あたし達の文化祭(美優)
49話、美優視点です。
短めdeath。
───ホントに二人きりになっちゃった。
あたしの脳内で声を上げる、『期待』という名の存在。
時はまたたく間に流れて、気付けば文化祭当日。そんな自由時間の最中、優陽と並んだあたしは、興奮する脳を抑えて静かに息を吐く。
…大丈夫、二人きりなのは今がはじめてじゃない。
あの時、未冬が言っていた決定事項ってやつ。あれを別に、信じていたわけじゃなかったけど。だからこそ、本当に有言実行されるとは思わなかったわけで。
…一体、どんな手品を使ったのやら。そう簡単に釣られた優陽も優陽だと思うけどさ。
彼の横顔を盗み見て、釣り上がりそうになる口元を隠す。
「それで美優、どこから回る?」
あたしの内心など露知らず、呑気にしおりを広げて、距離をつめてくる優陽。さっきまでシフトだったせいか、若干汗ばんだ彼の匂いがあたしの鼻腔を──じゃなくて!
「とりあえず、食べ物系にいきましょ。…これより後だとほら、混んで並びそうだし」
「…それもそうだな」
一拍遅れて頷いて、朗らかな笑みを浮かべた優陽。
それっぽく、ついて出た言葉ではあったけど、どうやら納得してくれたらしい。…まぁ、実際時間取れなそうなのは事実だし、あながち嘘ではなかったけどさ。
兎にも角にも、おおよその行き先を決めて、立ち尽くした彼の手を引く。…ちょっとだけ、大胆かもしれないけど、どのみちもう後には引けない。そう、これははぐれないため。だから、今なら密着したって問題はない。うん。
誰に内心が聞かれるわけでもなく、自分の中で言い聞かせて、あたし達は人混みへ足を踏み入れた。
ーーー
時刻は13時過ぎ。飲食用に開放されている、中庭の一角で、あたし達はどちらともなく息を吐く。
少し早めのお昼ご飯──の、はずだったのに。蓋を開けてみれば、途切れぬ行列があたし達の行く手を阻んでいて。挙句、苦労して買った割高の焼きそばは、量も少なく物足りない。そりゃ文化祭クオリティだし、別に味は気にしなかったけど…気にしないようにしてたけど!
思い出しそうになった口の中を、自販機で買ったジュースで無理矢理押し流す。
「ぅ…まだ残ってる気がする」
「はは…俺も…」
二人して苦情を浮かべ、ペットボトルを空にする。
そもそもこの学校は、飲食物の出し物が少ない!…けど、どこもかしこもコレなら、逆に納得というか。もし未冬が作ってたらこんなことにはならなかっただろうなー…なんて、的外れな考えを、思考の隅に追いやる。
まずい…そう、色々な意味で非常にまずい。
このままじゃ文化祭デートで距離を近づけるどころか、思い出したくない文化祭ナンバーワンになってしまいそうな勢い。…だからといって、これ以上何か、あたしが話題を持っているわけでもないし──
「──ん?これって…」
あたしが一人、ドツボにハマりかけた刹那。不意に、顔を上げて、表情を緩めた優陽。
あたしが隣にいるのに──なんて、そんな気持ちが沸き上がるよりも先に。ざわついた周囲に紛れて、聴き慣れた声が耳に届く。
『はい。ご紹介に預かりました、保健委員会委員長の柳沢と──』
『副委員長の暁です』
『只今、我々保健委員会では──』
聴こえてきたのは、校内放送で流れた委員会のブース宣伝。…という名の、未冬の声。
奇しくもこの状況──あたしも優陽も疲弊した、この状況で。本来聴きたくなかったはずのその声は、人見知りで上がり性の彼女の、その録音風景がありありと浮かばせて。
デート的には誠に不本意──そう、不本意ながら!互いに顔を見合わせたあたしと優陽は、どちらともなく笑い合った。
次回、優陽視点。
多分また短めになります。




