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青春詰め合わせパック(9個入り)  作者: 古川ムウ
[10月上旬]
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41/52

<41:学園祭への道(4)>

大森昌彦・・・学園祭実行委員長。

斉藤俊也・・・学園祭実行副委員長。

西田・・・学園祭実行委員。

黒崎・・・学園祭実行委員。

加茂文治・・・生活指導教師。

野口優作・・・漫画研究部の部長。

上野正秀・・・陸上部のキャプテン。大森昌彦と斉藤俊也の親友。


 「まさか本当に、お祓いに行くとは思わなかったぜ」

 呆れたように、俊也が言う。

 「お祓いした方がいいと勧めたのは、お前だぞ」

 昌彦はそう告げながら、椅子に座り直す。


 そこは会議室だ。

 彼らは学園祭に向けて、改めて工程表をチェックしている。


 「あれは冗談半分だよ。お前、そこまで深刻に悩んでいたんだな」

 「だけど、お祓いをしてもらって以降、これといった問題は起きていないぞ。効果はあったんじゃないか」

 「まだ行ってから、たった2日なんだろ」

 「でも、学園祭関連だけじゃなくて、私生活でも大きなトラブルは起きてないぞ」

 昌彦はスッキリした表情を浮かべた。

 「お前、悪質なセールスとかに、簡単に騙されるタイプだろうな」

 俊也は苦笑する。

 「どういう意味だよ」

 「いや、何となく」

 「嫌な奴だな。俺が満足しているんだから、別にいいじゃねえか」

 「悪いとは言ってないさ。ただ、単純で分かりやすいなあと思って」

 「バカって言いたいのか」

 「そんなことより、仕事しようぜ」

 俊也は笑いながら、工程表を引き寄せる。


 「おい、はぐらかすなよ」

 昌彦が眉を吊り上げていると、会議室のドアが開いた。

 実行委員の西田が、困ったような顔で部屋に入って来る。

 「うわっ、その顔は」

 昌彦は嫌な予感を覚え、しかめ面になる。

 「どうした、何か問題か」

 「これ、ダメでした」

 西田は済まなそうに口を開き、持っていたポスターを差し出した。

 「ダメって、漫研のポスターが許可されなかったのか」

 「はい」


 漫研部員の野口優作に作成してもらったポスターは、イラストの女子高生がパンチラしていることを加茂に咎められ、許可が下りなかった。

 そこで優作に頼んで、新しく作り直してもらった。

 今度も女子高生が描かれているのは変わらないが、パンティーは見えていない。

 その新しいバージョンの許可を取るため、西田は職員室に行っていたのだ。


 「言われた通り、パンチラは修正したぞ。何がいけないんだ」

 「西田、今回は、ちゃんと理由を訊いてきただろうな」

 興奮する昌彦の隣で、俊也は冷静に尋ねる。

 「スカートの丈が、短いそうです」

 「はっ?」

 昌彦は驚きのあまり、甲高い声を発した。自分の耳が信じられず、改めて質問する。

 「却下の理由は、何だって?」

 「スカートの丈が短すぎるから、許可できないそうです」

 「何だ、その理由は。時代遅れにも程があるだろ。あのオッサン、数十年前からタイムスリップしてきたのかよ」

 「そのセリフ、前にも聞いた気がするぞ。だが、確かに納得しかねる理由だな」

 「俊也、お前もそう思うだろ。こんなの、ムチャクチャだぞ。嫌がらせとしか思えん」

 「もしくは、お前の呪いが未だに解けていないのかもな」

 「くそっ、直談判に行くぞ」



 昌彦は怒りに打ち震え、俊也を引き連れて職員室に乗り込んだ。

 「先生、どういうことなんですか」

 「声が大きいぞ。一体、何のことだ」

 加茂が眉間に皺を寄せる。

 「ポスターですよ。先生に言われた通り、パンチラしていないイラストに修正しました。それなのに、またダメって」

 「西田に言ったはずだぞ、スカートが短すぎると」

 「そんな理由で許可しないなんて、厳しすぎますよ。その程度で、ハレンチだからダメだとか、そんなことを言うんですか」

 「性的に問題があるから許可しなかったわけじゃない。ウチの校則に違反しているからだ」

 加茂は淡々と告げる。

 「校則違反?」

 昌彦は当惑し、隣の俊也と顔を見合わせた。


 「君たちは、これを見て分からないのか。こんなに短いスカート丈では、膝上が何センチか測るまでも無く、明らかに校則違反だ」

 「いや、実際の生徒じゃないですし。ただの漫画ですから」

 「漫画は漫画だ。だが、着ているのはウチの制服じゃないか。これを許可したら、学校が短いスカートを認めたと誤解される恐れがある」

 「そんな拡大解釈をする奴は、いないでしょう」

 「屁理屈をこねる奴は、どこにでもいるものだ」

 「いや、だけど、せっかく作り直してもらったのに」

 「それは、そっちの問題だろう。こっちとしては、認めるわけにはいかない」

 加茂は冷たく突き放す。


 「そもそも、なぜ女子高生にこだわるのか、私には全く分からん。作り直すなら、全く別の絵柄にすれば良かったじゃないか」

 「それは、そうですけど」

 そこは作者の趣味だから仕方が無い。

 それに、まさかスカートの丈でダメ出しを食らうとは思っていない。

 「また作り直すか、そのポスターは諦めるか、何か考えろ。そのままだと許可は出来ない」

 そう言うと、加茂は机の方に向き直った。

 話は以上だから立ち去れという、無言のメッセージだ。

 昌彦は怒りと悔しさに唇を噛んだが、俊也から目で促され、立ち去ることにした。

 こめかみの辺りに筋を立てながら、職員室を出た。



 昌彦は仏頂面で沈黙したまま、早足で会議室へと向かった。

 肩をいからせ、会議室のドアを乱暴に開けた。

 それから、

 「うがっ」

 とゴリラのように咆哮し、壁を叩く真似をした。


 「何でもかんでも却下しやがって、加茂の野郎」

 昌彦は怒りを吐き捨てる。

 「しょうがない、あのポスターは断念して、美術部と写真部のポスターだけを貼ることにしよう。優作には理由を説明して、謝ろう」

 俊也は、なだめるように告げる。

 「絶対に嫌がらせだぞ。間違いない。俺が嫌いなのか、学園祭を失敗させたいのか知らないけど、個人的な感情でことごとく却下してるんだ。そうに違いない」

 「生活指導の主任だから、それで厳しくなってるんだろ、たぶん」

 「いちいちイチャモンを付けやがって。他の教師だったら、絶対に通ってるんだ。なんで俺の時だけ、あんなクソ野郎なんだ。俺が何か悪いことでもしたのか。誰かに恨まれるようなことでもしたのか」

 俊也の言葉が耳に入っていないのか、昌彦は室内を歩き回りながらブツブツと呟き続ける。

 「おい、聞いてるのかよ」

 俊也が声のトーンを上げる。

 すると昌彦はピタッと立ち止まり、思案の顔になった。


 「どうした」

 呼び掛けに応じず、昌彦は考えを巡らせる。

  それから急に、

 「そうか、そうだよな」

 と言ったかと思うと、口の端を歪めてヒヒヒと笑った。

 「おい、大丈夫か。ついにストレスで頭がおかしくなったのか」

 俊也は困惑し、一歩下がる。

 「そうだ、そうだったよ」

 昌彦は俊也の両肩をパンパンと叩き、白い歯を見せた。

 「何が?」

 「思い出したんだよ。俺が学園祭実行委員長になった目的は、存在感を示すことだったって」

 「今さら、何を言ってるんだ」

 「いや、大事なことだ。それを俺は、すっかり忘れていたんだ。そうだよ、目立ちたい一心で委員長になったはずなのに、俺は波風を立たせず、丸く収めようとしていた。でも、そんなことは、どうでもいいんだ。何よりも重要なのは、存在感を見せ付けることだ」

 昌彦は自分の中で勝手に納得し、うんうんと深くうなずく。

 それから彼は部屋の隅に行き、何やらごそごそと探し始めた。


 「おい、何してるんだ」

 「あった、これだ」

 昌彦は、一枚のポスターを取り出した。

 女子高生の上半身が描かれており、笑顔で手招きしている。

 それは、却下されたポスターを優作が作り直した時、

 「こっちはボツにした奴だ」

 と言って見せてくれた物だ。試しにバストアップも描いたが、やはり全身が見える方を使ってほしいということだった。

 ただ、せっかく作ってもらったので、昌彦は預かっておいたのだ。


 「おい、職員室に戻るぞ」

 昌彦はそう言うと、ポスターを持って踵を返した。

 「えっ」

 ドアを開けてスタスタと廊下を歩いて行く昌彦を、慌てて俊也は追い掛ける。

 「おい、何だか良く分からないけど、加茂の所へ殴り込むとか、そういう無茶に出る気なら、やめておけよ」

 心配そうな表情を浮かべる俊也に、昌彦は余裕の笑みを見せる。

 「俺は不良じゃねえぞ、あのオッサンにはムカついてるけど、暴力を振るうような真似はしない」

 「じゃあ、何のために職員室へ戻るんだ」

 「許可を貰うためだよ」

 「はあっ?」

 俊也には、てんで訳が分からない。



 昌彦は職員室に戻り、真っ直ぐに加茂の元へ向かった。

 「先生、これなら大丈夫ですよね」

 昌彦は勢い良く、そう告げた。加茂は疎ましそうに、視線を向ける。

 「んっ?」

 「このポスターなら上半身だけなのでスカートは見えないし、髪形も校則違反じゃないし、許可してもらえますよね」

 「うーん、まあ、そうだな。特に問題は無いか」

 じっくりとポスターを眺めて、加茂が言う。

 「しかし、また女子高生なのか」

 「でも問題は無いんですよね。漫研のポスター、許可してもらえますよね」

 「ああ、問題は無い」

 加茂は面倒そうに言う。

 「分かりました」

 意味ありげに笑みを浮かべると、昌彦は深々と礼をして加茂に背中を向けた。



 職員室を出たところで、俊也は昌彦に尋ねた。

 「さっきは何か決意したような態度だったけど、それって、そういう意味だったのか?」

 「そういう意味って?」

 「いや、別のポスターを持ち出して許可を貰ったから、やけにあっさりと妥協したなあと思って。前のポスターが却下された時の怒りは、もう消えたんだな」

 「おい、俺は諦めたわけじゃないぞ。今のは、加茂に従順な芝居をしただけだ」

 昌彦は重厚な口調で告げる。


 「芝居って、どういうことだよ。何のために芝居が必要なんだ?」

 「言っただろ、委員長になった目的は、存在感を示すことだったのを思い出したって」

 「ああ。それと関係があるのか」

 「大有りさ。いいか、責任は全て俺が取る。だから、お前にも協力してもらうぞ」

 「何かやらかすつもりなのかよ」

 俊也は不安そうに尋ねる。

 「ああ、やらかすぜ」

 昌彦は不敵な笑みを浮かべた。


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