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青春詰め合わせパック(9個入り)  作者: 古川ムウ
[9月下旬]
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17/52

<17:恋愛熱血少女(3)>

戸川春菜・・・高校3年生。

柱谷秀彦・・・戸川春菜の担任教師。

能登奈緒美・・・戸川春菜の親友でクラスメイト。生徒会副会長。


 夕方、教師の柱谷は仕事を終え、駐輪場へ向かった。

 彼は家から高校まで、自転車で通勤している。

 独身の彼はアパートで一人暮らしをしており、高校からは自転車で15分程度の距離にある。

 それより近い場所に住んでいる同僚教師が車で通勤しているのに、柱谷は自転車だ。

 車を使わない理由を、柱谷は同僚に「健康のため」と説明している。

 それも理由の一つではあるが、そもそも彼は車を所持していない。



 「あれっ、おかしいな」

 柱谷は上着のポケットを探りながら、そう呟く。

 その様子を、春菜が校舎の陰から覗き見ていた。

 (ふふっ、困ってる、困ってる)

 春菜が悪戯っぽく微笑する。

 柱谷はズボンのポケットに手を突っ込み、次にアタッシェ・ケースを開けてゴソゴソとやり始めた。


 (そろそろ、いいかな)

 春菜はタイミングを見計らって、柱谷に近付いた。

 「先生、どうかしたんですか」

 「おお、戸川か。どうしたんだ、こんな時間まで。お前は部活も無いはずだろ」

 「ええ、ちょっと」

 部活動は無いが、別の用事があるから残っていたのだ。

 それは彼女にとって、ものすごく大切な用事だ。

 「それより先生、何か探し物ですか」

 「ああ、自転車の鍵が見つからなくて」

 「だったら、私も探すのを手伝いますよ」

 「いや、いいよ。お前は早く帰れ。もう遅いから、気を付けてな」

 「でも先生が困っているのに、放っておいて帰るなんて」

 「探すと言っても、その辺りに落ちているわけでもないんだから。俺のポケットかカバンか、そこに無ければ職員室だろう。だから、助けは要らない」


 (それだと困るのよ)

 せっかく遅くまで残っていたのに、それを無意味にするつもりなど、春菜には無かった。

 「先生、カバンの中は、ちゃんと探したんですか」

 「ああ、探した。しょうがない、職員室に戻ってみるかな」

 「その前に、ちょっとカバンを貸してください。他人が探したら、思いがけず見つかる場合だってありますよ」

 春菜は半ば強引に、柱谷のカバンを奪い取った。

 「おいおい、何をするんだ」

 「私が探すんです」

 「だから、カバンの中は探したと言ってるじゃないか」

 「念のためですよ。先生が見落としているかもしれませんからね」

 「お前なあ、他人のカバンを漁るなんて、趣味が良くないぞ」

 そう言いながらも、柱谷は怒ったりせず、春菜にアタッシェ・ケースを委ねた。


 (ふふっ、こういう所が優しいのよね、先生は)

 春菜は改めて柱谷の魅力を感じつつ、アタッシェ・ケースの中を調べる。

 教科書や学校関係の書類の他に、教育について書かれた本や新聞などが入っている。

 そんな中に、意外な物を見つけた。手のひらサイズの、ミッキーマウスのヌイグルミだ。

 「先生、これって?」

 「あっ、しまった」

 ヌイグルミを見せると、柱谷は顔をしかめた。


 「先生、ミッキーマウスが好きなんですか」

 「ミッキーだけじゃなくて、ディズニーが好きなんだよ」

 気まずそうに、柱谷が告げる。

 「でも、使ってる筆記用具とか、ディズニー・グッズは一つも無いですね」

 「隠してるんだよ、柄に合わないから。それだけは、お守り代わりとしてカバンに入れてるんだ。お前だって、似合わないと思っただろ」

 「いえ、全然。私もディズニー、好きですから。ディズニーが好きな人に、悪い人はいませんよね」

 春菜は微笑む。柱谷のプライベートを知ることが出来て、彼女の心は弾んだ。


 「なあ戸川、ここでお前とディズニーについて話している場合じゃないんだ。鍵を探す気が無いのなら、カバンを返してくれ」

 「ちゃんと探してますよ」

 春菜が慌てて言う。

 そうだ、浮かれている場合ではないのだ。

 彼女には、遂行せねばならない作戦がある。


 春菜は右手をアタッシェ・ケースから抜き、今度は左手を軽く握った状態で入れた。

 実は、その手の中に、彼女は自転車の鍵を隠し持っていた。



 昼間、春菜は奈緒美と一緒に職員室を訪れた。 

 そして、奈緒美に柱谷と話をしてもらい、そっちに目が行っている隙に、こっそりと鍵を盗み出したのだ。

 事前の調査で、鍵のありかは分かっていた。



 「あっ、これって、自転車の鍵じゃないんですか」

 白々しく言いながら、春菜は鍵を差し出した。

 「あっ、それだ。どこにあった?」

 「隅っこに隠れてましたよ」

 「おかしいな、ちゃんと探したつもりだったのに」

 「私、こういうのは得意なんですよ」

 「サンキュー、手伝ってもらって済まなかったな」

 そう言って柱谷が鍵を受け取ろうとすると、春菜はスッと手を引っ込めた。

 「おい、小学生みたいな悪戯はやめろよ」

 「先生、私が鍵を見つけたんですから、何かお礼をしてくれてもいいんじゃないですか」

 春菜は含んだような微笑を浮かべる。


 「お礼?飯でもおごれっていうのか。教師の給料は安いんだぞ」

 「違いますよ。その自転車で、駅まで送ってください」

 それが春菜の狙いだった。

 「駅まで?どうしてだ?」

 「私、電車通学ですから」

 「いや、そういうことじゃなくて。俺が駅まで送るのか」

 柱谷は困惑する。

 「ええ、鍵を見つけたお礼として」


 「鍵を見つけてもらったのは助かったが、だからって駅まで送るのは違うだろ」

 「何が違うんですか」

 「教師が生徒を駅まで送るのは、どうかと思うぞ。しかも、女子生徒だし」

 「さっき先生は、遅いから気を付けろと言ったじゃないですか。だったら女子生徒を一人で駅まで行かせるよりは、送ってくれた方が安全ですよ」

 「そう言われると、そうかもしれんが。だが、遅いと言っても、まだ明るいし」

 「送ってくれないなら、この鍵、返しませんよ」

 「無茶を言うなよ」

 「無茶じゃありませんよ。あーあ、こんな遅い時間に一人で駅まで歩いて、変質者にでも襲われたらどうしよう。そうなったら、先生のことを恨むかもしれないなあ。先生も責任を感じるだろうなあ」

 春菜は、芝居がかった態度で言う。


 「ええい、分かった」

 諦めたように、柱谷がハアッと息を吐いた。

 「送っていってやるよ」

 「本当ですか」

 春菜の顔が、パッと晴れやかになる。

 「ああ、男に二言は無い。だから鍵を渡せ」

 「はい」

 柱谷はアタッシェ・ケースを前のカゴに入れ、自転車を駐輪場から出した。


 「その代わり、もし他の生徒や先生に知られて、このことを後で訊かれたら、足をくじいたから送ってもらったと説明するんだぞ」

 「どうして、そんな嘘をつくんですか?」

 「そりゃあ、男性教師が女子生徒と二人乗りってのは、どう考えてもマズいだろう」

 「男女の関係だと思われるからですか」

 「そういうことだ。何も無くても、そういう風に怪しまれてしまうからな」

 「だったら、何かある関係になっちゃいましょうか」

 春菜は冗談めかして言い、柱谷の脇腹辺りをツンツンと突く。

 「勘弁してくれよ、俺はまだ教師を続けたいからな」

 「ちぇっ、つまんないの」


 「ほら、いいから乗れ」

 柱谷が自転車に跨った。

 「今回だけ、特別だぞ。今後は、何か手伝っても、こんなことは無いからな」

 「はーい」

 春菜は浮かれた様子で言い、後部座席に乗った。

 それから柱谷の腰に両手を回し、ギュッと抱き付いた。

 「おい、そんなにくっつくな」

 「でも、しっかりしがみ付かないと、振り落とされたら大変ですから」

 「そりゃそうだが、しかしなあ」

 「さあ、早く行ってください。出発進行」

 元気良く春菜が声を発した。

 「うーむ」

 困ったように唸ってから、柱谷は自転車を漕ぎ始めた。

 その後ろで、春菜は至福の時を体感していた。


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