勝つのはどっちだ!?
4
フェアリーリングが、自分に助けを求めている。
「行かなきゃ!」
ひなたは椅子から飛び上がり、自分の部屋へと急いだ。
「桂木!?」
「ひなちゃん!?」
こんなことなら、フェアリーリングをブレスレットにして手につけておけば良かったよ。
俊足を生かし、あっという間に2階への階段を駆け上がり、部屋のドアノブを握った。
勢いよくドアを開けるとーー。
女の子が机の引き出しを開けて、フェアリーリングを取り出そうとしている。大きなつばの付いた帽子を目深に被っているので顔は解らないが、ひなたには気配でわかった。
この前の博物館のあの子だ。
「何してるの、それは私のフェアリーリングだよ」
「あら、あなたが大事に肌身離さず持っていないから、要らないのかな?と思ったの」
「それは…そこなら安全かと」
「これで?全然、安全ではないじゃない」
帽子の下で、クスクスと笑っている。
女の子はひなたが目の前にいることも構わず、フェアリーリングに触れた。
「あっ!!」
触らないで!
ひなたの心の声に反応したかのように、フェアリーリングは小さな竜巻を起こして、女の子を天井近くまで巻き上げた。その間にひなたは引き出しからフェアリーリングを取り出した。巻き上げられた女の子は、一回転しながら見事に着地した。
すごい!
後から来た藤森兄弟も、あまりの運動反射の良さに驚いた。
「桂木みたいだ…」
「そうだな」
いやいや、唖然としている場合じゃない。
ひなたはフェアリーリングを構えて、臨戦態勢だ。
女の子は飄々とした様子でいる。
「さっき、気付くことができたのは、フェアリーリングがあなたに助けを呼んだのね」
「そうだよ。声が呼んでたから」
「そう、対話ができるなら、これ以上のこともできるかしら」
女の子がフェアリーソードを振りかざすと、眩しい閃光を放った。
閃光と共に強風が巻き起こり、3人は吹き飛ばされそうになる。
このままでは吹き飛ばされる。この強風で飛ばされたら、フェアリーリングでも、藤森くん達を守りきれない…どうにかしなきゃ。
ひなたの思いがフェアリーリングに伝わる。
フェアリーリングがブンブンと鳴り、フェアリーソードから発する光と強風を、みるみるうちに吸収した。
「力を吸い込んだ…」
女の子は当然かの様に頷いた。
「やっぱりね」
「やっぱりって?」
「フェアリーリングは大元のアイテムよ。いずれはそれに吸収されるんだから。ソードの力もリングの力の一部なんだから、当たり前でしょうね」
「そういうことか。いつかはフェアリーソードが吸収されるのは知っていたけど、発した力まで吸収できるなんて…」
フェアリーリングをじっと眺めた。
フェアリーリングが言っていた能力はこれだったんだ。でも、まだまだだよ。早くあの子より、もっとフェアリーリングを使いこなせるようになりたい。
「油断…しないことね。私はいつでも、フェアリーリングを狙っているから」
「そうだよね。あなたも使い人になりたいんだった。勝手に人の家に入ってフェアリーリングを盗ろうとしているほどだから」
「あら、あなたも同じことしているじゃない」
「してるけど…」
やってること、同じだけど。
「でも、私はフェアリーリングを正しく使えるように守りたい。絶対に使い手になってやるんだから!まずは、あなたから、フェアリーソードを奪って吸収する」
ひなたは再度、フェアリーリングを構えると女の子に向けて竜巻を巻き起こした。
「そう簡単には奪わせないわ」
女の子は竜巻から逃げるように、部屋の扉から廊下へ出ると、フェアリーソードから、身を切り裂く様な風を飛ばしてきた。
「かまいたち!?」
「桂木、危ないっ!」
「わかってるよ、吸い込んでいく」
風はドレスに触れる間際で、すぐにフェアリーリングに吸い込まれた。
女の子は2階の奥のバルコニーに向かって逃げる。
「まて、まてーっ!」
ひなたが追い詰める。
女の子はバルコニーの扉を開けて、バルコニーの外へ飛び出した。
続いて、ひなたもバルコニーから飛び出した。
ん!?待って、ここ2階だった!
「わーっ!」
ひなたが落下していく。
フェアリーリングから風を巻き起こし、地面へふわりと着地した。
「よし、さすがフェアリーリングの使い手!」
女の子は垣根を飛び越して、外へ逃げて行くのが見えたが、これ以上は追えなかった。
騒ぎ立てることで、パーティーに来ている招待客にフェアリーリングのことを知られてしまう訳にはいかない。
「おーい、ひなちゃーん」
「桂木、大丈夫かー?」
階段を使って降りてきた藤森兄弟が駆け寄って来た。
「うん、大丈夫。あの子には逃げられたけどね」
「良かった…」
蹴斗が安堵して、下を向いた。
急に蹴斗が赤くなり、恥ずかしそうに視線を逸らしている。
「藤森くん、どうしたの?」
「あっ、その…桂木、言いづらいけど」
「ん?」
「ドレスが…」
「ドレスがどうしたの?」
ひなたがドレスを見ると、ドレスの一部が切れて、太ももが見えている。
「ひゃっ!」
ひなたは急いで、ドレスの切れた所を握って太ももを隠した。
「ごめん…見るつもりじゃ…」
「わかってる。あの子を追うので必死だったから、気が付かなかった…。はぁ…これ、絶対にお父さんに叱られる…」
ひなたが涙目になっている。
「俺達も一緒に弁明するよ」
「そうだよ、ひなちゃん。何せ、フェアリーリングが守れたんだから、ドレスが破れた程度なら許してくれるよ」
「うん…ありがとう」
声まで涙声に変わってきた。
藤森くん達、優しいね。感謝します。
ひなたを挟むようにして、藤森兄弟がひなたを邸宅の中まで誘導した。
部屋で予備のドレスに着替えると、すぐさま、藤森兄弟と共に蓬介の所へ行った。
蓬介は一目で、ひなたのドレスが替わっていることに気づいた。
「ひなた、ドレスが替わっているけど、どうしたのかな?」
「あの、お父さん…これには理由が…」
蓬介を招待客から離れた場所まで誘導すると、先ほどの出来事を詳しく説明した。
「そうか。あちら様が狙ってくることもあるんだね」
蓬介が考え込む。
「うん、びっくりしたよ。お父さん」
「あっちは、ひなちゃんに、かまいたちの風を飛ばしてきたりして危なかったんです」
「かなりの能力の使い手なんだね。だから、ドレスが…」
ひなたを見ると怪我は無さそうだ。
「ひなたは怪我が無いようだね」
「うん、これが全部吸い込んでくれた」
ひなたが淡々と答える。
「吸い込んだ!?」
蓬介は呆れて笑っている。
「いやいや、多種多様な能力を秘めているだろうと思っていたけど、そうか…吸い込むのか。ひなたは、さも当然の様に言うけど、すごいことだよ。僕の予想以上に、うちの娘は逞しいね」
「お父さん…」
「安心しているんだよ。ひなたなら乗り越えられる」
「うん、頑張る」
「そうだね、でも、あんまり無理しすぎては駄目だからね」
蓬介はひなたの頭を撫でた。
お父さんに頭を撫でられるの好き。
「あと、さやかさんにはドレスが破れたことをどう説明しようか」
今回、さやかは相当に張り切っていた。ドレスも新調したものだから、破いてしまったと聞いたら、さやかの性格を考えると悲しくて泣くに違いない。
「お母さん、泣くね」
「多分…」
「はぁ…理由も考えないと」
「どう説明しようか」
さやかに、どう説明するのか、親子で悩んでいると、藤森兄弟がひなたの肩をトントンと叩く。
「?」
藤森兄弟がにニヤニヤと笑っている。
「うちの母さん、修復師なんだ」
「えっ?」
「古い洋風のドレスも直せるんだよ」
「桂木のドレスは俺達と遊んでいて破れたってことにしてさ、お詫びにうちの母さんがドレスを預かって、直すよって言ってもらっていいよ」
「ほんと!?いいの!?」
これで、お母さんが泣かずに済むよ。藤森くん達、頼りになるね。
「その代わり、と言っては何だけど…」
「何?」
「桂木、今度、うちの女子バスケの試合に助っ人で入ってくれないか?」
「はぁ!?」
「うちの女子が弱いの知ってるだろ」
「知ってるよ…」
だって、藤森くん目当ての女子が大半だからね。練習より、藤森くんを見てばかりで、充分に練習してないからなんだもん。
「頼むよ。頑張っている子もいて、試合に勝たせてあげたいんだ」
ま、そう言われると、さっき借りも作ったからね。
「うーん、まぁ、いいよ。ちょいちょい、藤森くんファンがうるさいだろうけど。私も借りができたし」
蹴斗は弾けるような笑顔になった。
「ほんと?ありがとう、桂木。感謝するよ」
「うん」
試合中、ひなたをずっと見れることが嬉しくて、蹴斗のニヤニヤが止まらない。
愛蘭は蹴斗の様子見て、肩を組んできた。
「あっ、ちなみにひなちゃん。今度の試合はうちの学校とだから、俺にも会えるね!」
「そうなの!?」
あぁ、また余計に騒がしくなりそうな予感がするよ。
ひなたの気が重くなり、暗い顔になった。
「ひなた、さやかさんには僕が説明するから」
蓬介は様子を察したようだ。
「うん、お父さん。よろしくお願いします」
ひなたの暗い顔が幾分、和らいだ。
「さぁ、また情報収集の続きをしようか」
蓬介がひなたと藤森兄弟の肩を軽く押した。
「そうだね、頑張らなくちゃ」
「俺らも!!」
ひなたと藤森兄弟は、ガッツポーズをして気合いを入れた。
その後ーー。
4人は張り切って、残りのホームパーティーの時間の間、情報収集に勤しんだのだった。
こんばんは、小桜です。今夜も読んでくださりありがとうございます。
次回更新は明後日までを予定しています。
どうぞ、よろしくお願いします。




