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その十二
お昼すぎにようやく旧大伯母邸にもどる。和泉さんはクリーニング店で引き取ってきたエレベーターガール然とした例の制服にすでに着替えていた。
「おかえりなさい」
「ただいま。制服も着て、準備万端だね」
「ええ。本当にお世話になりまして――あっ、そうめん茹でておきました」
「ありがとう」
ぼくたちはそうめんを食べた。和泉さんは、
「国に帰ったら用立てていただいたお金はすぐお返しします」
とそうめんを笑顔でツルツルやりつついっている。
しかしお昼を食べ終えて午後の一時を過ぎてもいわゆる時空飛行船とやらは迎えにこなかった。二時を過ぎても三時を過ぎてもやはり庭にそれらしき物体は降りてこない。
四時ちかくになると、さすがに和泉さんも、
「もしかしたら、あの方法では緊急連絡は届かないのかもしれない……」
と疑念をいだきだしていた。あたりまえである。
よっちゃんイカがひと袋余っていたので、きのうとおなじ方法でまたぞろ焼いてみたが、案の定、現金なあの猫たちが三匹ほど寄ってきただけだった。
「あっ、また来た!」
よっちゃんイカを食べ終えた三匹の猫たちが散っていくと、ロボット犬が入れ替わるようにベニカナメモチの隙間から庭に入ってきた。
「和泉さん、チャンスですよ」
「ええ……」
和泉さんは乗り気ではなかったが、ぼくに何度もうながされたので、投げやりな感じでロボット犬にお国への緊急連絡を頼んでいた。
和泉さんはかなりがっかりしているようだった。ぼくはとりあえず励ましてみる。
「やっぱり時空がちがうんだしさ、伝達されるまで、たしょうのタイムラグはあるんじゃないのかな」
「いいえ。法律では猫に告げた瞬間から十二時間、遅くとも十八時間以内に当局は動くことになってるんです……」
和泉さんは日が暮れるまで納屋横の縁台にすわって飛行船を待っていたが、けっきょくお国からのお迎えはやってこなかった。
そんなわけでもう一泊、旧大伯母邸に泊まることとなる。
風呂に入ったのちに晩飯の支度をしていると、山城さんが酒やらつまみやらをたくさん持参してたずねてきた。
「とりあえず今夜は、三リットルパックの『くらのすけ』と『蔵そだち』に限定して検証しましょう」
山城さんがいうには、この二種の酒は二リットルパックはまったくおなじだけれども三リットルのほうは何かが決定的にちがうという。
「和泉さんもきき酒やってみて」
「わかりました」
和泉さんはまず「くらのすけ」を冷やでやる。
「うーん」
台所でマグカップを濯ぐと今度は「蔵そだち」のほうをまたぞろ常温で飲んだ。
「どうですか?」
「おなじみたいです」
「あはははは」
キュウリの浅漬けを食べつつ両方の酒を交互に飲んでいた山城さんはひと口飲むたびに、
「いやいや、これはぜったいちがう」
と断言していた。しかし和泉さんが追加でつくってくれた卵のあんかけをおかずにしてご飯を食べだしたあたりになると、「くらのすけ」を飲みながら、
「うん! やっぱりこっちの『蔵そだち』のほうが、うまいな」
ともうどっちがどっちだか、あきらかにわからなくなっていたのだった。そしてご飯をおかわりし、それをつまみにさらにピッチをあげたころには「蔵人三代」の二リットルパックを飲んでも、
「なんで三リットルパックの『蔵そだち』だけ、ここまで淡麗にしてるんだろ……」
と味はおろかパックのちがいすらも判定できなくなっていたのである。




