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その十八
撮影現場の〈きなこ神社〉までは別々に行く。ぼくは自転車、義姉の実父氏は自家用車である。べつにクルマに同乗することを避けたわけではない。帰りのことを考慮すると、このほうが最短で帰宅できるのだ。
「ほら、わすれないうちに、これリュックに詰めちゃいなよ」
「あっ、すいません二箱も。じゃ、遠慮なくいただきます」
きょうの〈きなこ神社〉は恒例の青空市を開いていた。市民がおのおのゴザやブルーシートを敷いて自由に物を売っている。
義姉の実父氏は神社の裏山にいる鳥、もしくは失敗作のように半ば捨てられてある石像だかを今回は狙っているとのことだった。かなり高価そうなカメラ一式をもって、そちらに向かう。
「例の写真仲間の方、待ってなくていいんですか?」
「裏山で待ち合わせてるんだ。たぶんもう写真撮ってるんじゃないかな」
秦野さんとおっしゃる写真仲間の方は、実父氏の予想通りすでに裏山にまわって望遠鏡でなにかを見ていた。娘さんの姿はみえない。
うすうす感じてはいたけれど、やはり実父氏にハメられたようである。
義姉の実父氏が声をかけると、秦野さんも手をあげ、そしてぼくのほうをめずらしそうに見る。
「あれ、藤原さん、息子もいたんだ」
「いや、息子じゃないんですよ。下の娘の旦那の弟なんです」
「はじめまして秦野さん、新倉です。きょう一日、アシスタントを務めさせていただきます」
「藤原さんも出世したもんだね」
「秦野さんみたいに助手が付くんですからな」
三人は笑った。
「秦野さん、ホントに助手いるんですか」
「カメラの助手じゃないけどね」
「お仕事の」
「うん、まあそんなとこだね」
「おお、きょうの石像、ちょっとしょげてて哀愁あるな」
義姉の実父氏はさっそく石像を撮り始める。
「よし! きょうはこれに集中しよう」
「わたしは、もうちょっと奥に行って、木を撮ってくるよ」
「秦野さん、このまえみたいに転ばないでよ。足もと気をつけてね」
「若い人がいるから大事ないよ」
「三千世さん、ホントに付き添ってやってくれないかな、あの人、たまに無茶するんだよ。自分じゃ若い気でいるから」
実父氏の根回しである。ぼくは了承した。
「じゃあ秦野さん、行きましょうか」
「ええ」
どんどん奥に入っていく。やがて秦野さんは足を止め、ある樹木を熱心に観察する。
「やっぱり、傷んでるな」
「虫ですか?」
「獣――いよいよ出始めたか……」
「そういえば、となりの県でクマが出たみたいですね」
「この裏山にもいるよ」
「ええ! じゃ、早く戻りましょうよ」
「わはははは。冗談だよ。でもクマよりもっとタチのわるいのが潜んでるかもしれないんだ」
「またまたぁ」
秦野さんはしばらく考え込んでいた。
「新倉さん、いま何時ですか?」
「ええと、もうすぐ二時ですね」
「あれ! それ『ノモス』じゃないの。百万くらいするんだよね、その腕時計」
「一見『ノモス』にみえるでしょ。でもよくみてください」
秦野さんはペンライトでぼくの腕時計を照らした。
「あ!」
「ね。ノモスじゃないんですよ。〝エイモス〟なの。バッタもんなんです」
「そうかあ」
「でも、大伯母さんの形見なんで、いちおう着けてるんです」
「義理堅いねぇ」
「いやいや、着けてないと夢枕に立ってくるんですよ」
「わははははぁ、それじゃたいへんだぁ。着けないわけにはいかないね」
夢枕に立つというのは冗談ではない。本当である。そのさい大伯母は、
「その腕時計はつねに身につけていなさい」
と執拗に訴えてくるのである。




