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その四十五
アディダスの大きいカバンとペットボトルのジンジャーエールをもって、はなれにもどる。
シャミーはきょうも親父の商売の手伝いをするらしく、出かけようとしていた。
「シャミー、お昼は?」
「おとうさんとおそば屋さんに行く」
「そっか」
「いってくるね」
「うん。わるいな」
アディダスのバッグに下着類を詰めていると、来客である。
「あれ、めずらしい人が来た」
「お住いに伺うの、初めてね」
笠戸さんである。
「まあ、どうぞどうぞ。狭いですけど」
笠戸さんはこれから戸賀先輩の製作所に行くとのことだった。会いたくないなどといっていたが、やはり戸賀先輩のことは敬愛しているのだろう。
「旅館の割引、ありがとうございます」
「いつ行くんですか」
「あした」
「あそこはね、わりと食事はいいですよ。温泉はどうなんだろうなぁ。なんかあれは普通のお湯って感じだけど」
「わたし、絵を描きに行くんだもん」
「ああ、そうですね。温泉メインじゃないもんね」
「船に乗るの、楽しみだわ」
「向こうに行っても、釣りの船みたいなの出てますよ」
きょう戸賀先輩は〈きなこ神社〉でのバザーに出店するらしく、笠戸さんはその手伝いをするためにお茶も飲まずにすぐ帰ってしまった。
「ああ、このコート、もう二年くらいクリーニング出してないな……愛しの愛さんと出かけることを想定して、いまのうちに出しておくか」
このようにタンスを物色していると、またぞろ来客である。
若尾ふみ似の例の御婦人がお菓子の詰め合わせを持参して、先日の茶の湯の値段をたずねてきたのだ。
「値段なんかないですよ」
「でも、それじゃ……」
「ちなみに美人局的なことはないですよね」
「なくてよ」
「よかった」
「心配されてて」
「ええ、ちょっと」
とりあえずぼくは御婦人にあがってもらう。
「紅茶でいいですか」
「はい、すみません」
すこし世間話をする。御婦人の名前は春代さんだった。春代さんはどうも未亡人らしい。
「春代さんか……」
「あら、新倉さん、お気に召さなくて」
「いえいえ、そんなことないですよ」
「〝ふみ〟だと思ってらして?」
「え、どうしてですか?」
「だって、このあいだのとき、そういいながら動いてらしてよ」




