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青春詰め合わせパック(9個入り)  作者: 古川ムウ
[9月下旬]
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16/52

<16:俺たちのビート(2)>

福井敦・・・軽音楽部の高校2年生。バンド「クリード」のギター担当。

安藤弘堅・・・軽音楽部の高校2年生。バンド「クリード」のベース担当。

宮吉航・・・軽音楽部の高校2年生。バンド「クリード」のドラム担当。

柱谷秀彦・・・軽音楽部の顧問。


 「ああ、ストップ、ストップ」

 敦が苛立ったように声を発し、ギターの演奏を止めた。

 ベースとドラムの音も、続いて鳴り止んだ。

 2年生バンド“クリード”のメンバーは、放課後の部室でオリジナル曲『キング・ヴァニラ』を練習している。


 「今のミス、自分でも分かったよな?」

 敦は鋭い目付きで、ドラムセットに座る航を見た。

 「ごめん」

 航は済まなそうに、両手を合わせる。

 「そこのフレーズ、最後はスネアからオープン・ハイハットでバシッと決めてくれないと。ギターソロがあって、最後のサビに行く大事なポイントなのに、ダサくなるだろ」

 「うん、分かってる」

 「分かってるなら、しっかり決めてくれよ。そこのミス、何度もやってるぞ」

 「ごめん」


 「まあ、あの辺りは、この曲の最難関だからなあ。大変だろ、航」

 ベースの弘堅が、フォローするように優しく言う。

 「だからって、何度もミスを繰り返すのはダメだろ。ライブ本番で失敗しても、そんな言い訳は通用しないんだぞ」

 敦が声を荒げる。

 「もちろん、それは分かってるって。そうカリカリするなよ。航だって、必死に練習してるんだ」

 「練習してるのは、一緒にやってるんだから知ってるさ。だけど、練習してるんだから、もっと上手くならないと」

 「そんなにキツく言ってやるなよ。わざとミスってるわけじゃないんだから」

 「弘堅、人のことを擁護しているけど、お前だってミスしてるんだからな」

 敦の苛立ちは、弘堅にも向けられた。

 「ああ、そうだな」

 弘堅は素直に認め、それから航の方を向いて、

 「そうだぞ航、俺も結構、ミスが多いんだ。お互い、頑張ろうぜ」

 と励ました。


 「よし、じゃあ間奏から、もう一回やってみるぞ」

 敦は気持ちを落ち着かせるように、大きく息を吐いた。

 「行くぞ」

 クリードのメンバーが、再び楽器を奏でる。

 だが、すぐに敦の怒声が響いた。

 「ああ、また違う」

 敦はギターを床に置き、ドラムセットにツカツカと歩み寄る。


 「航、しっかりしてくれよ」

 「ホントにごめん。上手く右手が付いて来なくて」

 航は謝りながらスティックを動かし、叩く順番を確認する。

 「ミスもそうだけど、お前、間奏でリズムがモタつくぞ。ちょっと貸してみろ」

 敦は航からスティックを奪い取り、椅子から退かせた。

 彼は椅子に座り、ハイハットとバスドラムのフットペダルを軽く踏み込む。

 それから、

 「いいか、間奏部分は、こんな感じだ」

 と言って、ドラムを叩き始めた。

 敦は流麗なスティック捌きで、正確にリズムを刻んだ。


 8バースを叩き終えた敦は、ハイハットを押さえて音を止め、航に視線を向けた。

 「なっ、こういう風に」

 「やっぱり上手いな、敦は」

 航は感嘆の言葉を漏らす。

 敦はギターだけでなく、ベース、ドラム、ピアノも演奏できる。

 というのも、父親が音楽教室を営んでおり、幼い頃から多くの楽器に触れられる環境にあったからだ。


 「感心してる場合じゃないぞ。ドラムの担当は、お前なんだから」

 「分かってる。頑張って、何とか出来るようにするから」

 航が殊勝な態度で言う。

 「なあ、淳。やっぱり、このアレンジは厳しいんじゃないかな」

 弘堅が口を開いた。

 「何を言い出すんだよ」

 「あまりにも難しすぎて、楽譜を追うだけで精一杯になるんだよ。ここまで難しくする必要は無いんじゃないか」

 「俺はイケてる曲をライブで披露したいだけだ。わざと難しい曲を作ったわけじゃなくて、いいアレンジにしたら、たまたま難しかったんだ」

 「わざと難しくしたなんて、誰も思ってないさ。ただ、本番までの時間が短すぎるよ。あと半年ぐらいあれば、ひょっとしたらモノに出来るかもしれないけど」

 「弘堅、簡単に諦めるなよ。向上心を失ったら、バンドとして終わりだぞ」


 「向上心は大事だけど、俺たちのレベルも考えないと」

 弘堅は「俺たち」と称したが、実際には、航を慮ってのことだ。

 本番までに航がマスターすることは、困難に思えた。そこで、彼のレベルに合わせようという提案をしたのだ。

 だが、敦は譲らない。

 「そんなに安易に妥協したら、これから長くバンドを続けていけない」

 キッパリと言い切った。


 「今年の春に3人で話し合った時のこと、思い出せよ。下級生のバンドも入ったし、今までよりも練習量を増やして、負けないように頑張ろうって誓ったじゃないか」

 「ああ、そうだな。お前が言い出したことだけど、確かに誓った。だから、他のバンドよりも練習時間は多く取ってる」

 「だろ?だったら……」

 「いや、そうだけどさ、練習しても無理なレベルってのがあるだろ」

 「限界を勝手に決めるなよ」

 「別に、そういうわけじゃ」


 「弘堅、もういいよ」

 航が仲裁に入った。

 「お前が俺のことを気にしてくれているのは、分かったよ。でも俺、頑張るからさ。俺のことで、言い争いするのはやめてくれよ。仲良くやろう。敦のレベルには及ばないけど、もっと頑張って練習するから」

 航が前向きな態度を示すので、弘堅は何も言えなくなった。

 「ほら、航も、こう言ってる」

 敦が得心顔になる。

 「まあ、それなら俺としては、特に反論は無いけど」

 弘堅は白旗を挙げる。

 「よし、じゃあ頭から、もう一度やってみようぜ。絶対に、ライブでは他のバンドより客を熱くさせるからな」

 敦はギターを拾い上げた。


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