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その四十
「もう、茶の湯は……」
「茶の湯の方ですね、どうぞどうぞ、もう連日ガンガンにやってますよ茶の湯は、はい」
スパークである。大激震である。茶の湯のことでたずねてきたのは、一度だけKの森総合公園でお見かけした、かの若尾ふみ似の御婦人だったのである。
御婦人は和服を着ていた。茶の湯感がたいへんなことになっていた。色気も当然たいへんなことになっている。
近くでみると、なんだかんだ四十は確実にすぎているようにみえたが、そんなことは何の問題もなかった。なぜならば、これはすでに述べさせていただいているけれども、わたくし新倉三千世は二十歳の生娘と五十歳の後家ならば迷わず後者を取るタイプのジェントルマンだからである。
「年上の女性がお好きでらして?」
「そうなんですよ。コンテンツ的にも五十前後のものが圧倒的に多いんです」
「こんなおばさんを喜ばすためにいってるんでしょ」
「ちがいますよ」
「じゃあ証拠みせてくださる」
「コンテンツをですか?」
「ええ」
若尾ふみ似の御婦人は本気でせがんできたので、ぼくはノートパソコンを開いて、いくつかコンテンツを見せた。御婦人はこういう作品は鑑賞したことがないらしく、たちまち顔を紅潮させている。
「わたし、なんだか興奮してきてよ」
「ぼくもあたまのなかは大スパーク状態なんですけど、今回はステキになることをめざしてるんで、このあとの執拗な描写は控えたいんです」
「さらりと書けばよくなくて」
「そそそ、そうですか――それもそうだな。じゃ、せっかくですから」
そんなわけでぼくは御婦人にたいしてスパークすることとあいなった。
「すごくてよ」
「伊藤整が活を入れてくれたからです」
御婦人が帰ったあとも、ぼくのあたまはまだ血がのぼったままだった。お目目もバチバチである。マンモスバチバチである。よく味がしみるようこの時点で晩酌用のおでんをつくったのちに、とりあえず出かけることにする。
無我夢中のままピカチューくんちに行ってみると、ちょうどピカ氏は玄関から出てきた。
「どこか行くの?」
「どこって、ただ昼飯食いにいくだけですよ」
「ああ、そっかそっか」
「新倉先輩、お昼は?」
時計をみると一時をすぎていた。興奮していて昼食を取るのをすっかりわすれていたようである。
「まだ食べてない」
「じゃあ、行こうよ」
「どこ?」
「〈カロリー軒〉」
「ええ……ラーメン屋は嫌だよ」
「じゃあ、先輩の好きなところでいいですよ」
ぼくは、
「〈お食事処松葉〉は?」
と提案した。
「ああ、ぜんぜんいいッスよ」
「決まり!」
「先輩のおごりも決まり!」
「え……うんうん、まあいいや。きょうはおごるよ。きいてほしい話があるんだ」
「ああ、山城先輩と研究してる激安日本酒の話でしょ。このあいだも一人でずっとしゃべってましたよ、拓也殿は」
「そのことじゃないんだ。ピカチューくんの専門分野のことだよ」
「これですか?」
ピカチューくんは小指を立ててこちらに見せてくる。ぼくはコクリとうなずいた。




