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青春詰め合わせパック(9個入り)  作者: 古川ムウ
[9月下旬]
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20/52

<20:恋と畳と柔道着(3)>

平井悟・・・柔道部員の高校2年生。

小原輝雄・・・平井の親友。

小原弥生・・・小原輝雄の姉。学校のOB。

秋田隆三・・・柔道部の主将。

瀬田伊織・・・テニス部員の高校1年生。


 柔道部の道場では、畳がバシンバシンと激しく音を立てている。

 部員が乱取り稽古をしているのだ。

 対抗戦が近いので、選抜メンバーは特に気合いがみなぎっている。

 その中にはもちろん、2年で唯一の選抜メンバーである悟の姿もある。



 「せやっ」

 雄叫びと共に、主将の秋田が悟の腕を取って背負った。

 悟の体はきれいに弧を描き、畳に投げ付けられた。

 天井を仰ぎ、悟はフッと小さく息を吐く。


 「おい平井、こっちへ来い」

 秋田は柔道着の襟を整えながら顎をしゃくり、悟を道場の隅に呼んだ。

 悟は立ち上がり、主将に従う。

 「どうした悟、あんな簡単に投げられるなんて」

 険しい顔で秋田が言う。

 「お前らしくないぞ。稽古に集中できていないのか」

 「いえ、主将の技が切れていたからです」

 「違うな。お前、悩みがあるだろう。それで稽古に身が入っていないんだ」

 見透かしたように言われ、悟はうろたえた。


 「いえ、そんなことは」

 「怒るつもりは無いから、ごまかすな。この前から、どこか変だとは思っていたんだ」

 「……分かりますか」

 悟は視線を落とす。

 「ああ、組んでみれば、心の中まで分かる。俺には全て、お見通しだぞ。お前は今、あることで迷いを抱いている」

 「ええ、そうです」

 「水臭いぞ、どうして相談してくれなかったんだ」

 「主将に相談するようなことではないと思ったので」


 「何を言っているんだ、むしろ主将だからこそ、俺に相談すべきじゃないか。俺も似たような経験が何度かある」

 「そうなんですか」

 悟は小さく驚く。

 「お前と1つしか学年は違わないが、キャリアは遥かに長いからな。そんな時期もあったんだよ」

 「意外でした」

 「意外なことがあるものか。最初に悩みを感じたのは小学校の頃だぞ」

 「それは早いですね」

 「今のお前は踏み込みが甘い。一歩なんてわずかな距離だが、それが重要なんだ」

 「だけど、経験が無いから、自信が持てないんですよ」


 「色々と余計なことを考えすぎているんじゃないか。どんな奴にでも、必ず武器があるんだ。お前にだってあるだろう」

 「武器ですか」

 悟が考え込む。

 「そうだ。お前の武器は、何だ?」

 「そうですねえ、秘めた優しさ、ですかね」

 「はっ?何を言っているんだ」

 秋田が、怪訝な顔になる。

 「お前の武器は大外刈りだろうが」

 「へっ?」

 悟が素っ頓狂な声を発した。


 しばし、気まずい沈黙が流れる。


 「……小原、俺は対抗戦が近くてプレッシャーに悩んでいるのだと思っていたが、ひょっとして、柔道のことじゃないのか」

 秋田が疑念の目を向ける。

 「そ、そんなことは。柔道の悩みに決まってるじゃないですか」

 悟は狼狽した。

 「柔道の武器で、秘めた優しさってのは何だ」

 「それは、その、えっと、あ、小便に行ってきます」

 悟は上手い言い訳が見つからず、その場から逃げ出した。


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