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俺達の文化祭(優陽)

 50話、タイトル通り優陽視点です。


 文化祭の後半(2日目)。土曜日なのもあってか、昨日(1日目)よりも多く通り過ぎていく人の影。

 学級委員の出し物、そのシフトを終え、廊下を歩いていた俺──井口優陽は、ふと物思いにふけって、目先の教室、そのベンチへとそっと腰かける。


「さぁーて、何すっかな…」


 人影の無いそこで仰向けになって、言い聞かせるように呟いてみる。

 ウチのクラスで作成した顔抜きパネル、これが思ったよりも好評で、早くも燃え尽き気味なのは俺だけじゃないはず。…設置場所やイラスト、設計の精密さもあって、パネルの完成度的に当然といえば当然かもしれないけどさ。それ故に、全てが終わった後に空いた時間が長くなるのは、ちょっと精神的にキツイものもある。まぁ、学級委員での仕事があるだけ俺はマシなのかもしれないけどさ。

 …自由時間になったはいいものの、面白そうな出し物は、昨日美優とあらかた回り終えた。去年の文化祭もそうだったが、こうなると2日目は本当に暇になるわけで。だからといって、食べ物系に手を出すのは…こう、昨日食べたアレ(・・)を思い出して、食べられる気がしないんだよな。トラウマになりそう。


 無意識に、懐から出したスマホを弄ろうとして、ふと廊下を歩く人々が、俺の視界にはいる。


 ──明らかに、男女並んで歩く姿が多い。


 文化祭は青春(高校生)のイベントだし、そりゃ雰囲気にあてられるよなとは思う。…そりゃ俺自身も、ほんとはふゆとまわる妄想をしたことはあるし、人のことで言えないけどさ。──いや、美優と2人でまわったから、傍から見れば俺もそっち側なのか?…考えないでおこう。あれはノーカンだ、ただの幼馴染だし普通にあり得る。


 そういや物語とかでは、だいたいカップルに都合の良いジンクスがあるんだよな。後夜祭のダンスを踊った男女とか、ミスミスター〇〇になった人は──みたいなやつ。『俺と幼馴染(ふゆの愛読書)』にも、そういう展開があったはず。


「──ま、関係ないことか」


 自分にそう言い聞かせて、見慣れた天井へと視線を戻す。

 そもそもウチの高校にそんなジンクスは無いし、ミスコンとかダンスとかするイベントも無い。しいて言うなら、担任がクラスだけの後夜祭を主催してくれるくらいか。…まぁ、コレに関しては、この後矢部さんと最終打ち合わせをしなきゃいけないけど。彼女がスライドショーを作ってくれてるみたいだし、大した仕事にもならない…はず。とにかく、そういう意味で考える必要もないだろ。うん。


 まだ半日残っている文化祭。この後の集計とか、そういうのは一旦棚に上げて、俺はひとり、教室で黄昏れる。

 いつだったか、ふゆを意識しだした当時は、高校の文化祭は恋人としてまわる──なんて、そんなことを考えていたっけ。…まぁ、現実は告白の「こ」の字すら、禄に伝えようともしてないヘタレなんだが。所詮、こんなはずではってやつ。

 そこまで物思いにふけって、俺はふと重大な見落としがあったことに、ようやく気付く。


「──保健委員のブース行ってねぇじゃん」


 文化祭中、ずっといないからか、完全に意識から外れていた、委員会ブースの存在。昨日、たしかに放送で聞いたはずなのに、どうして俺達は言っていなかったのか。

 …いや、美優ならふゆがいない時間はわざわざまわろうとはしないだろうし、タイミングが合わなかっただけだろうけど。ずっといないってことは、きっと拘束時間も長いはず。そうに違いない。あぁ。


 思い切って立ち上がり、結局出しただけのスマホを懐にしまい込む。

 ふゆのことだし、準備期間よろしくどっかで寝てるだけかもしれないけど──いや、今はそうじゃない。そうじゃないと信じるしかない。うん。


 パチン、と。自分の頬を叩いて、顔を上げる。妄想なのは分かっているが、シュレディンガーのなんたらってやつだ。やってみなきゃわかんねぇよな。



「よし!」




 ──行かなければ、いつも通りでいられたのに。まだ何も知らない、この時の俺はひとり、また言い聞かせるように呟いて。その教室を後にした。



ーーー




 校舎の角に構えられた、保健委員会のブース。内容はあくまで、健康に関する年間計画?と、それとちょっとした体験だけだったけど。肝心の未冬(ふゆ)の姿は、ついたことには見えなくて。


「あのー…すみません」

「はい?どうかしましたか?」


 受付の女子、どこか上の空な金髪の彼女へと声をかけた。


「えっと、ふゆ─暁さんって、今日のシフトどうなっ──」

「──チッ」

「えっ、舌打ち!?」

「──ぁっ、アハハハは…すみません、えっと、あかつ…副委員長ですねー」


 ちょっと待っててください、と。何処かぶっきらぼうに、貼り付けた笑顔で言葉を並べていく彼女。しばらく手元の紙を見た彼女は、何やらブツブツ呟くと、また貼り付けた笑みをこちらに向け返す。


 曰く、ふゆのシフトは午前中でもう終わっていたらしい。それでも教室に戻っていないのは、体験キットの買い出しとか、校内放送とか、裏方の仕事をずっとやっていたからなんだとか。


「そう、か…すみませんね、忙しいところ声かけたりなんてして」


 彼女にそれだけ声をかけ、流れるように踵を返す。

 振り返ると、改めてわかる人の数。…そりゃ、ずっと拘束されるわ、なんてある意味納得しかけて。不意に引っ張られた袖が、動こうとした足を止める。


「──あの、副委員長なら柳沢先輩…えっと、委員長と一緒に向こうの方に向かいましたよ」


 もしかしたら空き教室にいるかも、と。封鎖された廊下を指差して、静かに語る彼女。

 たしかに、裏方をやってるなら入ることもあるか。なんて、理屈的に納得しかけて、胸騒ぎがそれを否定する。…だからこそ、俺の足は既に動いていて。軽く彼女へ礼を言った俺は、足早にその場を後にする。



 夕陽が差し、橙に染まる渡り廊下。


 ブースが並ぶメイン校舎から離れ、乱立する道具の山を抜けた俺はふと、その足を止める。


 ──間違いない、未冬(ふゆ)の声だ。



「それで柳沢くん。ここに何があるっていうのさ?…あ、もしかして教室間違えた?しょうがないなー、私も一緒に探すから、何探してるか教え──」



「──俺と付き合ってくれ!暁さん!」



 扉越し─で、あるにも関わらず。誰もいないはずの廊下に響き渡る男の声。文脈的に、委員長の柳沢とかいう生徒の声だろう。…というか、もしかしなくても今、ふゆが告白されてるのか?


「──っ」


 別に、悪いことをしているわけじゃない。うん。ただそう…なんとなく、息を殺した俺は、声のする教室の扉へ、そっと背中を合わせると、ワイシャツの胸元を握りしめる。



「ん、んー…?もう終わりなのにまだ買うものとかあったっけ…?あ、打ち上げとかの買い出し?なら──」


「違う!備品とかじゃなくて!…君が好きなんだ!俺と付き合ってほしい!──付き合ってください!」


 再び、廊下に響く男の声。それと同時に、俺の心臓が強く早鐘を打って。いつの間にか乾いた喉が、酸素を取り込もうと必死に藻掻く。


 短くも長い、沈黙。一瞬、世界そのものが止まったかのように錯覚して、主張する鼓動が、それを否定する。

 別に俺が告白したわけじゃない。…から。もしこれで、ふゆがオーケーをしたら?そんな吐血を吐きそうになる妄想が過って、全身が硬直する。


「えっと…備品の整理っていうのは──」

「ない」

「じゃあ、買い出しの──」

「違う!…それは、君を連れてくるための口実で、そもそもそんな不備は無い」

「あ、あはは…は?あの、もしかして私今、柳沢くん告白された…?」



「そうだ暁さん。俺は君が好きだ。だから──恋人として、俺と付き合ってください!」



 再度流れる沈黙。あのふゆが確認するように聞き返したのは、唐突すぎて理解が及ばなかったからなのか。もしくは、鈍感であっても直接的な言葉を前にして、その意図を逆に勘ぐったのか。そんな珍しく、狼狽えた彼女の言葉を否定するように、彼は言葉を断定した。


 嫉妬か、不安か。得体のしれない焦燥感が襲い来る中で。…ただ、今の俺は、ふゆの返事を祈るしかなくて。息の詰まる錯覚をした刹那、何かが落ちた音が、そんな沈黙を断ち切る。



「──ごめん、無理」



「ぇ…?」



 今まで聞いたことのない、冷めきった未冬の声。

 呟いたのは柳沢のはずなのに、自分の首を絞められたような気がして。頬を伝った冷汗が、震える手の甲へと落ちる。


「どうしてだ!?俺達はあんなに好き合って──」


「はぁ…勘違いも大概にしてよ。柳沢くん」


「…っ」


 教室の扉、そこから見える2人の姿。好奇心は猫を殺すとはこのことか。覗き込んだ俺は、そんなふゆの表情を目にして、たまらず視線を──身体そのものを、逸らし伏せる。


「誤解のないよう最初に訂正しておくけど、私は別に柳沢くんのこと好きでもなんでもないからね。私にとってただ話ができる委員会の人…それ以上でも以下でもないから」

「いや、でも──」

「柳沢くんが何を勘違いしてるのか知らないけど…そもそも私、恋愛とか、そういうのは一切するつもりないし。ごめんだけど、私が柳沢くんを…ううん、人を好きになること自体、もう無いかな」


 まるで、周囲を凍てつかせるような、淡々とした声音。

 俺が幼馴染として、たしかに10年以上過ごした日々。…そんな日々を嘲笑うかのように、表情を失った彼女は、そう言葉を並べていて。


「…安心してよ柳沢くん。別に私、言いふらしたりとかしないから。じゃあ、私はこれで──」

「待って!…待ってくれ暁さん」

「…何?」

「そんなに幼馴染の彼がいいのか!?俺が彼じゃないから言ってるだけじゃ──」


「──そんなわけないでしょ。私もユウヤもただの幼馴染。勘違いするだけの人とか、もっと有り得ないから」


 バタン、と。扉が音を立てて、足音が遠退いていく。

 咄嗟に隠れてしまった、隣の部屋の、その扉の裏。バクバクと音を立てる心臓が、脳裏に表情(・・)を浮かべ直して。




 その日の夜。未冬(ふゆ)は後夜祭を欠席した。




柳沢「あの、最初に告白した人が勝つんじゃ──」


作者「あー…それはヒロインだった場合に限りますねー」


柳沢「でもほら、俺は文化祭のムード的に最高な状態で言ったから、もう少し希望を見せても──」


作者「(そんなムードなんて元々)ないです。(ジンクスなんてものは)ないです。(未冬が柳沢に靡くことも)ないです」


柳沢「そ、そこをなんとか…」


作者「(アンタの出番ももう)ないです」(無慈悲)


■「」←柳沢だったもの


 柳沢はここで脱落──っと。_φ(・_・

 多分おろらくメイビー別の誰かが好きになってくれるっしょ、イケメンだし。まぁ続かないと思うけど。


 あ、次回から年末年始編っすね。

 並行して新作も2話目以降作成する予定なんで、そっちもよろしくっす。


作者「(地の文に対して)誰だお前」

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