別顧問だかになっている大伯母がこれを愛飲していたからかもしれないが、こうひんぱんに送られてくると、甘酒の定期コースを義理で復活させてあげようかな、という気持ちにもなってくる。
「おれはオブリケーション系小柄女子大好きジェントルマンでもあるからな」
そろそろお昼であった。義理情緒重視系童顔熟女大好き紳士の朝は早い。よって昼飯の決断も早いのである。なにを食べるかは即断で決まっていた。それはサンドイッチである。ハムとチーズとレタスのサンドイッチである。
賞味期限を確認したのちに甘酒を開封する。
サンドイッチを食べるとき、紅茶の代わりにこの甘酒を飲むことにしたのである。
「うん、けっこううまいな」
サンドイッチは定期的に食べている。八枚切りの食パンでつくるミミも切らない大雑把なものだ。
酒のつまみにしていると珍しがる人もいるけれど、ぼくはイカの塩辛とかよりもむしろ酒に合うとさえ思っている。
そういえばゆうべ山城さんは、イカの塩辛でちびちびやっている奴が本当の酒飲みで、山城さん自身やぼくなどは本物の酒飲みではないというようなことをシュゾンちゃんに説いていた。
われわれは基本的につまみを、それも炭水化物系を食べすぎているというのだ。
「おれは山城さんとちがって、栄養のバランスをかんがえて、サツマイモとかを食べてるんだけどな」
午後、畳に横になってちょっとうとうとしていると、笠戸さんがたずねてきた。
「ここにクルマ駐めて平気かしら」
「だいじょうぶですよ」
笠戸さんはご自身の絵画をもってきてくれたのだった。以前田上温泉旅館に行ったときにスケッチしたものがようやく完成したらしい。
「すいません、うれしいな」
ぼくは居間扱いになっている部屋の壁にこの作品をさっそく飾った。
「ここにあった丸さんのは、どうしたの?」
「あれは売れたんですよ」
「そうなの」
「ええ。皇帝お抱えの一種の画商みたいな人に。話が入り組んでるので、くわしいことは端折りますけどね」
「あの緑の髪の女の子は仕事?」
「いいえ。里帰りです」
笠戸さんは旅館で知り合った人物を描いていた。その人物が所有する船も後方に描いている。
「ちょっと変わった船でしょ」
「道楽者なんですかね」
「そうかもしれないわ。秋のはじめくらいからずっと旅館に泊まってたみたいだし」
笠戸さんに甘酒を勧めてみる。
「いただこうかしら」
「いま、温めますね」
笠戸さんは熱い甘酒をふーふーしながら、
「おいしい」
と飲んでいた。そして甘酒は飲む点滴だから、からだに良いうんぬんと、やはりいっていた。そもそも大伯母も甘酒を愛飲していたからこそ長生きできたわけだし、やはりそのあたりの義理をオールイングリッシュジェントルマンの貫禄で今一度ボンジュールするべきなのかもしれない。
「来月から定期コース復活させるか」




