↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
61/91

61


      その六十一


 建物を出たのちにいったん物陰に隠れて、連中が追ってこないか、いちおう確認する。


「だいじょうぶそうだな」


 ザ・ムー原人のなかにはぼくを見て拝んでいる奴もいた。


マスクからあふれちゃうほど泡を吹いている奴もいた。


だから、もうなにもしてはこないだろう。


「ん」


 物陰に隠れているぼくの肩を誰かがトントンと叩いてきた。


「新倉さん」


「ああ!」


 和泉さんである。


「それ、エッチな本ですか」


「ん? ああ、こここ、これはあの、オールイングリッシュムッシュの会報誌なんです」


 ぼくは急いで「五十路の女たち」をリュックにしまった。


「どうしたんですか、和泉さん」


「新倉さんを助けにきたんです」


 和泉さんはきのう、ぼくが貸したお金を返しにウチに来たようである。


「そのときに、つぐみさんから、新倉さんはザ・ムー原人に捕まっていると、きいたものですから」


「なるほど――でもどうやって、ここまで来たんですか」


「あれで来ました」


 和泉さんが指さした巨大ななにかを見上げてみると、なるほどそれは巨大な船のようにもみえた。


「ピーチオーレの皇帝に頼んで、軍の戦艦を出してもらったんです」


「たしかに宇宙戦艦ヤマトみたいですね、外観は」


「ヤマトを参考につくったんです。波動砲も撃てるんですよ」


「ほー」


「あそこがザ・ムー原人の城なんでしょ」


「ええ」


「とりあえずなにか一発打ち込んでおきましょうか」


「いやいやいやいや、もうなんか門番の奴とかも、出ていくおれを見て、超ペコペコしてたし、写真集の表紙見せただけで失神してる奴もいたから、報復とかはいいですよ」


「じゃあ、帰りましょうか」


「お願いします」


 ぼくはピーチオーレ帝国の巨大時空戦艦に乗り込んだ。


「うわー、戦艦のなか、凄いッスね。ホテルみたいだな」


「なにか召し上がります?」


「そのまえに風呂入りたいです」


「わかりました」


 ぼくは銭湯然とした大きな風呂を存分に堪能した。


「お風呂ありがとうございました」


 風呂からあがると着替えも用意されていた。


いつも着用している私物である。


和泉さんがいうには、


「シャミーさんが用意してくれたんです。よく気が付きますね、あの方」


 とのことだった。


「あっ、そうだ。まえに新倉さんが探してた『蔵だより』の大きいの、ピーチオーレからもってきましたよ」


「ああ、そうですか、わざわざすみません」


「お借りしたお金はつぐみさんに渡しておきました」


 和泉さんはやはりいい人だったのである。


心の中でぼくはこれまでちょっと疑ったりしちゃっていたことを、


「ごめんね、和泉さん……」


 と謝罪した。


大反省である。


 というわけで、幾人かの見識者も懸念していた「和泉さん悪女かもしれない疑惑」はおかげさまで完全に払拭された。


しかし和泉さんが持参してくれた「蔵だより」はぼくが探していたものとはだいぶちがっていたのだった。


 たしかにおなじ「蔵だより」という名前だったけれど、こちらは甲類焼酎だし、容器も四リットルのペットボトルだったのである。


「わたしって、やっぱりそそっかしいですね」


「でも、もう『蔵だより』の三リットルパックの問題は個人的には解決してるんですよ」


「そうなんですか?」


「うん。結論は出てるの。中身はどれもおなじ」


「そうかな……」


 和泉さんはぼくの結論には同意しなかった。


「山城さんも、納得しませんよ、きっと」


「あはははは、たしかにそうですね」


 可愛らしく微笑んでいる和泉さんをみていると、張り詰め通しだった気持ちがようやくゆるんできた。


またあのバカな事柄に打ち込める。


公園で散歩もできる――生還できて本当によかった。


 ぼくは和泉さんに再度礼をいったのちに、あたたかい食事が待っている艦内の食堂に手を引かれて移動した。



  (第二幕 了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。