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その十五
義姉の実家にお邪魔し、あらためて台所や居間周辺をチェックしてみると、なるほどたしかに青汁の六十袋入りや三十袋入りの箱がところどころに放置されてあった。
青汁のメーカーはまちまちである。ヤクルトのやつが開いていたので、ホットでいただくことにする。
「おお、うまい。おいしいじゃないですか青汁、ねえ、おとうさん」
「まずいよ……」
「お医者さんにアピールするの、レシートなしでもだいじょうぶですよ」
「そうかな」
「血圧手帳とか、ちゃんと計って書いてますか?」
「いや、てきとうに書いて出してる。体温もね」
「機械で計った証拠を提示しなくちゃいけないとか、お医者さんにいわれないでしょ」
「うん」
「だったら、青汁なんて、てきとうに〝飲んでます〟って、いっておけばいいじゃないですか」
「たしかに、それもそうだな……三千世さん、あたまいいな」
「あはははは」
「だから移動スーパー来ても、しばらくは青汁買わないで、いいですよ」
「でも……」
「そもそもぜんぜん飲んでないじゃん、おとうさん。こんなに余ってるんだよ」
「うん……」
「このへんのぜんぶ飲んじゃったら、買ってもいいけどね――しかし二十箱くらいあるのかな、あっ、こっちの部屋にもある」
義姉の実父氏は青汁問題でぼくにこう圧されると、ちょっとしょんぼりしていた。だからぼくは写真のことをきょうはあえて積極的にきいてみる。恩売りである。積立である。
「こないだ傑作撮ってさぁ」
実父氏は急に元気になって、写真をまたぞろつぎつぎとみせてきた。ぼくの行きつけの例の公園で撮った写真も何枚かあった。
「マ・シェール!」
青天の霹靂である。ぼくは冷めてきた青汁を一気に飲み干した。
「おおお、おとうさん、この女の人、ししし知って知ってるんですかぁ!」
「いや、公園にいたから、声かけて写真撮らせてもらったんだ」
まえの章でも記させていただいているが、ぼくは例の公園で三十五、六のころの若尾ふみに似た婦人に一度だけ遭遇したことがある。義姉の実父氏はなんとその婦人を撮影していたのだ。
婦人はおそらく実父氏に指示されたポーズをも快く取っていた。大青天の大霹靂である。
「おおお、おとうさんおとうさん、この女の人のしゃしゃしゃ写真、ほほほ他にも他にも、あああ、ありま、ありませんかぁぁぁ」
「どうかな」
義姉の実父氏は写真をしまってある半透明のボックスをがさごそかきまわして探してくれたが、残念ながら婦人の写真はほかにはなかった。
「公園でその人見かけたら、また撮らせてもらうよ」
「おとうさんお願いしますお願いします! いつですかいつですか、きょうですかいまからですか」
「きょうは午後、〈きなこ神社〉で撮影するんだ」
「〈きなこ神社〉なんか、あんなところで写真撮らなくてもいいですよ。公園行きましょうよ。〈Kの森総合公園〉」
「もう写真仲間と約束しちゃってあるんだよ」
「写真仲間とかいるんですか?」
「うん。最近仲良くなったんだけどね」
ぼくは興奮していた。いくらなんでも興奮しすぎである。
きょう公園に出向いたからといって、先の婦人がいるとはかぎらないではないか。
現にぼくは毎日この公園でジョギングしたり歩いたりしているけれど、その後一度もあの若尾ふみ似の婦人にはお会いできていないのだ。落ち着くべきである。
とりあえずひと息つくことにする。ぼくは青汁の箱からまたぞろスティックを引き抜く。
「アチッ」
「だいじょうぶかい」
「はい……ああ、水でつくるつもりが、またお湯で青汁淹れちゃった」
ぼくは反省するために、あたまにゲンコを二個かわいくコンコンとお見舞いした。




