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その三十二
いつものように〈Kの森総合公園〉まで徒歩でおもむく。芝生広場では、市民が自由に店を出せる例の青空市が開催されていた。とりあえず覗いてみる。
このバザーはこの公園でもちょくちょくやっているし、〈きなこ神社〉でもしょっちゅうやっているし、あとK市立図書館のフリースペースなどでも、たまにおこなわれているのである。
「手作りクッキーか。売ってる子、小柄で超かわいいけど、でも甘いものは太るからな……」
きょうの青空市には丸先輩も戸賀先輩も出店していないようだった。ぼくは市をざっとひとまわりしたのちに里山ゾーンに向かう。
戸賀先輩という人は女性と話すのが苦手なのだが、最近バザーに出るときは、よく笠戸さんという女性に手伝ってもらっている。笠戸さんはもともと森野さんの友だちで、やはり画家である。
戸賀先輩は絵も描くけれど本職は蝋人形の制作である。笠戸さんは森野さんの紹介でその蝋人形を購入した。で、それがきっかけで、バザーを手伝ったり、絵を習いに行ったりと交流するようになったわけなのだ。
和泉さんは一時期茶の湯で儲けようとしていたのだが、最近はそれが非現実的な手段だとわかったのだろう、先の画家たちのように青空市で絵を売ろうとしているようである。
茶の湯は秋の終わりまで戸賀先輩たちがチラシを配って宣伝していたので、いまでも問い合わせにくる人はぽつぽついる。
和泉さんはたいてい日中は義姉の実父邸か丸先輩のアトリエにいるので、その応対は、
「すいませんね、茶の湯、もうやってないんですよ」
といつもぼくがしているのである。だが一度だけ試食スター氏が、
「抹茶、試飲できるかなと思って、来たんだけど」
と問い合わせに来たときは、さすがにぼくも、
「あはははは、わかりました」
と笑ってしまって――だからそのときだけは、安里さん作の茶器を棚から出して試食スター氏のために青汁をシャカシャカつくったのであった。
里山ゾーンの登り降りを繰り返しているときに、
「ん! クッキーはシャミーにくれてやればいいか」
と思いつく。さっきの小柄でマンモスかわいいクッキー売りの子にまだ未練があったからである。
「シャミーはプリン好きなんだから、クッキーもよろこぶだろう」
こう思いながらぼくは芝生広場に引き返していった。だがしかし、
「いや、でもやっぱり、こんな目移りしてちゃ、ダメだな。コンコン」
とあたまにかわいくゲンコを二個お見舞いして、ふたたび里山ゾーンを登ることにした。
義姉も山城さんも、ぼくと和泉さんはいずれ結婚するものと思い込んでいる。いっしょに住んでいるのだから、まあ無理もないのかもしれない。
しかし、シャミーもそうだが、和泉さんはぼくにとってはじっさい若すぎる。
わたくし新倉三千世にとっては四十前後、若くても三十五、六の御婦人のほうが若い娘たちよりもグッとくるのである。
つまりである。先のように目移りする自分をコンコンと戒めたのは、愛さんを想ってのことなのだ。ぼくは秦野愛さんを娶りたいと強く希望しているのである。
ぼくはシャミーが好きなクリームが乗っているカスタードのプリンを買うために、いつもより若干早めに公園を引き上げてスーパーに向かった。




