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その十三
山城さんは終盤に差し掛かってくると、6Pチーズに合う酒はどちらか、という難題をもち出して「くらのすけ」とブラックニッカのロックをも飲み比べていた。
だから山城さんは案の定超大酔っぱらいになっていて、この晩はウチに泊まるしかなかったのだが、普段とちがって和泉さんもいるわけだから、一人一部屋というわけにもとうぜんいかなかったのである。
「じゃあ、おれと山城さんとで、こっちの四畳半で寝るからさ、和泉さん、今晩だけは三畳間で寝てもらえますか? エアコンない部屋で申し訳ないけど」
「この冷風機でじゅうぶんですよ。ゆうべも寒くて途中からクーラー消したくらいなんです」
毎度のことだが、翌朝の山城さんはケロッとしていた。山城さんはアルコールを分解する能力が恐ろしく高いのである。
「新倉さんだって、わたしといい勝負じゃないですか」
「酒が強いのもいいのか、わるいのか……」
「まったくですね……」
山城さんは朝飯も食べずに水だけ大量に飲むと、
「いつもすみません。今後ともよろしくお願いします」
と帰っていった。
「わたしがいるから、遠慮してるのかしら……」
「ちがうちがう、いつもあんな感じなんだよ」
さて、朝食である。
和泉さんはおかか雑炊をつくってくれていた。和泉さんも酒飲みなので、こういう気配りができるのだろう。ふーふーしつつ黙々と食べる。
「あの百科事典、大伯母様のものだったんですか?」
「うん、チュツオーラ製菓っていうところから、プレゼントされたんです」
「豪華なプレゼントですね」
「大伯母さんはね、たしか十歳くらいから、このメーカーの甘酒をずっと飲んでたんですよ。どうも小さいころは病気がちだったみたいでね」
「甘酒は飲む点滴って、いいますもんね」
「そうそう――で、その飲む点滴といわれている甘酒を飲むようになってからは風邪一つひかなくなって、百まで生きたんです」
「すごーい」
大伯母はぼくが物心ついたころには、もうこのチュツオーラ製菓の名誉会員だか特別顧問だかになっていた。
その特権をいちおう引き継いでいるぼくもだから注文すれば、おどろくほど安い値段でチュツオーラ甘酒を購入することができる。
「じゃあ新倉さんは、定期コースみたいなものには入られていないのですか」
「うん。べつに嫌いじゃないんだけどね。ちょっとカロリー高めだから、ここ何年かは止めてるんだ」
朝食のあとの和泉さんは、大伯母のこの百科事典を熱心に読んでいた。百科事典は全編古代文字のような変な記号で書かれているので、ぼくにはまったく読めない。
仏壇を置くのにちょうどいいから専用の棚ごといちおう残してあるけれど、そうでなかったら処分してしまいたいくらい役に立たないものなのである。
めずらしく固定電話が鳴った。出てみると義姉の実父だった。
「三千世さん、またテレビ映らなくなっちゃったんだ」
きのうもうすうす気づいていたのだけれど、おそらく実父氏はテレビのこの程度の操作はわかっている。
それなのになぜいちいちこうやって人に頼るのか――それはつまりご自身が撮った写真をみせて自慢したいからなのである。二時間コースである。
しかしまあ二時間コースでも三時間コースでも、応対しておくだけの意味はぼくにはそれなりにあった。義姉に恩を売れるからである。
現在の生活を継続させていくためには義姉のご支援が今後も必要だ。義姉だけはぜったいに敵に回してはならないのである。
ぼくはだから義姉の実のお父さんに、
「マンモス、ウイ、サー・ムッシュ」
とこのたびも紳士然とこたえたのであった。




