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その五十四
〈うなぎ食堂〉でたぬきそばの食券を二枚買い、自宅にもどる。
帰りがてらにシャミーがリクエストしてきた晩飯の材料を買う。
ぼくのきょうの歩行距離はすでに二十二キロを越えていた。
今朝方ぼくに脅しをかけてきた水分様もグリコーゲン様もこちらの誠意を認めてくれただろう。
もうじゅうぶんである。
というか誠意みせすぎである。
とりあえずシャミーに緑色のリコーダーを渡す。
「この笛は、こう使うんだよ」
ぼくは壺をバッグから出した。
「レッドスネーク・カモン」
リコーダーをデタラメに吹く。
「キャオ」
やはりおもちゃ然とした例の赤いヘビが、壺から顔を出してきた。
成功である。
「スローダウン」
赤いヘビは壺にもぐった。
「おもしろいね。おもちゃ?」
「ちがう。これは威嚇用のアイテムなんだ」
シャミーもぼくとおなじように、
「レッドスネーク・カモン」
といったのちに緑色のリコーダーをデタラメに吹いた。
「あれ……」
しかし壺から赤いヘビは顔を出してはこなかった。
これは誰でもできることではないようだ。
「シャミー、グリーンスネークでやってみな」
「グリーンスネーク・カモン」
「出てこないな」
「新倉さん、やってみて」
「グリーンスネーク・カモン」
「あっ」
壺から緑色のこちらもおもちゃ然としたヘビが顔を出す。
「グリーンも成功だ」
「すごーい」
「スローダウン」
チャイムである。
来客は丸先輩であった。
「新倉くん、真壁さんていう、本売ってる人、知ってるだろ」
「真壁さん――ああ、はいはい、知ってます」
「きょうおれ、青空市で真壁さんと隣になってさ」
「へー」
「それで、そのうち新倉くんの話になってさ、これ渡してくれって頼まれたんだよ。おれももらったんだけど」
真壁さんがぼくと丸先輩にくれたものは〈三途の川〉の無料券だった。
〈三途の川〉とは健康センターのことである。
宴会ホールでのショーもぜんぶ込み込みのチケットだった。
「わざわざ、すみません」
「いや、いいよ――あのさ」
「ええ」
「プリントゴッコくん、来てないよな」
前幕でもほんの少しだけ触れたが、プリントゴッコ氏というのは雑誌をつくっている人である。
このプリントゴッコさんがぼくになっちゃんオレンジをときどきくれるのである。
「来てないですよ」
「そう――だったら、いいんだ」
「どうしたんですか?」
「ん」
「またケンカでもしたんでしょ」
「まあ……じつはちょっとな」
「ゴッコさんは思い込みが激しいだけなんだから、そのあたり、わかってあげなくちゃダメですよ、先輩」
「うん……」
「あっ、そうだ」
ぼくは丸先輩にレッドスネークを披露してみることにした。
「レッドスネーク・カモン」
「おお、なんだこれ」
丸先輩はおどろいていた。
「プリーズ、威嚇」
レッドスネークはお口をパクパクやって丸先輩に噛み付くしぐさをした。
「怖いなー、なんとかしてくれよ」
「スローダウン」
威嚇成功である。
このアイテムはぼちぼち護身用として使えそうだ。




