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その五十七
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「いえいえ。では、わたしはこれで」
ぼくが駅のほうに向かうと、女性は、
「ちょっと待ってください。お礼にお昼ごちそうします」
といってきた。
「ありがとうございます。でもわたしは、この国の食べ物がいったいに苦手でしてね」
「わたしもです。だから、闇レストラン行きましょうよ」
「闇?」
「ええ。この国には、禁酒法時代の酒場みたいなところがあるんです」
「もしかして、肉とか魚とか」
「正解です。けっこうおいしいですよ」
栗色の髪の女性がこういってくれたので、ぼくは食事をごちそうになることにした。
食べ物に惹かれたわけではない。
祖国にもどれば、うまいものはいくらでも食べられる。
じつはこの女性にぼくは惹かれたのだ。
愛さんよりはすこし大きかったけれど、それでもシャミーくらいの身長だったのである。
つまりぼちぼち小柄だったのだ。
そして華奢だったのだ。
「これだから戸賀先輩に〝女好きチャンピオンって、いわれちゃうんだよな」
この女性は髪の色でもだいたい見当はついたが、やはり抹茶オーレの人ではなかった。
なんでもマロンオーレ帝国というところの方らしい。
「理恵アンダーソンです」
「新倉三千世です」
アンダーソンさんが連れて行ってくれたいわゆる闇のレストランはジビエ料理、なかでも熊肉がとくにおいしいとのことだった。
「熊肉お嫌いでしたら、またちがうお店にしますけど」
「いや、とくべつ嫌いじゃないですよ」
「いらっしゃい」
「ども」
ぼくたちはテーブル席に通された。
まず水が出てくる。
例のまずい水である。
アンダーソンさんは熊肉定食を注文するというので、ぼくもおなじものにする。
やがてその熊肉定食が出来上がってきた。
「おお、うまそうですね」
「いただきましょう」
「あっ、そうだ」
ぼくは新田の駅前で買った天然水を思いだした。
大きいマスクにゴーグルメガネの店員さんに、
「持ち込みの水、飲んでもいいですか?」
と念のため、たずねてみる。
「ご自由にどうぞぉ」
「すいません」
問題ないようである。
これでまずい水を飲まなくて済む。
ぼくはリュックからペットボトルを取り出す。
「おい、おまえ!」
すると突然、ぼくはうしろから首根っこをガシッとつかまれた。
「ちょっとコイツ、事務所連れて行け」
リュックをからだのまえにかけていたぼくはその状態のまま、二人のバカデカい男たちに両腕を押さえつけられた。




