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青春詰め合わせパック(9個入り)  作者: 古川ムウ
[9月下旬]
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28/52

<28:描けない片想い(3)>

中谷悠太・・・漫画研究部の高校3年生。

野口優作・・・中谷悠太の親友。漫画研究部の部長。

大野吉洋・・・中谷悠太の親友。漫画研究部の高校3年生。

柳沢知良・・・生徒会長。

能登奈緒美・・・生徒会副会長。


 「おーい、中谷」

 昼休み、弾んだ声が聞こえて、1組の教室に生徒会長の柳沢知良が入ってきた。

 「見ろよ、今日はカレーパンとメロンパン、どっちも手に入れたぞ。すごいだろ」

 そう言いながら、中谷悠太に2種類のパンを差し出す。カレーパンとメロンパンは、パン売り場で常に奪い合いになる大人気の商品だ。

 「さあ、食べてくれ」

 「いや、でも」

 悠太が困った表情を浮かべる。

 彼の左腕にはギプスがはめられ、三角巾で吊っている。

 漫画研究部の仲間である大野吉洋に突き飛ばされて転倒した際に、怪我を負ったのだ。

 幸いにも骨折はしておらず、ヒビが入っただけで済んだ。


 「せっかく自分で買ったんだから、柳沢君が食べてよ」

 「何を言ってるんだよ、お前のために買ってきたのに。大体、俺は弁当持参だから、パンは要らないんだよ」

 「でも、申し訳ないし。僕、自分で買う時も、カレーパンもメロンパンも手に入れたことなんか一度も無いのに」

 「だったら、ラッキーじゃないか。もっと喜べよ」

 知良は、にこやかに言う。



 悠太が怪我を負った後、知良は自分のせいだと責任を感じ、償いとして何かしたいと申し出た。

 「そんな必要は無いよ、柳沢君は何も悪くないんだから」

 と、悠太は遠慮した。

 実際、柳沢のせいではない。

 しかし知良は、

 「何かしないと自分の気が済まない」

 と譲らなかった。

 そして、悠太の昼食がパンだと知った彼は、

 「その腕で、目当てのパンを買う争いに参加するのは無理だろ。俺が買いに行くよ」

 と言い出したのだ。


 悠太は戸惑いつつも、知良の好意を無碍に断るのも悪いと考え、その申し出を受けることにした。

 ただ、知良が張り切って、普段の悠太では買えないような人気のパンを手に入れてくるので、恐縮してしまうのだ。



 「あの、もうそろそろ、いいよ」

 「何がいいんだ?」

 「パンを買ってもらうようになって1週間になるし、責任を感じているとしても、もう充分だよ」

 「ダメだよ、中谷の怪我がちゃんと治るまでは、やらせてくれなきゃ。俺の気持ちがスッキリしない」

 「そう言われても……」

 「それとも、もしかして俺の行為って、迷惑になってるのかな?」

 「いや、そうじゃないけど」

 もちろん悠太としても感謝しているが、周囲の目も気になる。

 今だって、知良がパンを持って現れた時、クラスメイトがチラッと目を向けた。

 その視線が悠太には、

 「あんなオタク野郎のために、どうして生徒会長がパシリのようなことをやっているのか」

 という冷ややかなものに感じられるのだ。

 根暗で卑屈な男の被害妄想かもしれないが、それは悠太にとってプレッシャーだ。


 「迷惑じゃないのなら、完治するまでは買ってくるよ。それが償いってものさ」

 知良は明るく言う。

 本人には全く悪気が無いのが、悠太にとっては悩ましい。

 「僕みたいなくだらない人間に、ここまで気遣いする必要は無いよ。柳沢君と僕は、住む世界が違うんだから」

 「えらく卑屈なことを言うんだな」

 「僕とは違って、君は人気者だからね。女性にもモテモテだし」

 「ははっ、なるほど。それなら、中谷が女だったら、他の女子生徒から妬まれるかもしれないな」

 そう言って、知良は快活に笑う。

 モテることを否定していないのに、全く嫌味なところは無い。

 それが彼の人気者たる所以だろう。


 「そうだ、何か他の方法にしたらどうかな」

 ふと思い付いて、悠太は言った。

 「パンを買ってくるだけが、償いになるわけじゃないし」

 「他の方法って、例えば?」

 「それは、その……」

 悠太は言葉に詰まった。

 提案したものの、具体的なことは何も考えていなかった。

 「そ、そうだ、絵のモデルになってよ」

 咄嗟に、そんなことを口にする。


 「モデル?」

 「そう。それなら、一日もあれば済むだろうし」

 「けど、中谷って美術部じゃなくて、漫研だよな」

 知良は首をかしげる。

 「えっ、ああ、そうだけど。実は最近、写実的な漫画にチャレンジしようかと思っていたんだ。昔の劇画とか、そんな感じの絵柄で漫画を描いてみようかと思ってね。それで、手始めに周りの人をモデルにした作品を描こうと思ったんだ。それで、柳沢君なら主人公にふさわしい人物だし、どうかなあと思って」

 悠太は、長い台詞を一気に捲くし立てた。


 「へえ、漫画のモデルか。ちょっと面白そうだな」

 興味深そうに、知良が言う。

 「でも、俺が主人公ってのは、おこがましいけど」

 「そんなことないよ。生徒会長で、人気者なんだから。是非、モデルになってよ。そうすれば、僕も助かるし、柳沢君は償いを済ませてスッキリできるし、一石二鳥だ」

 「本当に、モデルになるだけでいいのか?」

 「もちろん。パンを買ってもらうより、そっちの方が遥かに嬉しいよ」

 「それなら、喜んで引き受けよう。それで、いつ、モデルになればいい?」

 「えっと、それは、漫研の部室を使うことになるから、部活の時間と重ならないように考えないと。また後で連絡するよ」

 「そうか。分かった。それじゃあ、またな。そうそう、カレーパンとメロンパン、ちゃんと食べてくれよ」

 そう言うと、知良は教室を出て行った。



 悠太は知良を見送ってから、周りに遠慮するようにパンを抱え、部室へ向かおうとする。

 その時、肩越しにヌッとモジャモジャ頭が伸びてきた。

 「今のは、どういうことなんだ?」

 その頭が喋る。吉洋だ。

 「うわっ」

 悠太は驚いて、カレーパンを落とす。

 すると、それを床スレスレでキャッチした男子がいた。

 もう一人のモテないブラザーズ、野口優作だ。


 「写実的な漫画って、何だよ」

 優作は言いながらカレーパンの袋を破き、大口を開けてかぶり付く。

 「あっ、僕のカレーパン」

 「いいじゃないか、一口ぐらい」

 「2人とも、いつの間に来たんだよ」

 悠太が頬を膨らませる。

 吉洋も優作も、悠太とは別のクラスなのだ。


 「そんなことより、我々の疑問に解答してほしいな」

 「疑問って?」

 「写実的な漫画にチャレンジすると言っていたけど、あれは嘘だろ。そんな話、今までオレたちにしたことが無かったじゃないか」

 「お前の漫画、完全にオタク受けの絵柄じゃないか。何が写実的だよ」

 吉洋は失笑する。

 「今の絵柄は関係ないじゃないか。チャレンジするって言ってるんだから」

 悠太は反論する。

 「だったら、写実的な絵柄で漫画を描くつもりがあるのか」

 「えっ、ああ、それはもちろん。2人にも、モデルになってもらうつもりだよ」

 「嘘臭いなあ。それなら、彼より先に、俺たちをモデルにすべきだろ。どうして柳沢が最初なんだよ」

 吉洋が疑いの目を向ける。


 「だって、あの時は咄嗟に、何か言わなきゃいけないと思って。他のことを提案しないと、明日からも柳沢君がパンを買いに行ってしまうから」

 「別にいいじゃないか、本人がやりたがっているんだから」

 「良くないよ、彼は何も悪くないのに。大体、吉洋が僕を突き飛ばしたのがいけないんだぞ。もっと責任を感じたらどうだ」

 「それもそうだな。柳沢じゃなくて、吉洋が悠太の分のパンを買いに行くべきだよな」

 優作は同意を示す。

 「確かに、怪我をさせたことは悪かった。それについては、謝ったじゃないか。それに、怪我をしたことで、結果的に、悠太のためにもなっているだろ」

 「何がだよ。僕のためになんか、何もなってないよ」

 「いや、なってる。怪我をしたことで、お前のことを能登奈緒美に印象付けることが出来たし、心配してもらえるじゃないか」

 「シイッ、声が大きい。個人名を出すなよ」

 「ああ、悪い。だけど実際、能登には心配してもらえただろ」

 「廊下で会った時、怪我の具合はどうなのか訊かれた」

 ポツリと悠太が言う。


 「ほら見ろ、俺のおかげだぞ」

 「そんなの、ただの開き直りじゃないか」

 「事実を説明しているだけだ。それなのに悠太、お前はせっかくのチャンスを活かそうとしていない。その怪我を利用して、もっと積極的に行動しろよ。柳沢の絵なんか描いている場合じゃないだろ」

 「そうだな、モデルにするなら、能登奈緒美だよな」

 優作は呑気な口調で言いながら、またカレーパンを一口頬張った。

 「モデルの件は、パンを買ってきてもらう代わりに頼んだことだから、彼女は関係ないだろ。それと、個人名を出すなって言ったはず。みんなに聞かれたら、誤解されるだろ。あと、僕のカレーパンだぞ」

 「よし、もうモデルにするのは決まったことだから、しょうがない。だったら、それを利用しろ」

 そう告げた吉洋は、いつの間にかメロンパンを袋から出して食べていた。

 「もう、なんで当たり前のように食べてるんだよ」

 悠太は嘆息した。


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