同業者達
3
男の足音が段々と近づいて来る。
フェアリーリングに力を借りよう。
フェアリーリングを握る手に力が入る。
男は、ひなたの1メートル前に来ると、急に立ち止まった。
ひなたを見つけると、話しかけてきた。
「その格好…」
「最近、あちこちで出没している子?」
男の声は幼く、子供のようだ。
この声、どこかで。
ひなたには、この声に聞き覚えがあった。
「どうして…」
今までひなたは、何かを盗んだりや荒らしもしない。侵入した形跡も残していないのにも関わらず、なぜ自分を知っているのか、不思議に思った。
遭遇したこともないし。
「どうして知っているかって?」
「…」
ひなたは沈黙している。
「俺等が入ろうとしていた先で、君が被ることがあったからさ」
「会ったことない」
ひなたは自分の正体が悟られないように、余計な事を話さず、探り探り会話する。
「気付いてないだろうけど、以前に君が美術館から出て行く姿を、物陰から見ているんだ」
油断してた!
「…」
「そんなに警戒しなくても同業者だしさ」
「同業者?」
「君もあれだろ、今は本物を間近で見たり、触れたりして、いずれは…」
この人達…お父さんが話していた、偽物とすり替えちゃう人達だ。
「一緒にしないで」
「じゃあ、何をしてるの?」
「教える必要ない」
すると、もう一人の声が話しかけてきた。
「止めろよ。相手が嫌がってる」
「いいじゃん。それにさ、すっごく可愛い声しているよ」
「…」(嫌な予感)
すると、最初に話しかけてきた子が、ひなたの手首を握ってきた。
「…!!」
「あっちだと、月明かりでお互いの顔が見れるよ」
2メートル先の方で、2階の窓から床に向かって月の光が明るく差している。
ひなたの手をぐいぐいと引っ張った。
「やだ!行かないから、離して」
ひなたも抵抗するが、相手の引く力が強い。
どんどん引っ張られていく。
あぁ、もうダメだ。
とうとう、ひなたは月明かりに顔を晒した。
そして、相手の顔も見えた。
「やっぱりな、可愛い顔してたー」
「…ふ…じもり君?」
「えっ?」
暗闇から、もう一人の男の子が出てきた。
「桂木!? 桂木がどうしてここにいるの?」
「同じ顔が2人?…藤森くんこそ、どうして」
お互いにいるはずのない相手に遭遇し、驚いた。
「ふーん、君たちは知り合いなんだね」
蹴斗とひなたは同時に頷いた。
「あ、言ってなかったけど、俺、双子なんだ」
ひなたは、じっと2人の顔を見比べた。前髪の形が少し異なる程度で、あとは全く一緒の顔だ。
うーん、一卵性双生児ってやつかな。
「そっか、良く似ているなって思った。…待って!今はそんな場合じゃない。早くアイテム探さないと」
すぐに、ひなたは我に返り、アイテム探しを始めた。
展示されている美術品に興味を示さず、美術品を保護しているショーケースの上から、フェアリーリングを数秒だけ翳しては、次の美術品へと同じ事を繰り返している。
「あれって、何しているのかな、蹴斗?」
「知らないけど、桂木にとっては、きっと必要な事なんだ」
蹴斗がちらっと腕時計を覗いた。
「愛蘭、もうすぐ見回りの時間になる」
「そっか。蹴斗、あの子にも教えて撤収だな」
「そうしよう」
ひなたが残り1つで、アイテム探しが終わろうとした時に、蹴斗がひなたのそばに来た。
「桂木、もうすぐ警備員の見回りの時間になる。一緒に出よう」
「ありがとう。でも、ごめんなさい、あと1つで終わるから」
「もう、仕方ないな」
蹴斗は、隣でひなたの作業を見守る事にした。
ひなたが残り1つの美術品にフェアリーリングを翳した。
奥の方から、懐中電灯らしき光が見えた。
「やばい来てるぞ、蹴斗」
愛蘭が2人に小さい声で知らせた。
「よし、終わった!」
警備員が気付いた様子で走って来た。
蹴斗がもうダメだと思った時ーー。
ひなたから眩しい光が放たれた。
瞬間に警備員は飛ばされ、ふわりと床に落ちた。
警備員は気持ち良さそうに寝ている。
蹴斗と愛蘭は何が起きたのか、理解できずに、唖然となり固まった。
「今のうちに行くよ」
ひなたは蹴斗と愛蘭の腕を組むと、フェアリーリングに心の中で飛ばすように命令すると、風が巻き起こり、2階の窓まで3人を運んだ。
「やばい、俺等飛んでる!」
愛蘭が笑いながら叫んだ。
3人は2階の窓から、美術館の外へと逃げた。
「少し離れた所まで行こう」
愛蘭が誘導して、美術館から随分と離れた公園に着いた。
すぐさま、ひなたは蹴斗と愛蘭に背を向けた。
「じゃあ、私、帰るんで」
ひなたが何事もなかったかの様に帰ろうとすると、蹴斗と愛蘭が声を掛けてきた。
「ちょっと待って、桂木」
「さっきの何なのさ」
ひなたは振り返り、肩を竦めると惚けた。
「何の事?夢でも見てたんじゃないのかな」
「ごまかしたって無駄だよ」
ここで2人を眠らせたら、忘れさせる事もできるけど。
フェアリーリングを握りしめて構えた。
「もしかして、さっきの魔法で、俺達の事を眠らそうとしてる?」
ばれてる。
「それもあるかなって考えたけど」
「やっぱり」
「藤森くん達が不法侵入している事だって、ばれたらまずいでしょ」
「そうだね」
蹴斗が腕を組んで考えた。
「へへっ、駆け引きする?」
愛蘭はへらへらと呑気に笑っている。
「桂木ちゃんはどうしたいの?」
「私は…」
お父さんにはフェアリーリングの秘密を誰にも知られてはダメだと言われているし。
でも…。
「私は…私以外に同じ事をしている人がいるって知ってしまったから、なんだか…嬉しい」
ずっと1人で頑張らなくちゃって…
「うん、俺達も同じ事を思っているよ」
「あっ、俺等は2人だったから、まだマシな方かな、へへっ」
愛蘭はおどけた様子で笑いかけた。
「うん、本当は他の人に知られてはダメだよと、お父さんに言われていたけど、藤森くん達なら言わないかなって」
「それって、信用してくれるの?」
蹴斗はひなたに一層、優しい眼差しを向けた。
「うん」
ひなたは頷いた。
「わかった。もし、俺達が裏切ったらさ、さっきの警備員みたいに眠らせてよ」
「うん、わかった。ありがとう」
ひなたから、不安な表情が消え去った。
「やったねー、蹴斗!こんな可愛い子と一緒なら、毎回、喜んで頑張るよ。ちなみに、俺の事は愛蘭くんって呼んでね」
愛蘭は気軽に、ひなたの手を握ろうとした。
蹴斗がその間を遮る。
「桂木にそれ以上は近づかない」
「えっ、じゃあ、蹴斗の彼女?」
「えっ…!? 」
一瞬、蹴斗は否定しないので、ひなたが慌てて全否定した。
「ですよね。俺は、それでも良かったんだけどな」
蹴斗が小声で呟いた。
「藤森くん、何か言った?」
「何も言ってないよ」
蹴斗が横に首を振る。
「今日の出来事は3人の秘密ね。明日は俺が蹴斗の学校に行くから、その時にでも、また話そうね!あの、桂木ちゃんの名前は何?」
「ひなただけど」
「じゃあ、ひなちゃん!よ、ろ、し、く、ね!」
「うん…ははっ」
うわー、面倒くさいのが1人増えたよ。
ひなたが渋い顔つきになっている。
「桂木、ごめん。愛蘭が騒がしくてさ」
「いいよ、藤森くん。じゃあ、また明日ね」
「うん、また明日」
ひなたはインラインスケートに履き替え、家路を急いだ。
いつもより足取りが軽い。
仲間が出来た喜びで、気持ちが軽くなり、一日の出来事による疲れも、いつの間にか吹き飛んでいた。
翌日の早朝、愛蘭はちゃっかりと、美術館の防犯カメラに昨日の様子が撮られてないか確認に行った。
その映像には動く黄色い光しか映っておらず、自分達の姿は全く残っていなかった。
愛蘭は安堵し、ひなたにも報告して安心させようと思ったのだった。
こんばんは、小桜です。今夜も読んでくださりありがとうございます。
昨夜は投稿できませんでしたので、少し長めのストーリーとなっております。
明日の夜は投稿できたらと考えております。よろしくお願いします。




