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青春詰め合わせパック(9個入り)  作者: 古川ムウ
[10月上旬]
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35/52

<35:俺たちのビート(4)>

福井敦・・・軽音楽部の高校2年生。バンド「クリード」のギター担当。

安藤弘堅・・・軽音楽部の高校2年生。バンド「クリード」のベース担当。

宮吉航・・・軽音楽部の高校2年生。バンド「クリード」のドラム担当。

柱谷秀彦・・・軽音楽部の顧問。


 土曜日、航は貸しスタジオに入り、一心不乱にドラムセットを叩いている。

 もちろん、『キング・ヴァニラ』をマスターするための猛練習をしているのだ。

 最近の小遣いは全て、スタジオを借りるために費やされている。


 学園祭が近付く中、航は未だに上手く演奏できず、焦りの色が濃くなっている。

 家でも暇さえあればスティックを握り、練習用ドラムに向かっている。

 スタジオでも『キング・ヴァニラ』以外の曲には全く手を付けず、それだけに集中している。


 敦がブチ切れたのが木曜で、それ以来、クリードの合同練習は行われていない。

 金曜は、敦と顔を合わせることさえ無かった。

 意図的に避けたつもりは無いが、敦の方は、どうだったのか分からない。まだ怒りは鎮まっていないのかもしれない。


 次は月曜日の放課後、部室での練習がある。

 その時までには、ちゃんと出来るようにしておきたい。

 しかし、どれだけ練習しても、どうしても納得できる演奏にならないのだ。



 「くそっ、どうしてだ」

 航は演奏を止め、焦燥感を吐き捨てた。

 それから寂しそうに、

 「才能、無いのかな」

 と漏らした。


 その時、ドアが開く音がした。

 パッと視線を向けると、見慣れた顔があった。

 「えっ、敦?」

 ギターケースを抱えた敦が、のっそりと入ってきた。


 「どうして?」

 航は慌てて、ドラムセットから立ち上がる。

 敦は視線を合わせず、ケースを開けてギターを取り出す。

 それから、ぶっきらぼうな態度で、

 「一人よりは、音を合わせた方が練習しやすいだろ」

 と告げた。

 彼は弘堅に説かれたことで、航を怒鳴り付けたことに罪悪感を抱いていた。

 だが、あれだけのことを言い放った手前、素直に詫びを入れるのは恥ずかしかった。


 航が唖然としていると再びドアが開き、今度は弘堅が入ってきた。

 また航が驚いていると、敦がギターのチューニングをしながら、

 「お前も来たのか」

 と口にした。

 「来るに決まってるだろ」

 弘堅は軽く笑う。

 「お前にスタジオを教えたのは、3人で合同練習しようっていう意味だぞ」

 「えっ?どうなってるの?」

 航は訳が分からず、うろたえる。

 「すまん、航。ここでお前が練習してること、敦にバラしたんだ」

 弘堅は両手を合わせた。


 「おい、喋ってる暇があったら、練習を始めようぜ。時間が勿体無い」

 敦が冷静に言う。それから、

 「ああ、そうだ航、『キング・ヴァニラ』のアレンジ、前のバージョンに戻すからな」

 と告げた。

 「えっ?」

 「弘堅には、もう言ってある。そっちの方は前から練習してたし、頭に入ってるだろ」


 「それって、僕がちゃんと演奏できないから、仕方なく元に戻すんだよね」

 航が、悔しそうに言う。

 その様子を見て、弘堅は優しく声を掛けた。

 「お前だけの問題じゃないぞ。俺だって、新しいアレンジは辛かった。だから、敦に頼んだんだ。戻してもらって、ホッとしているよ」

 「でも、僕がもっと上手ければ」

 「航、落ち込むなよ。あのアレンジは、まだ俺達には難しすぎたんだよ。俺達、まだバンドとしては歩き始めたばかりだ。リトルリーグの選手に、メジャーリーガーの速球を打てというのは無謀だろ。それと同じようなことさ」

 「でも……」


 「ゴチャゴチャと、うるせえぞ」

 敦が声を張る。

 「いいか、アレンジを戻すのは、誰のためでもない、俺のためだ。俺がクリードで楽しみたいから、そうするんだ」

 「えっ?」

 「敦は気付いたんだよ。テクニックを追い求めるより、もっと大事なことがあるって。それは、何よりも自分たちが楽しむことだって」

 怪訝な表情を浮かべる航に、弘堅が微笑しながら説明する。

 「前のアレンジの方が、3人が楽しんで演奏できる。それがバンドにとっては一番なんだよ。そうだろ、敦」

 「ああ、そういうことだ。分かったか、航」

 「……うん、分かった」

 航は納得した表情を見せた。

 「よし、じゃあ始めようぜ、無駄話が長くなりすぎた」

 それから3人は、旧アレンジの『キング・ヴァニラ』を演奏した。

 新アレンジはプログレのテイストが入っていたが、旧アレンジはもっとシンプルで骨太なアメリカン・ロックになっている。



 「やっぱり、こっちの方がいいな。断然、グルーブ感が違うよ」

 演奏を終えて、弘堅は満足そうに言う。

 「航、お前も良かったぞ。なあ、敦」

 「ああ、いいスネアを鳴らしてた」

 敦が素直に誉める。

 すると航は真っ直ぐな目で、じっと敦を凝視した。

 「な、何だよ」

 「いや、敦に誉められるなんて、あまりにも久しぶりだから、どう反応していいか分からなくて」

 「お前は、良くやってるよ。……今まで言いすぎて、悪かったな」

 「ううん、とんでもない。こっちこそ、敦のレベルに追い付けなくて、済まないと思っているんだ」

 「調子に乗るなよ。お前が俺に追い付こうなんて、百年早いぞ。けど、お前はお前なりに、少しずつ成長して行けばいいんだよ」

 敦は気恥ずかしそうに言った。

 「うん、そうする」

 「弘堅、お前のベースも良かったぜ」

 「ああ、サンキュー」

 「ただし、もうちょっと抑え気味でもいい。ちょっと音がデカすぎる」

 「すまん、やりやすいアレンジに戻ったのが嬉しくて、つい調子にのったかな」


 「それで、俺はどうだったんだ?」

 敦は、弘堅と航の顔を交互に見た。

 「えっ、お前の演奏?」

 「ああ」

 「珍しいな、敦がそんなことを訊くなんて」

 「この際だから、ちゃんと聞いておこうと思ってな。率直な意見を言ってくれ」

 「僕たちがわざわざ言わなくても、敦のギターが素晴らしいのは分かり切ったことだよ」


 「弘堅の意見は、どうなんだ?」

 「本当に、率直な意見を言っていいんだな」

 「もちろん」

 「そうか。だったら正直に言うぞ」

 弘堅はコホンと仰々しく咳払いをしてから、再び口を開いた。

 「お前、ギターは上手いけど、歌は下手だぞ」

 「なぬっ」

 予想外の言葉に、敦はコケそうになった。


 「それは、マジなのか」

 「ああ、マジだ。曲が激しいのに、お前の声が細すぎるから、全く合ってない」

 「合ってない?」

 動揺を隠し切れぬまま、敦は航に視線を向ける。

 「おい航、お前は、どう思ってるんだ?」

 「えっ、それは、その」

 「頼む、ハッキリ言ってくれ」

 「まあ、あまり上手いとは……」

 航が申し訳無さそうに告げると、敦は愕然とした。


 「どうして、今まで言ってくれなかったんだ。弘堅、お前、最初から分かってたんだろ」

 「だって、お前がノリノリで歌っていたからさ。バンドは楽しいのが一番だろ」

 「いや、そうだけど、そうだけどさ。っていうか俺、歌が下手だったのかよ」

 敦は頭を抱えた。

 衝撃の事実を知らされて、すっかりキャラが崩壊してしまっていた。


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