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青春詰め合わせパック(9個入り)  作者: 古川ムウ
[10月上旬]
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36/52

<36:悩んで悩んで悩むのだ(5)>

角田雄一・・・3年3組の生徒。

星慎吾・・・角田雄一の親友でクラスメイト。

三上茂輝・・・角田雄一の親友。3年2組の生徒。

柳沢知良・・・角田雄一のクラスメイトで生徒会長。

美濃部昭宏・・・角田雄一の担任教師。

和田律子・・・パン屋のおばさん。


 「そう言えば、朴孝錬が作った鋼鉄像って結局、学園祭が終わるまで来ないんだな」

 体育の授業が終わってグラウンドから教室へ戻る途中、慎吾は校庭を歩きながら、そんなことを急に言い出した。

 「鋼鉄像って、モールにあった像のことか」

 隣を歩く雄一が尋ねる。


 「ああ、そうだ。あれの搬入予定が延期されたらしい」

 「そうか、そう言えば、この学校で引き取るような話が出てたな。っていうか、あれの作者、朴孝錬って言うのか。韓国人か」

 「いや、在日韓国人だけど、もう日本国籍を取得してるらしい」

 「良く知ってるな、そんなこと」

 「たまたま、朴孝錬のドキュメンタリー番組をテレビで見たんだよ」


 「芸術家ってのは特殊な人種だよなあ。美術大学へ行って、専門的なことを学んでさ。俺も芸術的な才能があったら、美大へ行くんだけどな」

 「朴孝錬は、美大には通ってないぞ。趣味で彫刻をやっていて、それがたまたま有名な美術評論家に評価されたのがきっかけで、プロになったらしいぞ」

 「そうなのか?」

 「ああ。趣味が高じて職業になったってことだな」

 「それはそれで、羨ましいなあ。けど、そんな人、滅多にいないだろ」

 「そうでもないんじゃないか。親戚の兄貴なんかは、小さい頃から車が好きで、今は車の修理工をやってるぞ。ある意味、趣味が仕事になったってことだ」

 「へえ、そんな近くにもいるのか」

 雄一が腕組みをする。


 「趣味を仕事にするってのは、もしかしたら一番いい形なのかもしれないな」

 「だけど雄一、お前には趣味とか興味のあることは、あるのかよ」

 慎吾が尋ねる。

 「何もやりたいことが無いって言ってたぐらいなんだから、それも無いんだろ」

 「うーむ、確かに、何の趣味も無い」

 「だったらダメじゃねえか」


 「でも、あえて言うなら、耳の後ろの匂いを嗅ぐのは好きだぞ」

 「それは趣味じゃなくてフェティシズムだ。大体、それが役に立つ仕事なんてあると思うか?」

 「耳の後ろの匂い鑑定師とか、そういうのは無いのか」

 「あるか、そんなもん。っていうか、どういう仕事なんだ、それは」

 慎吾がツッコミを入れる。

 「そうか、無いのか」

 意外と本気で、雄一は嘆いた。


 「どうしても仕事にしたけりゃ、耳の後ろの匂いを嗅ぐ占い師にでもなれ」

 「おおっ、何だよ、そんな仕事があるんじゃないか」

 「無いっての。お前が勝手に、そういう占いを作れっていう意味だよ」

 「なるほど。そうか、じゃあ占いの勉強をしなくちゃいけないな」

 「いやいや、本気に取るなよ、こっちはシャレで言ってるんだから」

 慎吾が呆れる。


 「お前さ、本気で進路について悩んでるんだろうな」

 「当たり前だろ、本気も本気だ」

 雄一は真剣な顔で言う。

 どうやら、冗談では無さそうだった。


 慎吾は、雄一があまりに悩みすぎて、とうとう壊れてしまったのだと感じた。

 だから彼は、

 「そうか。もしも本気で耳の後ろの匂いを嗅ぐ占い師を目指すのなら、もう俺は何も言わない。生暖かく応援してやるよ」

 と、哀れみの表情で告げた。


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