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わたし達の文化祭(矢部)

 48話、矢部視点です。

 文化祭というのは、片想いの男女が告白・玉砕したり、限定的な恋人を作って、デート──即ち、疑似恋愛を楽しむ場所。創作においてでは、物語の登場人物達が、相手を巡って水面下で争っているような、そんな一大イベント。


 2日かけて行われる、その文化祭の3日前。コツコツと、上履きを鳴らしたわたしこと、矢部雫は、大きく胸を躍らせながら、想い人(井口君)の元へと足を動かす。


 ──文化祭デート。ただ気になる異性と一緒に、文化祭を回るという、それだけのこと…で、あるはずなのに。こうも気分が高揚しているのは、「文化祭」という非日常の熱にあてられているから─なのかもしれない。


 …大丈夫、彼を誘う口実なら、ある。バインダーを片手に、自分にそう言い聞かせる。

 本来なら、ただ面倒なだけの委員会。…でも、修学旅行以降、なんだかんだ接点を持てなかったわたしからしたら、このチャンスを逃す手はない。


 コンコン、と。クラスの男子達が作業している教室、その扉をノックして、開けた隙間から顔を出す。


いいんちょ(・・・・・)が来たぞー」

「ぅぉ、なんだなんだ?」


 目敏く気付いた男子の一人(クラスメイト)が、わたしのことをそう呼んで、作業する彼等の手を止める。まぁ、明日には設置となっている以上、わたしとしては、是非とも作業を続行してほしい。


「井口君は…あ、いたいた。ごめんだけど、委員会の話があるって井口君を呼んできてくれない?」

「ぇ?ぉ、わかった」


 近づいて来た男子にそう言って、教室の中へ足を踏み入れる。もちろん、抱えたバインダーで有象無象の視線から胸元を隠すのも忘れない。…視線、気付いてるからね。


「ちぇ、また(・・)井口かよ」

「しっ!考えるだけ無駄だ、てか終わんねぇんだから手を止めんな」


 ピクリ、と。反応したわたしの耳に届く、コソコソした彼等(有象無象)の声。また(・・)、ということはつまり、既に彼を誘った恋敵(ライバル)が1人以上いることに他ならなくて。

 もちろん予想していたし、わかってはいた…けど。それとこれとは話が別で。先を越されたという焦燥と、自分の中の対抗心が、ふつふつと沸き上がる。


「悪い、遅くなった」


 わたしの心など露知らず。万人に向けたであろう、朗らかな笑みで歩み寄ってきた井口君。邪魔者(真田さんと暁さん)は、いない。絶好のチャンス。


「ここじゃなんだし、こっち」

「お、おう…」


 あくまでさりげなく。でもしっかりと彼の手を引いて、教室の外へ連れ出す。

 さっきまで作業をしていたせいか、少し汗ばんでいるけど、ゴツゴツしてて、安心できるような大きな男の子の手。ホントは、外に出る必要も何も無いけど、もう少しだけ、この温もりを堪能しようと叫ぶわたしがいて。騒ぐ有象無象(クラスメイト)を無視して、わたし達は廊下を歩き出した。



ーーー



「──確かに、それなら計画してもいい…のか?」

「うん。先生から言質は取ってるよ」


 文化祭期間限定の、空き教室の中。考える仕草をする彼を目に、わたしは大きく頷いてみせる。

 わたしの口実──即ち、後夜祭(・・・)の企画。尤も、いつになくテンションの上がった担任から企画されたソレは、別にクラスメイトに隠す必要もないんだけど。サプライズにする、と。そう彼女に打診して、学級委員のわたし達だけで秘密裏に進めるように仕向けてみたのが、思いの外功を奏したというか。彼に見せた、ほぼ完成済みの計画書を横目に、気付かれぬよう笑みを隠す。


「んじゃ、このまま進める方向で問題なさそうか…」

「うん。じゃあ、それで、なんだけど──」


 わたし自身の、彼を呼び出した本命。


 ──文化祭中、一緒に回りませんか、と。


 活動中のスライドショーを作るという、そういう名目で、彼を誘おうとした刹那。誰もいないはずの教室の隅で──ううん。誰もいないと、わたしが勝手にそう思っていた教室の隅。キラリと光った大きな双眸と目が合った。


「──えっと…続けてどうぞ?」


「無理に決まってるでしょう!?」


 困惑の声に対して、絶叫に似た声が漏れる。

 一番警戒すべきであった恋敵(ライバル)──暁未冬。文化祭準備期間中、その姿を消していた彼女。だからこそ、彼女がどこにいるかだなんて、考えることも失念していて。わたしの声に振り返った彼が、彼女を見つけては、顔の色を変える。


「ふゆ!お前こんなところで何してんだよ!」


 ギリ、と。わたしの奥歯が音を鳴らす感覚。

 さっきまで、とても良い雰囲気になりつつあった…そう!ムードってのが出来上がっていたはずなのに!一瞬で全てを持っていった彼女を、思わず本気で睨みつける。


「なにって…寝てた?」

「はぁ?寝てたってふゆお前…そんな体勢で、その、誰かが入ってきたらどうすんだよ!今だっておま、見え──」


 わたしそっちのけで、言葉をまくしたてる井口君(朴念仁)。純粋な嫉妬か、はたまたソレを超えた何かか。思わず、彼のその手を引こうとして。

 不意に、眼前の彼女(暁さん)が、スカートをたくし上げて──


「──何やってんの暁さん!?」

「ぅきゃっ──」


 咄嗟に彼女の手をはたいて、押し倒すように組み伏せる。


「いや…その、ヤベちゃん…?私は別に、そっちの趣味はなくて──」

「──なんの話よ!てか井口君はほら、さっさと出てって!」


 動転した思考のまま、たまらず叫んで井口君を睨む。せっかくの雰囲気とか、乙女的にはやるせないことでしかないのだけど。…どのみち、二人きりじゃなかった地点で破綻していたんだ、と。そう自分に言い聞かせて、困惑気味に退室する彼を見送る。


 …とりあえず、同じ乙女として──そう、非常に癪だけど!こっちを説教することが優先で。


「ねぇ馬鹿なの!?痴女なの!?羞恥心とか無いの!?」


 一瞬にして溜まった本音が、あたしの計画をぶち壊した。






 ──いや、だとしてもスパッツを履いてるから下を見られても平気って…理解しかねるわ。



 尚、未冬のソレは身内であるが故である。問題は、他人の目がある場所でやったということだけ。もし他の男子(例えば柳沢とか)が見た場合は、即座に飛んできた蹴りで記憶と意識を消し飛ばされる模様。矢部が反射的に突き飛ばされなかったもの、未冬がなんだかんだ心を許している証拠だったり。






 …あ、次回は美優視点です。

 学校によっては、教室=担当クラスにはならなくて文化祭期間中に空き教室が出るって聞いた。

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