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青春詰め合わせパック(9個入り)  作者: 古川ムウ
[9月下旬]
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18/52

<18:悩んで悩んで悩むのだ(3)>

角田雄一・・・3年3組の生徒。

星慎吾・・・角田雄一の親友でクラスメイト。

三上茂輝・・・角田雄一の親友。3年2組の生徒。

柳沢知良・・・角田雄一のクラスメイトで生徒会長。

美濃部昭宏・・・角田雄一の担任教師。

和田律子・・・パン屋のおばさん。


 城陽学園では、生徒の昼食は四択だ。

 大半の生徒は、弁当、学生食堂、パン食のいずれかを選ぶ。

 ほとんどの生徒が選ばない四つ目の選択肢は、「食べない」ということだ。


 パン食の生徒は昼休みになると、一階のエントランスへ向かう。

 学校から販売を委託されている業者が、そこにパンの什器を置くからだ。

 人気のカレーパンとメロンパンはすぐに売り切れてしまうので、昼休みになると、それを狙う生徒たちによる激しい競争が繰り広げられる。



 雄一は、パン戦争が鎮まり、ほとんどの生徒が購入を終えた頃になって、ようやくエントランスへ向かった。

 それは、いつものことだ。

 彼は腹が満たされれば何でもいいという考え方で、カレーパンやメロンパンへの欲求は全く無い。

 混雑の中に身を投じてまで、美味しい物を食べようとする感覚が、彼には理解できない。


 雄一がエントランスへ行くと、什器の前には一人の生徒もいなかった。

 大体、雄一が行く時は、そんな感じである。

 パンを売っているのは、和田律子という中年女性だ。


 律子はやって来る雄一を見つけ、ダミ声を発した。

 「角田君、今日も殿様出勤ね」

 「どうも、おばちゃん」

 雄一は軽く会釈する。いつも一人だけ後から悠然と現われるので、律子も雄一のことは覚えているのだ。

 律子は40代後半で、下半身のどっしりとした女性だ。自分を若く見せたいという気はさらさら無いらしく、典型的なオバサンパーマを当てている辺り、むしろ年配に見られたいのかと思わせるほどだ。


 雄一は什器を覗き込んだ。

 残っているパンは、毎日、ほぼ変化が無い。

 「これと、これと、これで」

 雄一は、小倉あんパンと蒸しパンと野菜サンドを指差した。

 「はい、じゃあ360円ね」

 律子がパンを渡し、雄一から金を受け取る。


 パンを貰った雄一は、ふと思い付いて、質問を投げ掛けた。

 「ねえ、おばちゃん、パンは好き?」

 「いきなり何を訊くの。そりゃあ好きだよ、もちろん」

 律子が笑いながら答える。

 「そうか。そりゃあ、そうだよな。やっぱり、好きなことを仕事にするのが一番だよなあ」

 雄一は、深くうなずいた。


 「何を言ってるの、角田君?」

 「いや、おばちゃんは好きなことを仕事にしているから、羨ましいなあと思って」

 すると律子は顔をしかめ、手を横に振る。

 「羨ましくなんか無いわよ」

 「えっ、どうして?」

 「言っとくけど、この仕事は生活のためにやってるんだからね。パンは好きだけど、それでパンを売る仕事をやるようになったわけじゃないわ。そんなことを言い出したら、私はパンよりも寿司の方が好きなんだから、寿司屋にならなきゃいけなくなっちゃうわよ」

 「そうなんですか。パン屋さんってのは、みんなパンが好きなんだと思っていました」

 「そりゃ町のパン屋とか、自分でパンを焼いている職人なら話は別だろうけどね。私は、ただ雇われて売り子をしているだけだから」

 「はあ」

 饒舌に捲くし立てる律子の勢いに、やや雄一は気圧された。

 「パンは好きだけど、それだけじゃあ、やっていけないよ。ウチは旦那の稼ぎが少ないから、アタシも働いているだけ。旦那の稼ぎだけで生活できれば、こんなことやってないって」


 「あの、もう充分に分かりましたから」

 雄一は困惑の表情で言う。

 「あら、そう。嫌だねえ、年を取ると愚痴っぽくなっちゃって。でも、そっちが質問してきたから、答えたんだからね」

 「ええ、分かってます。もう充分に分かりました。それじゃあ、そろそろ行かないと、食べる前に昼休みが終わっちゃうんで」

 そう言うと、そそくさと雄一は立ち去った。


 「あの人、あんなキャラだったのか」

 そう言いながら、雄一は買ったパンを眺める。

 それから彼は、律子の言葉を思い起こす。

 パンが好きなだけでは、やっていけない。

 旦那の稼ぎが少ないから働いているだけ。


 「現実って、厳しいなあ」

 世知辛さを感じ、そう呟く雄一であった。


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