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その二十八
十一時すぎまで秦野邸で飲んだのちに徒歩で自宅にもどる。
「もう遅いから泊まっていけば」
と愛さんはいってくれたが、とりあえず今回は紳士的に振る舞っておくことにした。
飲みすぎていたため、全開になる自信がなかったこともある。納豆の天ぷらをたくさん食べていたこともある。
愛さんとは縁があるという確信はあった。だからまあ、おいおいである。
夜中の三時ごろ一度起きてしまい、それから一時間ほどなかなか寝付けなかったが、つぎに目覚めたときには、
「あれ」
十時ちかくになっていた。結果的にはよく眠ることができたようである。体調もよかった。洗面所で朝の身支度をし、朝食を取る。ご飯である。みそ汁である。アジの開きとハムタマである。
朝飯を食べ終えると和泉さんは食器を片付けようとしてくれたが、ぼくはそれをやんわり断って自分で食器類を洗った。
和泉さんはすでに浴室の掃除も済ませてくれていた。なにもかもやらせては、いくらなんでもわるい。
公園にウォーキングしに行こうか、それとも夕方まで待って軽くジョギングしようかとかんがえていると、固定電話が鳴った。出てみると案の定義姉の実父氏だった。
「またテレビがさ――」
おそらく実父氏は話し相手が欲しいのである。ぼくは「これから行きますよ」といって電話を切った。
「出かけるんですか?」
「うん」
ぼくは和泉さんに事情を話した。
「だったらわたし、行きましょうか」
「いや、それじゃわるいよ」
「ぜんぜんわるくないですよ」
最初は和泉さんに実父氏の相手を頼むなんてとんでもないと思ったが、しばらくすると名案のような気もしてきた。
和泉さんは窓もピカピカにしていたのだ。こちらに気をつかっているのである。
ぼくは例の積立をするために母屋に行き、
「クルマ空いてますか?」
と義姉にきく。
義姉さんは実父氏にまたぞろ呼び出されたことを知ると、
「ごめんね三千世くん。もう行かなくていいわよ。わたし怒っておくから」
と最初はいっていたけれど、
「今回は和泉さんが行くんですよ」
と伝えると、最後はクルマのカギをぼくに手渡してきた。積立成立である。
「和泉さんの迎えは、わたしがするから」
「そうですか」
「そのときお父さんにキツくいっとかなくちゃ」
和泉さんを義姉の実家邸まで送る。義姉の実父氏は和泉さんをみてもまったく顔色を変えなかった。
実父氏はおそらく異性に興味がない。まったく興味がないわけでもないだろうけれど、ほとんど無欲である。すくなくとも異性がいると、とたんにエネルギーがみなぎってくる、わたくし新倉三千世とはぜんぜんちがうように思われる。
和泉さんは事前に指導したとおり、義姉の実父氏に写真のことをたずねていた。
実父氏は例によって半透明のボックスからお気に入りのポートレートを取り出すと、和泉さんに得意になって解説をしはじめる。
「じゃあ、おとうさん、ぼくきょうちょっと、オールイングリッシュムッシュの会合があるんで、帰りますね」
「あっ、そうなの」
「和泉さんに写真のこと、いろいろ教えてやってください」
「うん、わかった」
ぼくは和泉さんを残して義姉の実家邸を出た。
「あっ、いけない、若尾ふみの写真、吟味するのわすれた。コンコンと二個お見舞いしなくちゃ」




