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その六十八
きょうは戸賀先輩のところにもシュゾンちゃんの自宅にもいちおう歩いて行った。距離はちょっと足りないが、まあ客もいるし、これで良しとしよう。休足日である。
シュゾンちゃんは料理ができるらしく、ウチの冷蔵庫を覗くと、
「わたし、肉じゃがと野菜炒めとたまご焼きつくります」
といってきてくれた。
料理がまったくできないシャミーとしばらくいっしょだったので、一瞬不思議な感じもしたが、そのあいだにこちらは風呂にも入れるので、頼むことにする。
風呂から出ると、山城さんも部屋にあがっていた。
「勝手にお邪魔してますよ」
「ウイ」
甲類焼酎と割るならハイサワーのグレフルとレモンとうめは、コタツテーブルの横っちょにずらりと用意されてあった。山城さんが並べたのだろう。
シュゾンちゃんは山城さんにガンモをリクエストされたらしく、四つに切ったがんもどきをフライパンで焼いていた。
「はい、焼けました。生姜とネギはお好みで」
「ああ、ありがとう、すいません」
山城さんは、
「じゃあおれは、シュゾンちゃんのためにサワーつくってあげるか」
とまずはグレフルのペットボトルを開ける。
ぼくは水を飲んだのちに「くらのすけ」のぬる燗からやることにする。まあいつものパターンである。
シュゾンちゃんは山城さんがつくった濃いめのグレフル割りを一気に半分くらいグイーッと飲んでいた。ぼちぼち飲める子のようであった。
さっそくぼくはかつての失恋の話を山城さんにきく。
「ああ、あれか……」
山城さんは目線を上にあげて思いだそうとしていた。
「あれはね、失恋した男たちが集まって、二日間くらいぶっつづけでエロ動画観るとか酒飲むとか特撮の歌うたいまくるとか、そういう感じのものだったんですよ」
「それで、立ち直ったんですか」
「なんか、パワー出てきたんですよね」
シュゾンちゃんは料理の感想をききたそうにしていた。迂闊であった。心の中でゲンコを二個コンコンしたのちに、ぼくは肉じゃがを景気よく食べて、
「うん、おいしい」
とシュゾンちゃんにいう。まあじっさいおいしかった。野菜炒めもいい味付けである。
シュゾンちゃんは失恋の話はどうもしたくないらしく、話題をそらすように、
「その長袖ティーシャツ、おもしろいですね」
と山城さんにいっていた。
「これ、この人にもらったの」
「新倉さんに?」
「うん」
「サイズがちょっと大きかったんだよ。ネットで買ったから」
山城さんが着ると逆にぴちぴちだったそのティーシャツにはバルザックの顔がプリントされてある。
ぼくはバルザックの「従妹ベット」が好きで、訳がちがうもので三回くらい読んでいるのだ。
「おもしろいんですか」
「これは、ホントにめちゃくちゃおもしろい。『罪と罰』とか『大いなる遺産』とかと同クラス」
「ふーん」
「シュゾンちゃん、小説読むの?」
「すこし読みます。でも『罪と罰』と『大いなる遺産』はきいたことあるけど、『従妹ベット』は知らないなぁ」
このあとわれわれは、好きな本とか好きな音楽などの話をして酒を飲んだ。




