第二幕 31
第二幕
その三十一
義姉の実父氏が肉を爆買いしているところは移動スーパーではない。この情報を最初に提供してくれたのは試食スター氏である。
「D地区の〈肉肉Kの森食肉卸売センター〉っていうスーパー知ってる?」
「いいえ。知りません」
「そこで、まとめ買いしてるんだよ、あのお爺さん」
義姉の実姉が自分のお父さんに、
「なんでそんなに買ってるの?」
と問い詰めると、
「むかしの同僚がそこで働いているからだよ」
と実父氏はこたえた。元同僚はそのスーパーでカートの片付けをやっているという。
「カート係の人だったら、肉の売り上げとか、関係ないでしょ」
「でもむかし、けっこう世話になったからさ」
義姉の実父氏は二人の娘にいくら注意されても肉類のまとめ買いをやめなかった。むしろエスカレートしているくらいである。
売り場のべつの店員が話好きだから通っているという説もあるが、真相は未だ謎である。
「ねえねえお姉ちゃん、もしかしてお父さん、認知症なのかな?」
「それは違うと思うわよ。なんでもおぼえてるもん」
先のような事情により、娘たちは定期的にその肉類を自宅に持ち帰るなり親類に配るなりするようになっている。定年後の実父氏はどんどん偏食になって、こんにちでは鶏肉以外食べないからである。
きょうぼくは、またぞろ義姉より牛肉をいただいた。
「三千世くん、これぜんぶ食べてくれる?」
「いいんですか! やったー! マンモスラッチー」
ぼくはこのようにいつも大げさによろこんでいるので、義姉がぼくに肉をおっつけてくる頻度は確実に増えているのであった。持ちつ持たれつである。積立である。
とはいえ……である。わたくし新倉三千世は常日頃太らないようにかなり気をつけている人間なのだ。
毎日ジョギングかウォーキングをし、日々のお食事もPFCバランスにぼちぼち注意を払いつつ献立を決めているダイエッター系小柄熟女大好き紳士なのである。
肉はもともと好物である。近年も健康を考慮して、ある程度意識的に食べている。
しかしそういう類の紳士なので、そうそうひんぱんに、しかもこんなに大量に肉を摂取するわけにはいかないのである。
そんなわけでこのたびもぼくは、シャミーに食べるのを手伝ってもらうことにした。
シャミーは若くて食欲旺盛だからである。和泉さんはきょう義姉の実父邸に泊まる日なので都合もいい。
「そろそろ飲み会よろしく」
これはそれを意味するメールである。シャミーは、
「今晩行きます」
とメールを返信してきた。
「いきなりシャミーとか書いてますけど、いったい誰なんですか、新倉さん」
「ああ、そうでしたね――髪が緑色のあの子ですよ、山城さん」
まえの章に記させていただいているが、旧大伯母邸にお釣りを届けに来てくれたあの日以降、ぼくはこんな感じで例のエメラルドグリーンの娘と交流している。この交流はかれこれ三ヶ月ほど継続されているのであった。
「今晩は牛鍋にしようかな」
先週いよいよコタツをフル装備でセットした。冬も本格的になってきたのである。
ちなみにシャミーは料理がまったくできない。練習する気はたしょうあるようなのだが、包丁をもつ手つきがあまりにもあぶなっかしいので、わたくし家主はいっさいやらせないようにしているのである。
ぼくはシャミーが仕事帰りにこちらに来た前回の時間ちょうどに牛鍋が出来上がるよう段取りをかんがえつつ、
「まだまだ時間に余裕あるな」
とウォーキングに出た。




