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青春詰め合わせパック(9個入り)  作者: 古川ムウ
[学園祭]
49/52

<49:ニューヒロインのユウウツ(5)>

本橋香乃・・・演劇部員の高校1年生。

吉崎蘭・・・演劇部の部長。

石丸大剛・・・演劇部の副部長。

小原弥生・・・演劇部のOB。

雁岡妙子・・・演劇部員の高校3年生。

武田清美・・・演劇部員の高校3年生。

手場寛子・・・演劇部員の高校3年生。


 「こんな所にいたのね」

 香乃が中庭のベンチで佇んでいると、後ろから声がした。

 蘭だった。

 「あっ、部長」

 香乃が慌てて立ち上がる。

 「舞台が終わってから姿が見えないと思ったら、何やってんの。みんなで、軽く打ち上げでもやろうかって相談してたのに」


 演劇部の芝居は、1時間前に終了していた。

 大きなトラブルが起きることもなく、無事に幕は閉じた。


 「すみません、上手く出来なくて」

 香乃は深々と頭を下げた。

 「何言ってんのよ。幕が閉じた後の拍手喝采、アンタだって聞いたでしょ」


 蘭の言う通り、舞台は大成功だった。

 カーテンコールでも、なかなか拍手が止まないほどだった。

 特に新人として立派にヒロイン役を務め上げた香乃は、誰よりも大きな拍手を浴びていた。


 「ほとんどの場面は、自分でも無難にやれたと思います。でも、肝心な場面が」

 香乃は顔を曇らせる。

 彼女が言っているのは、シーザーに裏切られて憎しみを露にする、あの場面のことだ。

 本番でも、やはり感情を上手く表現することが出来なかった。

 大剛がイジメの黒幕だと知らされても、やはり憎むことが出来なかったのだ。


 「ああ、あのシーンね」

 蘭は、取るに足らないといった感じで、軽く言う。

 「なるほど、確かにアンタからすると、失敗したように感じているでしょうけどね」

 「あの、それって……」

 その言葉の意味が分からず、香乃は首をかしげる。


 「あらっ、二人で内緒の話でもしてるのかなあ」

 ひょっこりと、弥生が微笑を浮かべて現れた。

 「あっ、先輩」

 「香乃ちゃん、良かったわよ、最高だった。練習で何度か見たけど、本番が一番の出来映えだったわね」

 「ありがとうございます。でも……」

 自分の芝居に納得していない香乃は、誉められても素直に喜べない。

 「どうしたの、あんまり嬉しそうじゃないのね」

 「弥生先輩、香乃は例の場面のことを引きずっているんですよ」

 「例の場面って、あの見せ場のこと?それなら、とても良かったわよ。だけど蘭、知らない内に演出を変えたのね。憎しみをぶつけるんじゃなくて、深い悲しみの場面になっていたけど」

 (ああ、やっぱり)

 香乃が落ち込む。


 「そうそう、蘭、大剛が捜してたわよ。打ち上げのことで話があるって。今なら、部室にいると思うわ」

 「分かりました、すぐ行きます。弥生先輩も参加するんですよね」

 「もちろんよ。それじゃあ、また打ち上げでね」

 弥生は立ち去った。それを見送ってから香乃は、

 「すみません、やっぱり、あの場面を台無しにして」

 と、溜め息をつく。

 しかし蘭は、

 「いえ、素晴らしかったわ」

 と告げる。


 「でも、弥生先輩も演出が変わったかのように言っていました。だけど演出は同じです。私の芝居が演出プラン通りじゃなかっただけです」

 「違うわ、あれで狙い通り。弥生先輩の言った通り、演出を変えたのよ」

 蘭は悠然と言う。

 「えっ?」

 「あの場面に関して、ある時期から私が全く注意しなくなったのに気付いてた?」

 「はい、それは。でも、それは幾ら注意しても直らないから、もう諦めたんだと思っていました」

 「私は諦めるなんて嫌いよ。それでいいと思ったから、注意しなくなっただけ。ちなみに、注意しなくなったのが、いつ頃からか、覚えてる?」

 「それは、確か」

 「大剛がイジメの黒幕だと明かした、次の練習からよ」

 香乃が言う前に、蘭が自分で解答する。


 「そうそう、大剛がイジメの黒幕ってのは嘘よ」

 「ええっ?」

 香乃の声が驚きで裏返る。

 「で、でも、あのメールは」

 「ああ、あれは私が打った偽造メール」

 すました顔で、蘭が言う。

 「大剛は本当にいい奴で、絶対に人をイジメたりしないわ」

 「じゃあ、どうして?」

 「どうしてアンタに嘘を吹き込んだのかってことでしょ。それは、あの場面を成功させるためよ。大剛が黒幕だという印象を貴方に植え付けることで、舞台の上での感情表現に利用しようと思ったの」


 「もしかして、私に副部長を憎ませようとしたんですか」

 「最初は、そのつもりだったんだけど」

 蘭は肩をすくめる。

 「だけど、それでも貴方は、あの場面で憎しみを向けることが出来なかった。むしろ、以前より一層、深い悲しみの感情表現になっていた」

 「はい……」

 「そこで、ふと閃いたのよ。いっそ、そういう芝居にしてしまおうと。それでも芝居としては成立するし、別の解釈として面白くなると考えたの。実際、素晴らしい舞台になったし」

 真実を明かされ、香乃は唖然とする。

 まさか自分の知らない所で、そんな作戦が進行していたとは。


 「で、でも、芝居を変更するなら、説明してくれれば良かったじゃないですか」

 「せっかく深い悲しみの芝居が自然に出来ているのに、余計なことを言って変になったら困るでしょ」

 蘭は飄々と告げる。

 「他の部員は知っていたんですか」

 「いいえ、みんなにも内緒よ。知っているのは私だけ」

 「じゃあ副部長も、全く知らないんですか」

 「ええ、そう」

 「私、副部長に謝らないと」

 香乃は反省した様子で言う。

 「イジメの黒幕だと思い込んでいたから、優しく声を掛けられても、何となく避けるような態度を取ってしまって」

 「そうか、そこはフォローすべき点ね。うっかり忘れていたわ」

 蘭は悪びれることなく、フッと小さく笑う。

 「今から会いに行くから、私からちゃんと説明しておくわ」

 「お願いします」


 「私のこと、酷い先輩だと思ってる?」

 「いえ、そんな」

 香乃は否定したが、そういう気持ちが全く無かったと言えば嘘になる。

 「芝居を成功させるためなら、私は何だってやるわよ」

 蘭は居丈高に宣言した。

 「大体、貴方がちゃんと憎しみの演技をしていれば、こんな嘘をつかなくて済んだのよ。悪いのは貴方なんだから、役に成り切れなかった自分を責めなさい」

 「は、はい」

 理不尽な非難ではあったが、香乃は素直に受け入れる。

 それは、自分の演技に問題があったことへの罪悪感があるからだ。


 「結局、憎悪の演技が出来ないという私の欠点は、克服できないままだったんですよね」

 「まだ気にしてるの?本番は成功に終わったんだから、別にいいじゃない。だって貴方、裏方志望なんでしょ。今回の公演が終わったら裏方に回るんだから、もう演技の欠点なんて無関係じゃない」

 「あっ、まあ、そう言われれば」

 「それとも、ひょっとして役者の仕事を続けたい意欲が沸いているの?」

 蘭が含み笑いを浮かべる。

 「いえ、あの」

 図星だった。


 「役者の仕事を続けるのなら、その問題は何とかすべきね。でも大丈夫、何とかしてあげるわ」

 「何とかするって?」

 「おっと、そろそろ部室に行かないと。それじゃあ打ち上げでね」

 「あっ、部長」

 香乃の疑問を受け流すように、蘭は走り去った。

 「また何か、変な作戦でも考えているんじゃ」

 香乃は困った表情で、遠ざかる背中を見つめた。


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