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その六十一
建物を出たのちにいったん物陰に隠れて、連中が追ってこないか、いちおう確認する。
「だいじょうぶそうだな」
ザ・ムー原人のなかにはぼくを見て拝んでいる奴もいた。
マスクからあふれちゃうほど泡を吹いている奴もいた。
だから、もうなにもしてはこないだろう。
「ん」
物陰に隠れているぼくの肩を誰かがトントンと叩いてきた。
「新倉さん」
「ああ!」
和泉さんである。
「それ、エッチな本ですか」
「ん? ああ、こここ、これはあの、オールイングリッシュムッシュの会報誌なんです」
ぼくは急いで「五十路の女たち」をリュックにしまった。
「どうしたんですか、和泉さん」
「新倉さんを助けにきたんです」
和泉さんはきのう、ぼくが貸したお金を返しにウチに来たようである。
「そのときに、つぐみさんから、新倉さんはザ・ムー原人に捕まっていると、きいたものですから」
「なるほど――でもどうやって、ここまで来たんですか」
「あれで来ました」
和泉さんが指さした巨大ななにかを見上げてみると、なるほどそれは巨大な船のようにもみえた。
「ピーチオーレの皇帝に頼んで、軍の戦艦を出してもらったんです」
「たしかに宇宙戦艦ヤマトみたいですね、外観は」
「ヤマトを参考につくったんです。波動砲も撃てるんですよ」
「ほー」
「あそこがザ・ムー原人の城なんでしょ」
「ええ」
「とりあえずなにか一発打ち込んでおきましょうか」
「いやいやいやいや、もうなんか門番の奴とかも、出ていくおれを見て、超ペコペコしてたし、写真集の表紙見せただけで失神してる奴もいたから、報復とかはいいですよ」
「じゃあ、帰りましょうか」
「お願いします」
ぼくはピーチオーレ帝国の巨大時空戦艦に乗り込んだ。
「うわー、戦艦のなか、凄いッスね。ホテルみたいだな」
「なにか召し上がります?」
「そのまえに風呂入りたいです」
「わかりました」
ぼくは銭湯然とした大きな風呂を存分に堪能した。
「お風呂ありがとうございました」
風呂からあがると着替えも用意されていた。
いつも着用している私物である。
和泉さんがいうには、
「シャミーさんが用意してくれたんです。よく気が付きますね、あの方」
とのことだった。
「あっ、そうだ。まえに新倉さんが探してた『蔵だより』の大きいの、ピーチオーレからもってきましたよ」
「ああ、そうですか、わざわざすみません」
「お借りしたお金はつぐみさんに渡しておきました」
和泉さんはやはりいい人だったのである。
心の中でぼくはこれまでちょっと疑ったりしちゃっていたことを、
「ごめんね、和泉さん……」
と謝罪した。
大反省である。
というわけで、幾人かの見識者も懸念していた「和泉さん悪女かもしれない疑惑」はおかげさまで完全に払拭された。
しかし和泉さんが持参してくれた「蔵だより」はぼくが探していたものとはだいぶちがっていたのだった。
たしかにおなじ「蔵だより」という名前だったけれど、こちらは甲類焼酎だし、容器も四リットルのペットボトルだったのである。
「わたしって、やっぱりそそっかしいですね」
「でも、もう『蔵だより』の三リットルパックの問題は個人的には解決してるんですよ」
「そうなんですか?」
「うん。結論は出てるの。中身はどれもおなじ」
「そうかな……」
和泉さんはぼくの結論には同意しなかった。
「山城さんも、納得しませんよ、きっと」
「あはははは、たしかにそうですね」
可愛らしく微笑んでいる和泉さんをみていると、張り詰め通しだった気持ちがようやくゆるんできた。
またあのバカな事柄に打ち込める。
公園で散歩もできる――生還できて本当によかった。
ぼくは和泉さんに再度礼をいったのちに、あたたかい食事が待っている艦内の食堂に手を引かれて移動した。
(第二幕 了)




