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その六十五
一日一万歩以上歩くことを心がけているというアンダーソンさんは、戸賀先輩の製作所まで徒歩で行きたいと希望してきた。お安い御用である。とりあえずクルマのカギを義姉に返す。
「じゃあ行きましょうか」
「ええ」
戸賀先輩と唯一まともに交流している異性は笠戸さんくらいである。
森野さんは丸先輩がいるときはたしょう話すこともあるが、基本的には距離を置いているようにみえる。
戸賀先輩は森野さんの絵が好きではないらしく、あからさまに態度に出すこともある。笠戸さんもちょくちょく作品を罵倒されているが、それでも笠戸さんは戸賀先輩からは離れない。戸賀先輩の作品がそれほど好きらしいのだ。
戸賀先輩はやさしい人ではあるのだが、そんなわけで、思いのほか付き合うのがむずかしいのである。
そういう意味においてはアンダーソンさんは大健闘しているということもできるのだった。森野さんも笠戸さんも感心しているほどである。
さて、きょうも戸賀先輩はアンダーソンさんにたいして礼儀正しく接していた。案外イケるかもしれない。ぼくは熟女の蝋人形をさっそく頼んでみた。
「うーん、熟女はイメージが湧かないよ」
「おれ、このまえ写真集みせたじゃないですか」
「新倉くんの説明きいても、おれは熟女の良さがわからないんだ。無理だよ」
「そこをなんとかお願いします」
アンダーソンさんがあたまをさげる。
「アンダーソンさん、わたしはあなたにとても感謝していますが、これだけはむずかしいです。少女ならつくれますが」
「先方は熟女を希望してるんです」
「絵画じゃダメなんですか」
戸賀先輩が逆に質問する。
「どうでしょう……絵でもいいのかもしれませんが」
「だったらピカ男に頼めば、新倉くん」
「でもピカチューくんはモデルがいないと描かないじゃん」
「モデルめっければいいじゃないか」
「まぁ、そうですけど……」
ぼくはここで閃いた。春代さんである。
若尾ふみ似のあの色気のある御婦人にモデルを務めてもらえばいいのだ。干し柿国の将軍もモデル料くらいは出すだろう。
とりあえずぼくは、その旨を春代さんにメールで伝えた。
「アンダーソンさん、作戦を変えましょう。絵画に」
「先方にきいてみます」
しばらくすると、その先方から返事がきた。
「絵画でもいいって」
「よし!」
「防衛が目的だから、どちらでもいいみたい――わたしが戸賀さんの蝋人形にこだわりすぎたのね」
「ありがたく思いなよ、戸賀先輩」
「うん。それは思ってる。アンダーソンさん、今回はお役に立てなくて、申し訳ありません」
「そんな……こちらこそ、ご無理をいって、すみませんでした」
「これから、ピカチューくんのところに行ってみる? アンダーソンさん」
「行きましょう」
ぼくたちは戸賀先輩の製作所をお暇した。




