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その十六
二杯目の青汁を飲んだあとは、また恩売りの積立活動である。
ぼくは義姉の実父氏の自画自賛の解説にてきとうに相槌をうちつつも粘り強く半透明ボックスに埋もれているかもしれない、かの婦人の写真を探し求めていた。
「おーい、藤原」
一時間くらいそのように捜索していると、やがて誰かが玄関先からこう呼びかけてきた。女子の声である。
「あ」
出てみると、移動スーパーの接客態度がわるいエメラルドグリーンのあの娘だった。お客を呼び捨てとは、このスーパーの教育はいったいどうなっているのだろうか。
しかしまあ令和時代の若い奴らに何をいってもしかたない。ぼくは青汁を今後は定期購入しない旨をこの娘に告げた。
「なんでだよ、買えよ」
「いっぱい余ってるんですよ」
「なるべくいっぱい売りつけてこいって、上司にいわれてるんだよ」
「あいすいませんね。ところでお宅さん、そのハッピ、後ろ前逆ですよ」
「え?」
令和時代の若者はハッピの着方もわからないのだろうか。本来背中にあるはずの「特売」とプリントされた文字が、からだの前に向いてしまっている。
「じゃあ、どう着るんだ?」
エメラルドグリーンの娘はいったんハッピを脱いでぼくに渡してきた。
「こう着るんですよ。着方も話し方もあべこべですな、お嬢さん」
「話し方もあべこべ?」
ぼくはハッピを着せてあげた。髪をうしろで束ねていたので、うなじがよくみえた。生え際まで髪の毛はきっちりグリーンであった。呆れたものである。
「うーん、こうやって着るのか」
エメラルドグリーンの娘は店のクルマのサイドミラーで改めて確認していた。
「ところできのうおまえがきいてきた『蔵だより』の三リットルパックだけどさ、いま働いているところにはないけど、生まれ故郷のスーパーになら売ってるぜ」
「ホント!」
「ああ。どうする? 買うか? 手数料払えよ」
「払う払う。いつ手に入るの?」
「わからん。いつ国に帰るかも決まってないしな」
「そうですか――でもまあ待ちますよ」
「おまえ、ここに住んでるのか?」
「いや、ちがいます」
「じゃあ、おまえの住んでるところに配達したほうがいいか?」
「そうですね。そうしてくれたほうがありがたいですね」
「だったら住所、いますぐ教えろよ」
「あ、はい」
ぼくは娘に手渡された用紙に住所を書き込む。
「じゃあ、田舎に帰ったら買って届けてやるからよ」
「お願いします」
「手数料払えよ」
「はい」
「ふっかけてやっからな。これ、この移動スーパーのチラシ」
「ありがとうございます――ふむふむ、あ、衣類も売ってるんですねぇ」
「下着なんか、けっこう売れるんだぜ」
「パジャマ系は?」
「ああ、パジャマ系もよく出るな。おまえ、わかってんじゃん」
「恐縮です」
「なんか服買えよ」
ぼくは千円のティーシャツを一枚買ってあげた。一万円札を渡す。
「あっ、もうこんな時間だ」
札を受け取ると、エメラルドグリーンの娘は急いでつぎの家に行ってしまった。お釣りはもらえなかった。逆に清々しい気持ちになるほど無礼な娘っ子である。




