<48:恋と畳と柔道着(8)>
平井悟・・・柔道部員の高校2年生。
小原輝雄・・・平井の親友。
小原弥生・・・小原輝雄の姉。学校のOB。
秋田隆三・・・柔道部の主将。
瀬田伊織・・・テニス部員の高校1年生。
輝雄が1年生の瀬田伊織と喋りながら歩いていると、向こうから柔道着の悟が走ってくるのが見えた。
「おい、悟」
輝雄が声を掛ける。
悟は立ち止まり、チラッと視線を向ける。
「輝雄か。相変わらず女遊びにうつつを抜かしてるみたいだな」
伊織はムッとしたが、輝雄は軽く受け流す。
「お前は何してるんだよ、柔道着なんか着て。柔道部の出し物は人間輪投げだろ。柔道着なんか要らないはず」
「俺の担当時間は、もう終わった。今から稽古するんだよ。走り込みだ」
「走り込みって、学園祭の最中だぞ」
輝雄は笑うが、悟は真剣な顔付きだ。
「学園祭に浮かれている暇など、俺には無い。俺は、もっと強くなるんだ。俺の高校生活は、柔道のためだけにある。これからは柔道一直線だ。それじゃあな」
そう言うと、悟は気合いをみなぎらせながら、ランニングで去って行った。
呆気に取られた表情で、輝雄は見送る。
「どうしたんですか、あの人?ちょっと頭、おかしいんじゃないですか」
伊織が疎ましそうな顔で言う。
「言ってやるな、男には色々とあるんだ」
輝雄は哀れみの表情を浮かべた。
「今のあいつには、柔道に没頭するしか救われる道は無いんだよ」




