第三幕 62
第三幕
その六十二
義姉よりお借りしたクルマの助手席にシャミーを乗せる。秦野邸まで送るのである。
「くれぐれも闇営業の飲食店には入らないように」
「新倉さん、それ百回くらい、いってるよ」
きょうようやくシャミーは国に帰ってくれる。春に帰るとは取り決めていたのだが、とっくにコタツの布団も取っ払っているので、じつはもう、いわゆるゴールデンウィークも明けてしまっているのである。シャミーはなんだかんだと理屈をこねて帰郷を先延ばしにしていたのだ。
そのシャミーは、
「あーあ、このオムライスも、しばらく食べられないんだな……」
と先ほどため息をついていた。しかも昼食中何度もである。
シャミーは旧大伯母邸で暮らすようになったこの数ヶ月、かなりひんぱんにオムライスを食べていた。シャミーはオムライスが大好物なのである。しょっちゅうリクエストされていたぼくのオムライスをつくる腕もだからたしょうはボンジュールになったと思われる。
「お父さんは、行き来していいっていってるんだから。そのガラケーで連絡も取れるし」
「うん……」
古いガラケーを改造して日本と抹茶オーレ帝国間の通話とメールのやり取りをできるようにしてくれたのは愛さんのお父上である。
ちなみにこのことはチュツオーラ百科事典よりお父上が発見したのだ。
「三千世さん、むかし使ってたガラケー、もってない?」
「たしか二、三個ありますよ」
「じゃあ今度それもってきて」
たしかにお父上は大天才である。だからこそ娘の愛さんもお父さんを慕っているのだ。一見すると父離れしていないようにみえるほど慕っているのである。
「そういえば、ピカチューくんもファザコン女子は新倉先輩には合わないって、いってたな……」
お父上とシャミーがイナバ物置に入っていくのを見届けたのちに、すぐまたクルマのドアを開ける。
「あれ、もう帰っちゃうの」
「うん」
「ゲームやろうと思ってたのに」
「ちょっと用があってね」
お父上のいない秦野邸で愛さんとファミコンだとか、あと乳繰り合う感じのそういうあれをしたいことはしたい。しかしこのあとは、アンダーソンさんを戸賀先輩の製作所へ案内する予定なのである。アンダーソンさんはちょうどきょう、こちらにお越しになるのだ。
まえの章でも記させていただいているが、アンダーソンさんはマロンオーレ帝国の人である。
アンダーソンさんはマロンオーレ皇帝からの勅命により、時空のちがう国々をまわって絵画などのアート作品を収集している。なんでも皇帝自身がたいへんなコレクターらしいのである。
あれはたしか正月明けくらいのときだったか、茶の湯のチラシをもってアンダーソンさんはウチにいきなりやってきた。
「ああ! あのときの!」
「あら、新倉さん」
奇遇とはこのことである。なんでもアンダーソンさんは、
「ふ菓子国っていうところのスーパーでウインナーを試食していたおじさんに、ここにいい茶器があるって、きいたんです」
という経緯により旧大伯母邸をたずねてきたようなのだ。
「どこの国にも試食スターさんみたいな人はいるんだな……」
エンジンをかけるとシャミーがいじりまくっていたカーラジオがまたぞろ流れた。消そうとすると、思いがけずめずらしい曲に遭遇する。
「ふーん『一週間に十日来て』か――麦川いづみって、こんなレコード出してたんだな……」




