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その二十二
「あの青汁は買ったんですか?」
翌朝ココアを飲んでいると、和泉さんはこうきいてきた。
「もらったんだよ」
ぼくは経緯を話す。
「一つはチュツオーラ製菓の青汁ですね」
「あっ、そうだった――青汁もつくってるんだ、あそこ」
和泉さんは食器棚の奥にある安里さんより無理やり売りつけられた茶器にも興味をもっていて、朝飯の席でやはりたずねてくる。
「じゃあ、ぜんぜんつかってないんですか?」
「まったく。邪魔なだけだよ」
「わたしに貸してくれませんか」
さて、和泉さんが青汁や茶器に注目しているのは、つぎのようなことがあったかららしい。
きのう和泉さんはテレビのラックに無造作に置かれてあったDVDを観た。ぼくが長年鑑賞している若尾ふみ主演の映画である。
映画のなかで若尾ふみは茶の湯の師匠を演じている。
「和服が最高なんだよなぁ」
若尾ふみは茶の湯を通して経済力のある男たちとお近づきになり、最終的には五、六人のお偉方からガンガンお金をもらっていい思いをする。もちろん茶の湯以外にもいろいろ奉仕しているからである。
和泉さんはこのガンガンお金をもらっているところに目を光らせた。カカーニエンの直行便に乗るのにお金が必要だからである。
「わたしまずは、その青空市で茶の湯を開きたいと思ってるんです。茶器もあるし、カセットコンロもあるし」
「うんうん」
「で、映画のなかで若尾さん、緑の粉みたいなのシャカシャカやってるでしょ」
「うんうん」
「だから、このチュツオーラ製の青汁で、わたしシャカシャカやろうかと思って。新倉さん、大伯母様の特権引き継いでるから、超割引価格で買えるでしょ、青汁も」
「なるほどね」
若尾ふみは茶の湯で儲けたわけではなく、男たちにいろいろナニしたからこそ貢いでもらえたわけだが、ぼくはこの場ではそのあたりは指摘しないことにした。
和泉さんはお目目を輝かせていたので、頭ごなしに否定するのもどうなんだろうと思ったからである。
朝食を食べ、洗濯物なども干してしまうと、
「青空市のこと、問い合わせてきます」
と和泉さんは役所だか図書館だかに出かけていった。ぼくは待機である。
十時ごろまで本を読んだり音楽を聴いたりして過ごす。得意の過ごし方である。
やがて丸先輩がチャイムを押してきた。
「つぐみッチに、絵、渡しておいたから」
義姉の名前はつぐみである。義姉と丸先輩とは同級生である。
「丸先輩、青汁飲みますか」
「うん、一杯もらうか」
「どっちがいいですか?」
「うーん、じゃあ、ヤクルトのほうにする」
「アイスとホット、どっちがいいですか?」
「どっちがうまいの?」
「ホットのほうがうまいですよ」
「じゃあ、ホット」
ぼくはふと思いついて青空市のことをきいてみる。
「おれはしばらくやらないけど、戸賀があした出店するよ。公園のほうでだけど」
「戸賀先輩にきいておいてもらえませんかね。となりで茶の湯やっていいかって」
「いいけど……新倉くん、茶の湯やるの?」
「いや、ぼくじゃないです。そういうことを希望してる子がいるんです」
「物好きな子もいるんだな」
丸先輩はホット青汁を飲むと、
「おいしいでしょ」
「まあまあだな」
いつものようにむずかしい顔をしていた。




