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青春詰め合わせパック(9個入り)  作者: 古川ムウ
[9月下旬]
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23/52

<23:恋愛熱血少女(4)>

戸川春菜・・・高校3年生。

柱谷秀彦・・・戸川春菜の担任教師。

能登奈緒美・・・戸川春菜の親友でクラスメイト。生徒会副会長。


 その朝、いつもより早めに登校した春菜は、廊下を歩いて行く柱谷に気付いた。

 柱谷は、ギターケースを両手に抱えている。

 「あっ、せんせーい」

 春菜は明るく呼び掛けて、柱谷に駆け寄った。

 「おお、戸川か」

 「重そうですね。持ちましょうか」

 「いや、大丈夫だ」

 「遠慮しないで、こっち、持ちますよ」

 春菜は片方のギターケースを柱谷から奪い取った。


 「全く、強引な奴だな」

 「フフッ、一緒に帰った仲じゃないですか。これぐらい、手伝いますよ」

 嬉しそうに春菜が言う。

 「誤解を招くような言い方をするな。誰から聞かれたら、どうするんだ」

 柱谷が声を潜め、周囲を気にする。

 「先生、意外と心配性なんですね。大丈夫ですよ、あのことは誰にもバレてませんし」

 「お前な、その言い方だと、何かあったみたいじゃないか。ただ駅まで送っただけなのに」

 「はいはい。それで、このケース、どこへ運ぶんですか」

 「軽音の部室だ」

 「そうか、先生、軽音楽部の顧問になったんですよね」

 これまで顧問だった小畑先生が産休に入ったため、柱谷が新しく顧問を務めることになったのだ。


 「だけど先生が軽音の顧問だなんて、全く似合わないですね」

 春菜がクスッと笑う。

 「そうか?どこが似合わないんだ?」

 「何となく、先生と音楽って、距離が遠い感じがしますよ」

 「それは心外だな」

 柱谷が不満そうな顔をする。

 「これでも学生時代は、バンドを組んでいたんだぞ」

 「ええっ、そうなんですか?」

 「ああ、レッド・ツェッペリンのコピーバンドをやっていた。レッド・ツェッペリンって言っても知らないか。そういう世界的グループがあったんだ」

 「先生、担当パートは?」

 「ボーカルだ」

 「うそー、信じられない。それじゃあ、歌が上手いんですね」

 「まあ、それなりに」

 得意げに、柱谷が言う。


 「今度、聞かせてくださいよ」

 「機会があればな」

 「じゃあ、一緒にカラオケにでも行きましょうよ」

 「おいおい、それは違うだろ」

 「ダメですか」

 「ダメに決まってる」

 「ちぇっ、残念」



 そんな会話をしている間に、軽音の部室に着いた。

 柱谷は部室のドアを開け、

 「あいつら、散らかしやがって。整理しないとダメだな」

 と愚痴った。

 「ありがとう戸川、もういいぞ」

 柱谷が手を出し、ギターケースを渡すよう促す。

 「はーい。それじゃあ先生、また後で」

 春菜はギターケースを渡し、部室に入って行く柱谷の背中を眺めた。

 それから、ウキウキした気分で、教室へ向かった。

 途中で奈緒美に出会い、勢い良く肩を叩く。


 「よっ、奈緒美」

 「何よ、朝っぱらからニヤニヤして」

 「へへっ、ちょっとね」

 「そういう顔をするってことは、メラ谷のことでしょ」

 「うん、まあね」

 「自転車作戦が成功してから、完全に浮かれモードね」

 「いいじゃない。恋する乙女はハッピーなのよ」

 「だったら、ちょっと親戚筋から小耳に挟んだ話があるんだけど、そんな乙女には言わない方がいいのかなあ」

 奈緒美は、意味ありげに漏らす。

 「何かあるの?」

 「例の花屋の店員と、アンタの愛しいメラ谷、どうも結婚に向けて話が進んでるらしいんだよね」

 「えっ」

 春菜の顔色が変わる。


 「嘘でしょ、そんなの」

 「あくまでも噂だから、そりゃあ本当かどうかは知らないけどね」

 「だって先生、付き合っている相手はいないって」

 「だから、本当かどうかは知らないって。ただ、メラ谷も28歳だからねえ。結婚を考えても不思議ではない年よね」

 「先生が結婚?そんなの、有り得ないわ」

 言うや否や、春菜はダッと駆け出した。

 「ちょっと、どこへ行くの」

 奈緒美の呼び掛けを無視して、春菜は軽音の部室へ向かった。



 春菜がガラッと乱暴にドアを開けると、柱谷は部屋を整理していた。

 「どうした、戸川」

 驚いた様子で、柱谷が視線を向ける。

 「先生、私に嘘をついたんですか」

 春菜は悲しそうな目で、キッと睨む。

 「いきなり、何のことだ?」

 「前に、恋人はいないって言ったのに」

 「はあっ?」

 「確かに言いましたよ」

 春菜はツカツカと歩み寄る。

 「ああ、そう言ったかな。それが、どうかしたのか」

 「なのに先生、花屋の女の人と結婚するんですか」

 「お前、その話、どうして知ってるんだ」

 柱谷が狼狽する。


 「やっぱり、本当なんですね」

 「いや、それは違うぞ。誤解がある」

 「何が誤解なんですか」

 春菜が詰め寄る。

 「とりあえず、落ち着け」

 柱谷は春菜をなだめながら、困った表情を浮かべた。

 「その人とは、両親同士が親しくて、結婚させようと勝手に画策しているだけだ。彼女にも俺にも、結婚する気は全く無い」

 「本当ですか」

 まだ疑いの目で見る春菜。

 「こんなことで嘘を言っても仕方が無いだろう」

 「そうか、良かったあ」

 春菜は、安堵の溜め息を漏らした。


 「戸川、どこからそんな話を聞いたんだ」

 「へへっ、それは秘密です」

 「どうであれ、信用性の低い情報源みたいだな。全く、どうして、こんなことをお前に釈明しなきゃならないんだ」

 柱谷は、渋い顔をする。

 「先生が結婚するって聞いたから、心配になったんです」

 「仮に結婚するとしても、別に構わないじゃないか。お前に心配される意味が分からないぞ」

 (それは先生のことが好きだから)

 そう言いたいところだが、それは心の中に留めて、春菜は別のセリフを選んだ。


 「だって、先生が変な女の人と一緒になったら、嫌じゃないですか」

 「変な女の人って。それだと、まるで由香里さんが変な人みたいじゃないか。あの人は、ちゃんとした女性だぞ」

 「ユカリさんって言うんですか、その人」

 春菜は、ピクッと頬を引きつらせた。

 「下の名前で呼ぶんですね」

 「そんなに引っ掛かるようなことか?」

 「私のことは、苗字で呼ぶじゃないですか」

 「そう言われれば、そうだが。でも由香里さんのことは昔から知ってるからな。それに、生徒は苗字で呼ぶのが普通じゃないのか」

 「ユカリさんって、美人らしいですね」

 「それも、さっきの情報提供者からのネタなのか」

 柱谷は苦笑する。


 「だが、その情報は正しいな。確かに、綺麗な人だよ。それに外見だけじゃなく、内面も素晴らしい」

 「へえ、随分と誉めるんですね」

 春菜はトゲのある言い方をする。

 「やっぱり先生、その人に気があるんじゃないですか」

 「それは無いよ。あったとしても、向こうが相手にしてくれるはずもないし」

 「じゃあ向こうが好意を寄せたら、先生は受け入れるんですね」

 「いや、そういうわけでは」

 柱谷は、言葉に詰まった。その態度を目にした春菜は、頬をヒクヒクさせた。

 「いやらしい」

 吐き捨てるように呟く春菜。


 「おいおい、そんな言い方は無いだろう。俺だって男なんだぞ、美人には弱い」

 「あっ、開き直った」

 「世の中の真理を言っただけだ」

 「やっぱり親同士が勝手に結婚話を進めているっていうのは嘘で、本人同士でも交際が進んでいるんじゃないですか」

 「ぶり返すなよ、それは無いって」

 「もしかしたら、ミッキーのヌイグルミも先生の趣味じゃなくて、その人の趣味なんじゃ」

 「馬鹿を言うな、俺はずっとディズニーのファンだ。部屋はディズニーのグッズで一杯だし、ディズニーランドには50回以上行ってるんだぞ」

 柱谷は真剣な顔で怒鳴る。


 一瞬、妙な沈黙の時間があった。

 それから春菜は、クスッと笑った。

 そんなことを熱く訴える柱谷を見て、嫉妬の炎はすっかり鎮火した。


 「可愛いですね、先生」

 「か、可愛いって、教師に向かって言う言葉か」

 柱谷は恥ずかしそうに、こめかみの辺りをポリポリと掻いた。

 「もう、いいです。そのユカリさんとのことは、許してあげます」

 春菜はスカートをヒラリと翻し、音楽準備室を出ようとする。

 「いや、許すとか許さないとかいう問題じゃないだろう。大体、どうしてお前がそんなことでいちいち……」

 「先生、そろそろ1時間目の準備があるんで、行きますね」

 柱谷の言葉を遮り、春菜が言った。

 「おい、まだ話は終わってないぞ」

 「だったら、また昼休みにでも。先生も早くしないと、授業に遅れますよ」

 そう告げると、春菜は教室へ向かって駆け出した。



 春菜が教室に戻ると、すぐに奈緒美が話し掛けてきた。

 「どこへ行ってたの」

 「先生の所」

 「もしかして、直接、確かめに行ったの?」

 奈緒美は驚く。

 「まあね」

 「アンタ、そういう時の行動力だけはすごいわね。それで、どうだったの」

 「結婚話は、親同士が勝手に進めようとしているだけだって」

 「ふうん、そうなの。それじゃあアンタとしては、ホッと一安心ってとこね」

 しかし春菜は、

 「そうでもないかな。モタモタしてたら、取られちゃうかもしれない。だから、こっちも次のステップに移るべきかも」

 と口にする。

 「次のステップ?」

 「うん」

 春菜は含んだように微笑した。


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