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青春詰め合わせパック(9個入り)  作者: 古川ムウ
[9月下旬]
21/52

<21:学園祭への道(2)>

大森昌彦・・・学園祭実行委員長。

斉藤俊也・・・学園祭実行副委員長。

西田・・・学園祭実行委員。

黒崎・・・学園祭実行委員。

加茂文治・・・生活指導教師。

野口優作・・・漫画研究部の部長。

上野正秀・・・陸上部のキャプテン。大森昌彦と斉藤俊也の親友。


 その日、登校した昌彦は、俊也から思いがけないことを聞かされた。

 「ちょっと小耳に挟んだ話があるんだけど」

 俊也は、なぜか声を潜めた。

 「駅前のショッピングモールが、改装のために一時閉鎖するのは知ってるよな」

 「ああ、知ってる」

 俊也の意味ありげな態度を見て、昌彦は妙な不安にかられた。

 「あのモールの前に、鉄の像があっただろ」

 「鋼鉄獣のことか」


 モールの外には、鉄で作られた3つの像が置かれていた。

 それは幻想の獣を模したもので、全長は約2メートルだ。

 正式な作品名は別にあるのだが、多くの人々は鋼鉄獣と呼んでいる。


 「あれが、どうかしたのか」

 「あの鋼鉄獣、モールの閉鎖で移動させなきゃいけなくなって、ウチの学校が引き取るらしいぜ」

 「この学校が?どうして」

 「あれの作者、ここの卒業生だろ。それで、作者が話を持ち掛けて、そう決まったらしい」

 「へえ、そうなのか。しかし、この学校に似合うのかな、あの鉄像」

 そこまで言って、昌彦は、あることに気付いた。


 「おい、それって、いつ来るんだ?」

 「それだよ」

 俊也は、我が意を得たりといった感じで昌彦を指差す。

 「あの大きさだし、せっかく引き取るんだから、たぶん校庭の目立つ場所に置くんじゃないかと思うんだ。学園祭より前に運ばれてきた場合、面倒だぞ」

 「そうなったら、学園祭のブースの割り当ても、変更しなきゃいけなくなってくるな」

 「もし鋼鉄獣を引き取る話が、本当だったらな。ただの噂ならいいんだけど」

 「おい、確かめに行こうぜ」

 昌彦が顎をしゃくる。

 「確かめるって?」

 「加茂の所へ行って、訊くんだよ」

 「お前、加茂が嫌いじゃなかったのか」

 「嫌いだけど、そんな大事なことを放っておけないだろ。早く確かめて、もし単なる噂なら、安心したい。付き合ってくれ」

 「しょうがないなあ」



 昌彦は俊也は、職員室へ赴いた。

 加茂の元へ行き、声を掛ける。

 「先生」

 「んっ、どうした」

 加茂は何やら作業をしており、首だけを2人に向けた。

 「ちょっと確認したいことがありまして。実は、ショッピングモールの鋼鉄獣を、ウチの学校で引き取ると聞いたんですけど」

 「どこから聞いたんだ、その話」

 加茂は小さく驚き、体ごと二人の方を向いた。

 「情報が早いな」

 「ってことは、本当なんですか」

 「ああ。昨日の職員会議で、正式に決定した」

 「運ばれてくるのって、いつ頃ですか」

 「再来週の土曜か日曜だな」

 「げっ」

 昌彦は小さく呻く。


 「それで、どこに置くんですか」

 俊也が尋ねた。

 「一応、アース・エリアの、スポットの近くに配置する予定だ。まだ本決まりじゃないから、変更する可能性もあるが」

 「アース・エリアですか」

 昌彦は顔を引きつらせる。



 城陽学園の校庭は4つの区画に分けられており、それぞれに火・水・風・土という四大元素の名前が付いている。

 その区画は、そこの元素に合わせた色で舗装されている。

 それぞれのエリアの真ん中辺りには、元素をイメージしたマークが描かれており、それはスポットと呼ばれている。

 アース・エリアは、正門から入ってグラウンドへ向かう辺りの区画だ。

 特にスポット周辺は、最も多く人が通行する場所と言っていいだろう。



 「そこ、学園祭で使うんですけど」

 「それについては、言おうと思っていた。こういうことになったので、割り当ては変更してくれ」

 加茂は事務的な口調で述べた。

 「いや、変更してくれって。さんざん考えて、ああいう形で決まったんですよ」

 「だから、また考え直せばいいだろう」

 「もう余っている場所なんて、他にありませんよ。あそこのスペースを使われたら、困ります。何とかならないんですか」

 「だったら、鋼鉄獣はどこに置けばいいというんだ?他の場所に移せば、何とかなるのか」

 「それは……」

 「どこに置いたところで、学園祭で使う予定だった場所になるはずだ。違うか?」


 加茂の言う通りだった。

 自転車置き場や焼却炉の近くなど、催し物で使わない場所もあるにはある。

 ただ、そんな場所に配置するわけにはいかないだろう。


 「だったら、引き取る日程を延ばしてもらうことは出来ないんですか。学園祭が終わった後なら、問題は無いんですから」

 昌彦は提案するが、

 「それは無理だな。もう決まったことだ」

 と、加茂は即座に却下した。

 そこで、やや興奮気味の昌彦を制するように、俊也が冷静に質問する。

 「鋼鉄獣の引き取りについて話し合った時、学園祭の支障になるという問題は、議題に挙がらなかったんですか」

 「それについては、学園祭だけでなく、様々なイベントの時に邪魔になるのではないかという意見も出た。だが、仮に最初からあったとしたら、それが邪魔にならないようにイベントを実施するだろう。そう考えれば、あまり気にすることは無いだろうという結論が出た」

 「そんな無茶苦茶な」

 昌彦が頬の肉を吊り上げる。


 「もちろん、今回の学園祭に支障が出ることについては、申し訳ないという気持ちはある」

 そんな気持ちは微塵も無さそうな顔で、加茂は言う。

 「しかし、卒業生が作った有名な作品が校内に設置されれば、それだけ学園祭の集客にも繋がるんじゃないか。結果的には、プラスに作用するはずだぞ」

 「集客の効果はともかく、こっちは何も聞かされてなかったんですよ。せめて事前に知っていたら、それなりに対応も出来たのに」

 昌彦が愚痴る。

 「しょうがないだろう、急に話が持ち込まれて、昨日の時点で決まったばかりなんだから」

 加茂は開き直ったように告げた。


 「こっちは、鋼鉄獣が来ることなんて想定外ですよ。そういうことを先生たちで決定したのなら、学園祭の割り当てのことも、そっちで考えてくださいよ」

 「何を言ってるんだ。こういう問題こそ、お前たちで解決しなきゃダメだ。学園祭が生徒の自主的な運営で催されるというのは、そういうことを意味するんだ。都合の悪い時だけ教師に頼るな」

 (何を言ってやがる、むしろ都合の悪い時だけ、生徒に全て委ねやがって)

 昌彦は憤りを覚えたが、グッと堪えた。

 「……分かりました、何とか処理しますよ」

 「そうか、それならいい」

 加茂は小さくうなずく。


 「ああ、それから」

 昌彦と俊也が立ち去ろうとすると、加茂が思い出したように口を開いた。

 「昨日、実行委員が学園祭のポスターを置いていっただろう」

 「ええ」

 学園祭のポスターは、昨日の放課後、実行委員の一人が加茂の元へ持って行った。

 その時、加茂は別の用事で忙しく、チェックしておくから置いていくよう指示した。

 「あれ、許可できない物があったぞ」

 「えっ、どれですか」

 「ちょっと待てよ」

 加茂は机の下から数枚のポスターを取り出した。

 「ああ、これだ」

 その内の一枚を、加茂が掲げる。


 それは、漫画研究部に頼んで描いてもらったものだった。

 今回、昌彦はポスター作成を美術部、写真部、漫画研究部に依頼していた。

 それぞれの部に一枚ずつ作成してもらい、その3パターンを掲示するつもりだ。

 加茂がダメ出しをしたのは、城陽学園の制服を着た女子高生が手招きをしているイラストが描かれたポスターだ。

 漫研の部長、野口優作が描いた作品だ。

 可愛いキャラクターだし、昌彦が見た限り、特に問題がありそうには思えなかった。


 「どこがダメなんですか」

 「スカートがめくれて、パンツが見えているじゃないか」

 当然だろうと言わんばかりに、加茂が女子高生の下半身を指差した。

 確かに、躍動感のある女子高生のスカートがひらりと舞い、パンティーがチラリと覗いている。

 「女子のパンツが見えているなんて、ハレンチだぞ。公序良俗に反する」

 「いや、だけど、このぐらいは」

 昌彦は苦笑いを浮かべ、同意を求めるように俊也を見た。

 俊也は肩をすくめる。


 パンツが見えていると言っても、ほんの少し覗いているだけだ。

 時代錯誤も甚だしい考え方だと、昌彦は呆れた。

 そもそもパンティーじゃなくてパンツという表現が古臭いし、ハレンチなんて完全に死語だ。

 しかし加茂は、大真面目である。


 「このぐらいと思って許していたら、どんどんエスカレートする危険もある。こういった性的描写は許可できない」

 「今時、パンチラ程度で興奮するような奴もいないでしょうし、せっかく漫画研究部が描いてくれたんですから」

 「こういうものを描く時点で、間違っているんだ。そもそも、どうして女子高生じゃなきゃいけないんだ?」

 「それはまあ、色々と」

 昌彦は返答に詰まる。そんな疑問を提示されるとは予想していなかった。

 (だったら、どうして女子高生だとダメなんだよ)

 そんな言葉は喉元で止めて、昌彦はそれ以上の反論を諦めた。

 どうせ食い下がったところで、加茂の意見が撤回されることは期待できなかった。


 「それじゃあ、このポスターは漫画研究部に言って、作り直してもらいます」

 「そうしてくれ」

 「他の奴は大丈夫なんですね」

 「ああ、他のも返しておく」

 昌彦は提出してあった全てのポスターを受け取った。

 「失礼します」

 昌彦と俊也は、職員室を後にした。



 「むうぅぅぅっ」

 教室へ向かいながら、昌彦が猟犬のように唸った。

 「勝手に鋼鉄獣は引き取るわ、あの程度でポスターはアウトにするわ、何なんだよ」

 「まあ鋼鉄獣は、加茂の独断で決めたわけじゃないし」

 「俊也、お前は加茂の肩を持つのか」

 「そういうつもりじゃないけど」

 「だったら、そっちは置いておくとしても、ポスターはどうなんだよ。この程度で却下って、理不尽だろ」

 昌彦はダメ出しを食らったポスターを広げた。

 「まあ、確かに。こんなパンチラ、今時、少年漫画でも普通にあるしな」

 「そうだろ。あのオッサン、数十年前からタイムスリップしてきたのかよ。くそっ、次から次へと厄介なことが起きる」

 昌彦が苛立つ。


 「俊也、お前、去年も実行委員だったよな。去年も、こんなに面倒ばかり起きたか?」

 「副委員長じゃなくて、ただの委員だったから全てを把握しているわけじゃないけど、そんなにトラブルは起きなかったかも」

 俊也が思い出しながら返答する。

 「去年の実行委員長は、順調だったと言っていたし。それに比べると、今年はトラブルが多いな」

 「お前もそう思うか。そうなんだよ、やっぱり多いんだよ」

 「それに去年は、許可を取るのも、こんなに面倒じゃなかった。ほとんど一発OKだった気がするな」

 「去年の担当教師って誰だ」

 「美濃部だった」

 「美濃部か。いいなあ」


 美濃部昭宏は英語教師で、去年は学園祭担当だった。

 彼は生徒に対して、厳しいことはほとんど言わない。

 だったら生徒から人気があっても良さそうなものだが、その評価は低い。

 それは、厳しくない代わりに、何か問題が起きても、なるべく避けようとするからだ。

 ようするに事なかれ主義なのであり、生徒からは“何もしない美濃部”と呼ばれている。


 「美濃部なら、さっきのポスターも許可が出たのかもしれないなあ」

 昌彦は羨ましそうに呟く。

 「加茂の奴、少しは美濃部を見習え」

 「普段は美濃部を軽蔑しているくせに、こんな時だけ持ち上げるなよ」

 俊也がツッコミを入れる。

 「だってよ、加茂は厳しすぎるぜ」

 「ただ、それが加茂だけの考えかどうかは微妙なんだよ。どうやら去年のチェックが甘すぎて、その反動で今年は厳しくなっているらしいんだ」

 「本当かよ」

 「噂で聞いただけだから、事実かどうかは分からないけどな」

 「そうなのか。くそっ、美濃部の奴め」

 「おいおい、変わり身が早いな」

 俊也が呆れたように笑った。


 「ともかく、何を言っても事態は変わらないんだ。何とかしなけりゃな」

 「そうだな」

 昌彦も同意する。

 「ポスターは、優作に頭を下げて、やり直してもらおう。そっちは、それで解決できる。問題は、ブースの割り当てだよな。アース・スポットの辺りって、どこが使う予定になってたっけ」

 「聞きたいか」

 なぜか俊也は、急に重々しい口調になる。

 「何だよ、その態度は」

 「午前中は、バトン部の演技が行われる」

 「なるほど。演技には、それなりに広い場所が必要だな。代わりの場所は、ちょっと大変かもしれないな。でも、お前の神妙な態度は、どういう意味なんだよ」

 「午後から、どこが使うか覚えてるか」

 「午後?いや、覚えて……あっ」

 喋っている間に、昌彦は思い出した。そして思い出した途端、顔が引きつった。

 「午後に、空手部の演舞がある」

 俊也が静かに述べた。

 「よりによって、空手部が使えなくなるのか。なんてことだ」

 昌彦は呻く。


 空手部は強面揃いで、あまり近付きたくない部類の連中ばかりだ。

 実際、見た目が怖いだけでなく、中身も怖い。

 昌彦は学園祭の打ち合わせで会った時、何の理由も無いのに、鋭い眼光で睨み付けられた。

 向こうには脅す気など無かったのかもしれないが、まるでヤクザ予備軍のようだと昌彦は縮み上がった。


 「最悪だ」

 昌彦は天を仰いだ。


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