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その十九
蚊がいるので、来た道をもどる。
ぼくは秦野さんに、
「ちょっと、バザー見てきます」
と断って、いったん二人から離れた。じつは早くも飽きていたのである。
青空市では丸先輩が店を出していた。この丸先輩という人は画家なので、ブルーシートの上に数点絵画を展示している。
「丸先輩!」
「おお、新倉くん」
森野さんという女性が丸先輩のお手伝いをしていた。この女性も丸先輩のアトリエでよく絵を描いている。
丸先輩の恋人と思っている人もいるが、以前先輩にきいたところ、
「あの子は絵の同士だよ」
とのことだった。
「売れましたか?」
「まだ一枚も売れてない。森野くんのは一枚売れたけど」
その森野さんが、
「新倉さん、買ってよ」
と腕にからんできた。
「でも、このバーテンダーの絵ならホントに買ってもいいな」
「絵の女がかわいいからだろ」
「あはははは。でも、それだけじゃないですよ」
ぼくは一万円札を渡した。
「でもぼくきょう、自転車でここに来たんで、絵は今度先輩のアトリエに取りに行きますよ」
「いや、それじゃ、わるいよ。おれもってくよ」
「そうですか」
「住まいのほうでいいんだろ。実家じゃなくて」
「ああ、実家のほうがいいかな。もうあのはなれには絵飾るところないから」
「それもそうだな」
丸先輩のアトリエにぼくはときどき遊びに行っている。おもしろい人たちがたまに集まっているからである。
「そういえばお昼まえ、山城くんも来てくれたんだ」
「じつはわたしの絵を買ってくれたのは山城さんなの」
森野さんはチラリと丸先輩を見ていた。
「山城くん、物凄い勢いでおれのところに直進してきて、『丸先輩、きき酒師の知り合いいませんか』って、きょうはいきなりきいてきたんだよ」
「あはははは」
「新倉くんのことも、なんかいってたな。もごもごいってて、あんまりよく意味わからなかったんだけど」
ぼくは「くらのすけ」と「蔵そだち」と「蔵だより」と「蔵人三代」の四天王にまつわる一連の経緯を丸先輩におしえた。先輩は、
「なるほど、そういうことだったのか」
となぜか感心していた。
「でも、ホントに知り合いにいませんか、きき酒師」
「おれにはそういう知り合いはいないけど、安里さんなら誰か知ってるかもしれない」
「安里さん、アトリエに来てます?」
「いや、最近は来てない。でもそろそろ来るだろ」
「会ったら、きいておいてくださいよ。いちおう」
「うん、わかった」
安里さんは絵も描いているが、本職はおそらく陶芸である。
ちなみにぼくも丸先輩も何度か安里氏に陶芸品を売りつけられている。前回の〝おっつけられ〟のさい、ぼくは酒を飲むのにいいかなと思って、
「じゃあこの一式、とりあえず全部買いますよ」
と茶器を買った。しかし片手で飲むにはちょっとその茶碗は大きすぎた。だから現在では食器棚の奥からそれを取り出すこともなくなっているのである。




