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その三十七
シャミーが二十二時すぎにようやく帰ってきたのはなんとなくおぼえている。しかしその前後はほとんど記憶になかった。
これは序盤から交互飲みを敢行していたからだと思われる。それと和泉さんに騙された可能性がいよいよ高くなっていたので、きっとぼくは自分でも気づかぬうちにやけ酒ぎみにハイペースで飲んでしまっていたのだろう。
今朝の体調の悪さは自業自得である。今後ブラックニッカと蔵シリーズの交互飲みは控えることにしよう。
ゆうべの食器はすべてきれいに片付けられていた。
シャミーは料理はできないけれど、片付けと掃除は得意なのである。移動スーパーの寮でも食器洗いの係をやっていたらしい。
「新倉さん、だいじょうぶ?」
「うん、昼すぎれば、なんとかなるだろう」
「わたし、ハローワーク行ってくるね」
「うん……あっ、シャミー、昼飯なんか食べたいものあるか?」
「オムライス」
「オムライスな。普通のやつでいいんだな」
「うん」
シャミーは、
「家のカギって、やっぱり縁台の下だよね」
と確認したのちに出ていった。
さて、まずは水分補給と長風呂である。なっちゃんオレンジのペットボトルで青汁をシャカシャカつくってがぶ飲みしたのちに熱い湯に浸かる。
「ん! 今回は思ったより回復早いな」
ぼくは再朝寝作戦を中止にして遅めの朝食を取ることにする。
今回はあえて雑炊ではなくサンドイッチを食べる。たまごサンドイッチである。コーヒーを青汁同様にがぶがぶ飲んでおきたいからだ。
以前試食スター氏におすすめされて買ったインスタントコーヒーを大きいマグカップで三杯ほど飲む。
二日酔いのときは、とにかく水分補給をしまくることである。わたくし新倉三千世はこの作戦により幾多の困難を乗り越えてきたのだ。
シャミー用のオムライスをつくったころには体調はすっかりよくなっていた。
「そうだ」
とりあえずぼくは和泉さんが借りていた自転車を返しに行くことにする。
サドルを上げて乗りやすいように調整したのちに戸賀先輩の製作所に向けて出発する。
「ごめんくださーい、ごめんなさい」
「おお」
戸賀先輩はソファーに横になっていた。
「新倉くんのその『ごめんくださーい、ごめんなさい』って、何なの」
「小津の映画でこういうの、あるんですよ」
「新倉くん、小津安二郎好きだからな」
「これ、どうしたんですか?」
ぼくは横倒しになっている等身大の蝋人形について、たずねる。
「それは失敗」
「片付けないんですか」
「あとでどこが悪いか、わかるかもしれないから、ぶん投げてあるんだよ」
「そういうものなんですか」
「でも、これはたぶんダメだな……あっ、コーヒー飲む?」
「はい、いただきます」
「紅茶もあるよ」
「じゃあ、紅茶いただきます」
ぼくは紅茶を飲みながら戸賀先輩に和泉さんが国に帰ったことを伝えた。二百万のことは伏せておいた。
「お袋、どっちみち乗らないから、まだそっちで使っててもいいけどね」
「そうですか――」
ぼくはシャミーが乗るかな、とも一瞬かんがえたけれど、かなりガタピシ感のある古い自転車なので、必要なら買ってやろうと思って、再度お借りするのはやめておいた。




