<42:恋と畳と柔道着(7)>
平井悟・・・柔道部員の高校2年生。
小原輝雄・・・平井の親友。
小原弥生・・・小原輝雄の姉。演劇部のOB。
秋田隆三・・・柔道部の主将。
瀬田伊織・・・テニス部員の高校1年生。
(思い切って告白すべきではないか)
そんなことを、悟は考えた。
前回、弥生と会った時の、いい雰囲気。
あれが彼の中で、ずっと気になっている。
あの雰囲気は、弥生の側から醸し出されたものだと彼は感じている。
ということは、彼女も自分に気があるのではないか。チャンスは充分にあるのではないか。そう思っているのだ。
そもそも、弥生は汗臭いぐらいの男がタイプのはずだ。自分は、そのタイプに合致している。
今はフリーでも、うかうかしていたら、別の誰かがアタックするかもしれない。
あれだけの美人なのだから、狙う男は多いはずだ。
他の男に先を越されてから後悔するのは嫌だ。それならば、まだ当たって砕けた方がいい。
そんな風に思考を巡らせ、悟は決意を固めた。
(よし、告白しよう)
そう決めて、彼は教室を出ようとする輝雄に声を掛けた。
学校で偶然に会う機会を待つよりも、自分から会いに行った方が確実だ。
そのためには、越野邸を訪れる約束を取り付ける必要がある。
「どうした悟、妙に緊張した顔で」
悟の心境を知らず、輝雄は軽く笑う。
「お前の家に行きたいんだが、いつなら大丈夫か教えてくれ」
「ああ、前に、また来るような話になってたな。で、やっぱり姉貴が目当てなんだろ」
「それは、その」
「今回は否定しないのか。だけど、姉貴が目当てなら、やめた方がいいぞ」
昌彦は眉をしかめる。
「どうしてだ」
「お前には残念な知らせだろうが、もう姉貴はフリーじゃないからな」
「へっ」
悟は、脳天をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
「ちょ、ちょっと待て。それはつまり、誰かと付き合っているという意味か」
「そういうことだ」
一足遅かった。
悟は決断が遅れたことを悔やんだ。
もう少し早く告白していれば、自分が新しい恋人になれていたかもしれないのに。
「新しい恋人が出来たのか」
「いや、前の彼氏とヨリを戻したんだよ」
「ヨリを戻した?」
「ああ」
「そうなのか……」
悟は、ポツリと漏らす。
「ちなみに、そいつは運動系の部活動をしているのか。かなりの実績があるスポーツマンだったりするのか」
「いや、美術学科の学生だ」
輝雄は淡白に答えた。
「たぶん、スポーツ経験はほとんど無いんじゃないか。何回か見たことがあるが、痩せてて不健康そうな感じだったし」
「ちょっと待て、お前は以前、弥生さんは汗臭いぐらいのスポーツマンが好きだと言っていなかったか」
悟は動揺しながら、輝雄に詰め寄る。
「そういうタイプが好きだと言ってるのはホントさ。ただ、実際に付き合う男は、正反対のタイプばかりなんだよ。女ってのは分からん」
輝雄は肩をすくめる。
悟は愕然とした。
(ってことは、どう頑張ったところで、無駄だったのか)
タイミングが早いか遅いかは、関係が無かったのだ。
「ははっ、何だ、そうなのか」
悟は力の抜けた笑いを発した。




