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同業者達

男の足音が段々と近づいて来る。


フェアリーリングに力を借りよう。


フェアリーリングを握る手に力が入る。

男は、ひなたの1メートル前に来ると、急に立ち止まった。

ひなたを見つけると、話しかけてきた。

「その格好…」

「最近、あちこちで出没している子?」

男の声は幼く、子供のようだ。


この声、どこかで。


ひなたには、この声に聞き覚えがあった。

「どうして…」

今までひなたは、何かを盗んだりや荒らしもしない。侵入した形跡も残していないのにも関わらず、なぜ自分を知っているのか、不思議に思った。


遭遇したこともないし。


「どうして知っているかって?」

「…」

ひなたは沈黙している。

「俺等が入ろうとしていた先で、君が被ることがあったからさ」

「会ったことない」

ひなたは自分の正体が悟られないように、余計な事を話さず、探り探り会話する。

「気付いてないだろうけど、以前に君が美術館から出て行く姿を、物陰から見ているんだ」


油断してた!


「…」

「そんなに警戒しなくても同業者だしさ」

「同業者?」

「君もあれだろ、今は本物を間近で見たり、触れたりして、いずれは…」

 

この人達…お父さんが話していた、偽物とすり替えちゃう人達だ。


「一緒にしないで」

「じゃあ、何をしてるの?」

「教える必要ない」

すると、もう一人の声が話しかけてきた。

「止めろよ。相手が嫌がってる」

「いいじゃん。それにさ、すっごく可愛い声しているよ」

「…」(嫌な予感)

すると、最初に話しかけてきた子が、ひなたの手首を握ってきた。

「…!!」

「あっちだと、月明かりでお互いの顔が見れるよ」

2メートル先の方で、2階の窓から床に向かって月の光が明るく差している。

ひなたの手をぐいぐいと引っ張った。

「やだ!行かないから、離して」

ひなたも抵抗するが、相手の引く力が強い。

どんどん引っ張られていく。


あぁ、もうダメだ。


とうとう、ひなたは月明かりに顔を晒した。

そして、相手の顔も見えた。

「やっぱりな、可愛い顔してたー」

「…ふ…じもり君?」

「えっ?」

暗闇から、もう一人の男の子が出てきた。

「桂木!? 桂木がどうしてここにいるの?」

「同じ顔が2人?…藤森くんこそ、どうして」

お互いにいるはずのない相手に遭遇し、驚いた。

「ふーん、君たちは知り合いなんだね」

蹴斗とひなたは同時に頷いた。

「あ、言ってなかったけど、俺、双子なんだ」

ひなたは、じっと2人の顔を見比べた。前髪の形が少し異なる程度で、あとは全く一緒の顔だ。


うーん、一卵性双生児ってやつかな。


「そっか、良く似ているなって思った。…待って!今はそんな場合じゃない。早くアイテム探さないと」

すぐに、ひなたは我に返り、アイテム探しを始めた。

展示されている美術品に興味を示さず、美術品を保護しているショーケースの上から、フェアリーリングを数秒だけ翳しては、次の美術品へと同じ事を繰り返している。

「あれって、何しているのかな、蹴斗?」

「知らないけど、桂木にとっては、きっと必要な事なんだ」

蹴斗がちらっと腕時計を覗いた。

「愛蘭、もうすぐ見回りの時間になる」

「そっか。蹴斗、あの子にも教えて撤収だな」

「そうしよう」

ひなたが残り1つで、アイテム探しが終わろうとした時に、蹴斗がひなたのそばに来た。

「桂木、もうすぐ警備員の見回りの時間になる。一緒に出よう」

「ありがとう。でも、ごめんなさい、あと1つで終わるから」

「もう、仕方ないな」

蹴斗は、隣でひなたの作業を見守る事にした。

ひなたが残り1つの美術品にフェアリーリングを翳した。


奥の方から、懐中電灯らしき光が見えた。

「やばい来てるぞ、蹴斗」

愛蘭が2人に小さい声で知らせた。

「よし、終わった!」

警備員が気付いた様子で走って来た。

蹴斗がもうダメだと思った時ーー。


ひなたから眩しい光が放たれた。

瞬間に警備員は飛ばされ、ふわりと床に落ちた。

警備員は気持ち良さそうに寝ている。

蹴斗と愛蘭は何が起きたのか、理解できずに、唖然となり固まった。

「今のうちに行くよ」

ひなたは蹴斗と愛蘭の腕を組むと、フェアリーリングに心の中で飛ばすように命令すると、風が巻き起こり、2階の窓まで3人を運んだ。

「やばい、俺等飛んでる!」

愛蘭が笑いながら叫んだ。

3人は2階の窓から、美術館の外へと逃げた。

「少し離れた所まで行こう」

愛蘭が誘導して、美術館から随分と離れた公園に着いた。

すぐさま、ひなたは蹴斗と愛蘭に背を向けた。

「じゃあ、私、帰るんで」

ひなたが何事もなかったかの様に帰ろうとすると、蹴斗と愛蘭が声を掛けてきた。

「ちょっと待って、桂木」

「さっきの何なのさ」

ひなたは振り返り、肩を竦めると惚けた。

「何の事?夢でも見てたんじゃないのかな」

「ごまかしたって無駄だよ」


ここで2人を眠らせたら、忘れさせる事もできるけど。


フェアリーリングを握りしめて構えた。

「もしかして、さっきの魔法で、俺達の事を眠らそうとしてる?」


ばれてる。


「それもあるかなって考えたけど」

「やっぱり」

「藤森くん達が不法侵入している事だって、ばれたらまずいでしょ」

「そうだね」

蹴斗が腕を組んで考えた。

「へへっ、駆け引きする?」

愛蘭はへらへらと呑気に笑っている。

「桂木ちゃんはどうしたいの?」

「私は…」


お父さんにはフェアリーリングの秘密を誰にも知られてはダメだと言われているし。

でも…。


「私は…私以外に同じ事をしている人がいるって知ってしまったから、なんだか…嬉しい」


ずっと1人で頑張らなくちゃって…


「うん、俺達も同じ事を思っているよ」

「あっ、俺等は2人だったから、まだマシな方かな、へへっ」

愛蘭はおどけた様子で笑いかけた。

「うん、本当は他の人に知られてはダメだよと、お父さんに言われていたけど、藤森くん達なら言わないかなって」

「それって、信用してくれるの?」

蹴斗はひなたに一層、優しい眼差しを向けた。

「うん」

ひなたは頷いた。

「わかった。もし、俺達が裏切ったらさ、さっきの警備員みたいに眠らせてよ」

「うん、わかった。ありがとう」

ひなたから、不安な表情が消え去った。

「やったねー、蹴斗!こんな可愛い子と一緒なら、毎回、喜んで頑張るよ。ちなみに、俺の事は愛蘭あいらくんって呼んでね」

愛蘭は気軽に、ひなたの手を握ろうとした。

蹴斗がその間を遮る。

「桂木にそれ以上は近づかない」

「えっ、じゃあ、蹴斗の彼女?」

「えっ…!? 」

一瞬、蹴斗は否定しないので、ひなたが慌てて全否定した。

「ですよね。俺は、それでも良かったんだけどな」

蹴斗が小声で呟いた。

「藤森くん、何か言った?」

「何も言ってないよ」

蹴斗が横に首を振る。

「今日の出来事は3人の秘密ね。明日は俺が蹴斗の学校に行くから、その時にでも、また話そうね!あの、桂木ちゃんの名前は何?」

「ひなただけど」

「じゃあ、ひなちゃん!よ、ろ、し、く、ね!」

「うん…ははっ」


うわー、面倒くさいのが1人増えたよ。


ひなたが渋い顔つきになっている。

「桂木、ごめん。愛蘭が騒がしくてさ」

「いいよ、藤森くん。じゃあ、また明日ね」

「うん、また明日」

ひなたはインラインスケートに履き替え、家路を急いだ。

いつもより足取りが軽い。

仲間が出来た喜びで、気持ちが軽くなり、一日の出来事による疲れも、いつの間にか吹き飛んでいた。


翌日の早朝、愛蘭はちゃっかりと、美術館の防犯カメラに昨日の様子が撮られてないか確認に行った。

その映像には動く黄色い光しか映っておらず、自分達の姿は全く残っていなかった。

愛蘭は安堵し、ひなたにも報告して安心させようと思ったのだった。



こんばんは、小桜です。今夜も読んでくださりありがとうございます。

昨夜は投稿できませんでしたので、少し長めのストーリーとなっております。

明日の夜は投稿できたらと考えております。よろしくお願いします。

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