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その五十九
さて、ここは、いわゆるひとつの牢屋である。
ぼくはザ・ムー原人の国に到着するなり、すぐここにぶち込まれたのである。
とりあえずペットボトルの水をリュックから出して飲む。
「ん!」
足音がきこえてきた。
素早くペットボトルをしまう。
「おい、お知らせだぞ」
「はい」
「貴様の刑が確定しそうだ」
「はあ」
「知りたいか?」
「ええ、まあ」
「懲役三〇〇〇年から四〇〇〇年だ」
「またまたぁ」
「死刑の可能性もあるぞ。ギャハハハハ」
「もっと軽くしてくださいよ」
「それはおれにいってもダメだぜ。もっと上の人に訴えるんだな」
下っ端のザ・ムー原人は木製の内格子にしっかり錠前をかけると去って行った。
「えらいことになったな……」
もう一度ぼくは水を飲む。
スマホをみると、山城さんからメールが入っていた。
「きき酒しながらマジナイする人もいるみたいです。いまツテをさがしてます」
というようなことが記されている。
「きき酒か――『蔵だより』と『蔵そだち』は、じっさいおなじ酒なのかな……」
今後ぼくは、山城さんとこのような検証はできなくなるのだろうか……急激に寂しさが込み上げてくる。
山城さん、丸先輩、戸賀先輩、愛さん、シャミー、ピカチューくん、手作りクッキーを売っている小柄な子――ぼくはいろいろな人を思い浮かべた。
そして、もう二度とこの人たちに会えないのかもしれないと思うと、泣き出しそうになった。
「深くかんがえちゃダメだ。希望をもたなくちゃ」
とりあえず一縷の望みを託して義姉にメールを送ってみる。
「抹茶オーレ帝国に用があって行ったら、ザ・ムー原人に捕まっちゃいました。現在はそのザ・ムー原人の国にいます。城内の牢屋に入れられています。この牢屋は水戸黄門感があります。大江戸捜査網感もあります。ちなみに死刑の可能性もあるそうです。助けてください」
いちおう送信されたみたいだったけれど、これを読んでもおそらく義姉は冗談だと思うだろう。
誰だってそうだ。
四時間後、食事がはこばれてくる。
チロルチョコ一個である。
「あんまりですよ」
「つべこべいうな」
ぼくはチロルチョコを食べる。
「なんか不安になってきたな……楽観的にかんがえよう」
しかし悪いことしか、かんがえられなかった。
「スマホは充電を減らしたくないし、本でももってくればよかったな」
ぼくはリュックに「五十路の女たち」が入っているのを思いだした。
「とりあえず、あの写真集でも鑑賞するか」




