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その十七
義姉の実父氏は唐突に、
「この開けてない青汁二箱あげるからさ、親子丼つくってよ」
とリクエストしてきた。冷蔵庫を覗くと、いちおう食材はそろっている。
「じゃあ、つくりましょうか」
「うん、つくって」
冷凍庫には肉がたくさん保存されてあった。青汁同様、食べもしないのにさっきの髪の毛グリーン女子にそそのかされておそらく買ってしまっているのだろう。
いくら冷凍しているといっても遅かれ早かれ肉は劣化する。もはや一人では食べ切れないように思われた。
「わすれないうちに義姉さんにメールで報告しておこ」
炊飯器にご飯はなかった。お米はどこかときいてみると、パックのご飯でいいとのことであった。
「一人だから炊くのも面倒でね」
「炊くこともあるんですか」
「たまにね」
「すごいですね」
「偉いでしょ」
偉いと褒めると無限ループの状況に引き込まれるので調理を開始する。
「よし、いいだろ」
親子丼はなかなか上手につくれた。得意の自画自賛である。二人で食べる。
義姉の実父氏は木製のスプーンでむしゃむしゃ食べていた。ご高齢の方が食欲旺盛なのはすばらしいことである。
ぼくは実父氏の食べっぷりを褒めた。ぼくより早く食べ終えていたからである。すると実父氏は、
「おかわりちょうだい」
とさらに褒めてもらうためにいってきた。
「もう親子煮はないですよ」
「じゃあ、なんかつくってよ」
「牛丼つくりましょうか?」
「おれ、牛肉嫌いなんだ」
「豚の生姜焼き」
「豚肉も嫌い」
「焼き茄子なら、すぐできますけど」
「うん、それでいい」
ナスを焼き、お茶も淹れてあげる。焼き茄子を食べつつ実父氏は午後の写真撮影の同行も求めてきた。
「いや、午後はオールイングリッシュジェントルマン倶楽部の会合があるんですよ」
「最近知り合った写真仲間の人ってさ、いつも若い女と来るんだよ」
「若い後妻でも、もらったんですかね」
「娘みたい。さっきの写真の女くらいの歳だよ、だいたい」
「三十五、六か」
「三千世さんにちょうどいいんじゃないかな。その娘も独身だし」
「え!」
「写真仲間、きょうもその娘と〈きなこ神社〉に来ると思うよ。でも会合があるっていうんじゃな……」
「ちょっとスケジュール確認してみますね」
ぼくはスマホを取り出して、デタラメにスクロールする。
「あっ、会合はあしたでした。あそこでアポ取って、エビデンスをノンノン、マ・シェールだったからな」
「じゃあ大丈夫かい」
「ええ、行けます」
そんなわけで午後のぼくは、義姉の実父氏の趣味活動のお供をすることとあいなった。わたくし新倉三千世は女子とお話できるチャンスをつねに渇望しているのである。
「あっ、そうだ」
いちおう旧大伯母邸に電話する。和泉さんは固定電話にすぐ出た。
「帰るの、夕方になっちゃうと思います」
「晩ご飯、なにがいいですか?」
「なんでもいいですよ。豆腐とオムレツと、あとなんだろ、サラダ系と……あとガンモでも食べようかな」
「お酒飲まれますか?」
「飲みます」
「じゃあ、お酒のおつまみになるようなもの、てきとうに用意しておきますね」




