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その二十一
秦野家での飲み会はあすということに決まった。
お住まいも、
「えっ、近所に〈お気に召すままーと〉あるんですか」
思いのほかぼくのウチとも近い。これなら徒歩で行けそうである。
「新倉さん、すごく嬉しそう」
「森野さんだって、さっきからニコニコしてますよ」
「そりゃそうよ。丸さんの絵が売れたんだもん」
クルマに絵画を積み込んでいた丸先輩と娘さんがもどってきた。
娘さんはまたぞろぼくのほうにちかづいてくる。
「そういえば、お名前きいてなかった」
「そうでしたね。新倉三千世です」
「秦野愛です」
「愛さん……」
「新倉さん、すごい熱量でわたしのこと、ガン見してる」
「あはははは、見惚れてたんですよ」
「うまいこといって」
ぼくも帰ることにする。
「丸先輩、じゃあぼく、そろそろ失礼しますね」
「うん、ありがとな。あしたにでも実家のほうに作品もってくから」
帰り際に公園でウォーキングしようかともちょっと思ったが、和泉さんが待っているのでまっすぐ旧大伯母邸にもどる。
「きょうの有酸素運動はこの自転車の往復で良しとするか」
自転車を駐め、玄関の戸を引く。
「あれ」
しかしカギがかかっていた。それでも納屋のほうに行こうとすると、
「おかえりなさい」
と和泉さんが玄関を開けてくれた。いちおうカギをかけていたのだろう。
「ただいま。遅くなりました」
「お風呂ですか?」
「うん、入ってから一杯やります」
風呂からあがり、いつものクセで晩酌の用意をしようとすると、
「ああ、そうだった」
和泉さんはすでにつまみをつくってくれていた。コタツテーブルに並べている。
「いやいや、すみません」
「こちらこそ、お金もお借りしたままで……」
和泉さんは心持ち元気がなかった。だからぼくは和泉さんお手製のポテトサラダに、
「うまいなぁ」
と大げさに反応しつつ、そのあたりについてたずねてみる。
「じつはきょう、大伯母様の百科事典をみてて、大発見をしたんです」
「どんな?」
「ピーチオーレ帝国に行く方法です」
「え! 百科事典に載ってたの?」
「はい」
「何なんだ、あの百科事典は……でもまあよかったね。で、どういうふうに帰るんですか?」
「直行便があるんです」
「えっ、羽田とかから?」
「いいえ……南北ヨーロッパの『カカーニエン』という小国です」
「ヨーロッパか……でも、めちゃくちゃ遠くもないじゃん」
「でも時空を超える直行便に乗せてもらうわけですから、いろいろな人に手数料を払わなくちゃならなくて……」
「どれくらいかかるの?」
「少なく見積もっても百七十万くらいかかりそうなんです」
「けっこうかかるな……」
「それでわたし、はたらいてお金貯めようと思って、きょうの午後さっそくバイトの面接に行ったんです」
「どんなバイト?」
「お弁当の配達です。ポストにチラシ入ってたので、訪ねてみたんです」
「和泉さん、免許もってるんですか?」
「いいえ。でも飛行船の免許はもってるので、それを見せたんです。でもそれじゃ、ダメだって……」
「免許いらない仕事にすれば」
「でもどうやら国籍が不明だと、なかなか雇ってもらえないみたいなんです。わたしの場合、時空も星もこの国の方々にとっては不明でしょうから……」
「そっか……百七十……まあ二百万として……うーん、まあ貸せない額じゃないけど」
「それはいけません。なにかお仕事ありませんか?」
「きょう〈きなこ神社〉っていうところに行ってきたんだけど、そこでは定期的にバザーみたいなことやってるんですよ」
「ええ」
「そのバザーで、ぼくの知り合いの人が自分で描いた絵を売っててね、ひとつ五万円で売れたの」
「え!」
「だから、そういうふうにバイト以外で稼ぐという方法をみつけられれば」
「すごーい、新倉さんて、天才ですね」
「あはははは、これで天才かぁ――まあでも、そういう方向で気長にやるしかないのかもしれないね」
「わたし、あしたからがんばります」
両方のお手手をグーにしてそう宣言した和泉さんは、そのあと電子レンジで『くらのすけ』を燗にして、
「おいしい」
と可愛らしく飲んでいた。




