64
その六十四
干し柿国の将軍が蝋人形を欲しがっているのは趣味だとか道楽だとか、そういうことではない。防衛のためである。
アンダーソンさんがおっしゃるには、なんでも干し柿国の一部の地域で、ザ・ムー原人がらみの被害が多発しているらしいのだ。
「ザ・ムー原人はいろんな国でちょこちょこ悪さして儲けてるんですね」
「ポリコレとかコンプラとかが厳しすぎて景気わるいのね、きっと」
今回戸賀先輩にお願いするのは熟女の蝋人形である。将軍はぼくとおなじく熟女好きとのことである。どうせつくるのなら熟女ものにしようとかんがえたのだろう。たいへん立派な将軍である。
しかし戸賀先輩は若い踊り子みたいな女子が基本好きである。いわゆるロリコン系の作品ばかり創っているのだ。交渉は難航しそうである。
「ロリ熟なら、やる気になってくれるかな……」
ところで、アンダーソンさんと偶然再会したのちのぼくは、ザ・ムー原人の被害に遭われている各国のお偉方より、
「すいません、いっしょに写真撮っていただけませんか」
としばらく頼まれていた。もちろんアンダーソンさんを通してである。
写真を希望しているのは、ぼくと友だちですよ、という雰囲気を国内に広めて、ザ・ムー原人たちをたじろがせるためとのことであった。
「ああ、そんなことでお役に立てるなら」
こんな感じで最初はぼくも軽く引き受けていた。しかしよくよくかんがえてみると、これだとぼく個人がちょっと大旦那気分になるくらいで、益が誰にも分配されない。
せっかく仲介役のアンダーソンさんがアート作品の買い付けをやっているのだから、戸賀先輩や丸先輩などの作品をぼくとの写真を求めているそのお偉方に宣伝してもらおうと、まあぼくはそういう提案をしたわけなのである。蜜を吸わせてあげるから種子を遠方にまいてね、というわけだ。
「新倉さん、それ名案! その程度の金額でいいなら、わけなく買ってくれますよ、あのクラスの方たちは」
わたくし新倉三千世は名目上いちおう画商ということにし、各国に絵画等を納めた。
するとこれは写真よりもずっと効果があって、新倉画商より作品を買った国はその後、ザ・ムー原人の被害がいっさいなくなった。すさまじい効果だったのである。
逆にいえば、ザ・ムー原人は、それほどプロト・ジュクジュクマンであるわたくし新倉三千世に超ビビリまくっているということもできるのであった。
他時空の各お偉方には、ぼくもいちおう画商として交渉するわけだが、こちらの画家たちには、
「他時空の国ではおれ、画商やってるんですよ」
といってもまったく信憑性がないので、アンダーソンさんが主導になってすすめてくれている。
アンダーソンさんは戸賀先輩の蝋人形を高く評価していて、個人的に買ってくれた作品を本国のほうに一つ寄贈してくれてもいるのだ。
今回もアンダーソンさんは干し柿国サイドに積極的に戸賀先輩の作品を推薦してくれたみたいだった。
「でも、なかなか引き受けてくれないかもしれないな、今回は……あの人、五十路の写真集みせてもぜんぜん感心してなかったし」
「慣れてますよ、長期戦は。何度も足を運ぶんです」
「じゃあ、しばらくこっちにいるんですか」
「ええ」
「どこに泊まるんですか?」
「東横イン」
「ウチ、ひと部屋空いてますよ」
「このお部屋?」
アンダーソンさんはチュツオーラ百科事典が揃っている三畳間に移動した。
「狭いかな」
「いえいえ、寝るだけですから、じゅうぶんです。でもシャミーちゃんは、どうするんですか? 新倉さんといっしょに寝るの?」
「あはははは、まさかまさか、シャミーはいったん国に帰ったんですよ。また来るようなこといってましたけどね」
「そうなんですか、でしたら、お世話になろうかしら」
「決まり! 晩酌の相手ができてよかった」
「じつは、その晩酌のことをかんがえて『くらのすけ』買ってきたの」




