<44:学園祭への道(5)>
大森昌彦・・・学園祭実行委員長。
斉藤俊也・・・学園祭実行副委員長。
西田・・・学園祭実行委員。
黒崎・・・学園祭実行委員。
加茂文治・・・生活指導教師。
野口優作・・・漫画研究部の部長。
上野正秀・・・陸上部のキャプテン。大森昌彦と斉藤俊也の親友。
「あれっ、こっちだったかな?」
掲示されているポスターを見て、野口優作が小さく驚いた。
それは、女子高生がパンチラしているポスターだ。優作が描いて、加茂に却下されたはずの物だ。
それがダメ出しを食らったことは、優作も学園祭実行委員会から聞かされている。
「どうした、優作」
そこへ、昌彦と俊也がやって来た。
なぜか昌彦は、ニヤニヤと嬉しそうな表情をしている。
その隣の俊也は、どこか疲れたような様子だ。
「いや、ここのポスター、昨日までは確か、上半身だけのバージョンだったはずだと思って。それが、こっちのバージョンになってるからさ」
「ああ、それなら、貼り替えたんだ。ここだけじゃなくて、お前のポスターは全て、こっちのバージョンに交換した」
昌彦が得意げに言う。
「へえ、そうなのか。でも、いつの間に替えたんだ?っていうか、これって大丈夫だったんだな。加茂の奴、考え方を変えて許可してくれのか」
「いや、許可は出ていない」
「えっ、でも、こうやって貼ってあるのに」
首をかしげる優作に、昌彦は胸を張る。
「それは、この俺が学園祭実行委員長だからこそ許されたことだ」
「何だか、良く分からないな。どうなってるんだ?」
「まあ、ちょっとな」
優作に尋ねられた俊也は、言葉を濁す。
「そう言えば、パンフの最初に、校長の挨拶文が無かったよな。あれも許可されたんだな。確か、そっちもダメ出しを食らったって聞いてたけど」
「ああ、パンフにも気付いてくれたのか。あれもやはり、この大森昌彦様の手腕によるものだ」
「へえ、そんなの加茂が許すはずが無いと思ってたけど」
「ああ、許すはずが無い」
「んっ?」
「いいじゃないか、細かいことは」
「まあ、俺は最初のポスターを使ってもらって、嬉しいけどな」
「そうだろう。喜んでもらえて光栄だ」
「それじゃあ、またな」
優作は立ち去った。
昌彦は、改めてポスターを凝視する。
「これが一番だよな。パンチラしているからって、何だと言うんだ」
「だけど、やっぱり無茶が過ぎるぜ」
俊也は不安そうに漏らす。
「こんなやり方、マズいって。このパンフもそうだし」
俊也は丸めて持っていたパンフを広げ、最初のページを見せる。
例年は校長の挨拶文があったページに、昌彦の挨拶文が記されている。
「何をビクビクしてるんだ。言っただろ、責任は全て俺が取るって」
「それはそうだけど。だからって、パンフレットやポスターを古いバージョンにするのは、やりすぎだろ」
学園祭の3日前、昌彦は俊也に協力してもらい、校長の挨拶文を削ったパンフレットを印刷して製本した。
既に挨拶文の入ったパンフを作成して許可を得ていたが、全て交換した。
さらに学園祭の前夜になって、漫研のポスターを、許可された物からパンチラ版に全て貼り替えた。
「アーチのことも、忘れるなよ」
昌彦は悪びれず、堂々たる態度で言う。
正門前のアーチには、大きな文字で「くそったれの世界をぶち壊せ!」と書かれていた。
それも、前夜の内に昌彦がやったことだ。
全ての作業は、実行委員には知らされておらず、昌彦が独断でやったことだった。
「あのアーチが立ったのを見た時は、痛快な気分だったぜ。加茂の奴、きっと慌てただろうな。ざまあみろだ」
「だけど、これだけやったら、ただじゃ済まないぞ」
「そんなのは分かってる。だけど俺は気付いたんだ。別に怒られたって構わないんだって。これで俺の存在をアピールできれば、それでいい」
「あのさ、ちょっと思ったんだけど」
「何だ?」
「いや、何でもない」
俊也は喉まで出ていた言葉を引っ込めた。
そこへ、2人の友人である上野正秀がやって来た。
「おお、昌彦、こんな所にいたのか。加茂先生がお前のこと、捜してたぞ」
「ほら来た」
俊也が顔をしかめるが、昌彦は平然としている。
「加茂の奴、どこにいる?」
「たぶん職員室にいると思うけど」
「そうか。じゃあ、行って来るとするか」
勇ましい態度で、昌彦は去って行った。
「あいつ、何かやらかしたのか」
上野が、いぶかしげな顔をする。
「加茂に逆らって、却下されたものを無許可で表に出したんだよ」
「何だ、そりゃ」
「例えば、ほら、そこのポスター。パンチラを理由に加茂は却下したんだけど、あいつが勝手に貼ったんだ」
「そんなことがあったのか。たかがパンチラで許可しないなんて、加茂先生も心が狭いな」
「ほら、やっぱりな」
上野の言葉を聞いて、俊也は納得する。
「何が、やっぱりなんだ?」
「お前、そのポスターが無許可だってこと、知らなかっただろ。じゃあ、パンフの冒頭に校長の挨拶が無いのも、アーチの標語も、本当は無許可なのを昌彦が勝手に入れ換えたって知ってたか?」
「いや、全然。最初から、そういうものだと思ってた」
「そうなんだよ。大半の生徒は、そんなこと知らないんだよ。なのに昌彦は、加茂に逆らって無許可の掲示物を押し通したことで、みんなの注目を浴びると思い込んでるんだ」
俊也は呆れた様子で語る。
「良く分からないけど、あいつが変な思い込みをしてるってことなのか」
「その通り。前からバカだったけど、学園祭のトラブル続きで、さらにおかしくなったみたいだ」
「あいつ、かなり浮かれてたぞ」
「今は満足してるから、いいんだけどな。自分の間違いに、いつ気付くか」
「気付いたら、ショックだろうな。お前、その時はフォローしてやれよ」
「まだ呪いが解けてなかったみたいだから、お祓いに行けとでも言ってみるか」
二人は哀れむように、昌彦が去った方向を見やった。




