<14:関西弁エイリアン(2)>)
穂積沙紀・・・1年2組の生徒。
奥山和歌子・・・穂積沙紀のクラスメイト。大阪出身。
瀬田伊織・・・穂積沙紀のクラスメイト。
剣持静香・・・穂積沙紀のクラスメイト。
江草千夏・・・穂積沙紀のクラスメイト。
「やるなら、さっさと始めましょう」
沙紀が面倒そうに言うと、
「まあまあ、そんなにセカセカせんでもええやん」
と、和歌子は軽い調子で告げる。
2人は1年2組の学園祭統括担当になったが、そのモチベーションは正反対だ。
沙紀は全くやる気が無いし、和歌子は意欲に満ちている。
「放課後、今後の仕事をどうしていくのか話し合いたいんやけど、ええかな?」
和歌子からそう言われた時、沙紀が難色を示したのも当然だ。
何しろ沙紀としては、出来るだけ手抜きしつつ、どうしてもやらなければならない最低限のことだけを適当に処理していこうと考えている。
放課後の時間帯まで、学園祭のために取られるなんて、嫌に決まっている。
「そんなの、別に必要ないんじゃないの」
「アカンよ、最初の内に、決めるべきことは決めておかんと。それに、これから学園祭までコンビを組む仲なんやから、じっくり話をして仲良くなっておいた方がええやん。今までは、ほとんど喋ってない関係やし」
沙紀は、同じ担当になったからと言って、和歌子と仲良くなりたいとは全く思わなかった。だから和歌子の意見には、何ら賛同するところが無かった。ただ、和歌子が
「なっ、ええやんか」
と告げ、グイグイと押してくる感じを示したので、渋々ながら承諾したのだった。
「それにしても、よりによって統括担当だなんて」
2人の他には誰もいなくなった教室で、沙紀は愚痴をこぼす。
「そんなに嫌やったん、この仕事?」
和歌子は、不思議そうに尋ねる。
「当然でしょ、最も面倒な役回りなんだから。普通、誰もやりたがらないわよ」
「そうか、じゃあアタシは普通じゃないねんな。自分で立候補したから」
「えっ、貴方、自分から望んで統括担当になったの?」
沙紀は驚く。話し合いに全く参加していないので、それも知らなかったのだ。
「うん、そう」
「どうして?」
「だって、一番面白そうやったから。統括担当って、偉い立場やろ。色んなことを決める権限があるし、なんか楽しそうやん」
和歌子は屈託の無い笑みを浮かべる。
(この女、やっぱりバカだ)
沙紀は呆れた。
だが、相手がバカで助かったとも思った。本人が積極的にやりたがっているのだから、厄介な仕事を全て押し付けてしまえばいい。
「さあ、話し合いを始めよっか。まずは何から決めたらええんかな」
「その前に、改めて言うけど、放課後の話し合いに付き合うのは今回だけよ」
沙紀は念を押した。
「次からは、絶対に居残りしない。早く帰らないと、こっちには勉強のスケジュールがあるの」
「分かってるって。さっき、ちゃんと聞いたやんか。でも、勉強のスケジョールって、そんなにギッチリと詰まってるの?」
「もちろんよ。私は一流大学に入るために高校生活を送っている。だから時間を無駄にしたくないのよ」
「大変やねえ」
同情するように、和歌子が言う。
「そんなに両親からのプレッシャーでもキツいの?親も兄弟も、みんな東京大学出身とか、そんな感じなん?」
「違うわよ。私は自分の意思で勉強しているの」
「へえ、すごいなあ。そこまで熱心に勉強する人、初めて見たわ。でも、それやったら邪魔したら申し訳ないなあ」
「そうでしょ。だから放課後の話し合いは、今回限り。細かいことを決めたいのなら、貴方に全て任せるわ。だから、好きにやってくれていいわよ」
沙紀が事務的な口調で告げる。これで、面倒な作業には関与せずに済むだろう。
ところが和歌子は、
「ううん、大丈夫。今後は、休み時間に話し合いをすることにするから。それやったら、沙紀ちゃんの放課後のスケジュールを妨害せずに済むし」
と、ニッコリ笑った。
「いや、そういうことじゃなくて」
沙紀は困惑する。
バカだとは思ったが、こっちの話が通じないぐらいバカなのは予想外だった。
「休み時間であろうが放課後であろうが、私との話し合いなんて、なるべく避けた方がいいわよ」
沙紀は別の方向から、今後の話し合いを無くすように持って行こうとする。
「私みたいな女と、あまり親しく付き合わない方がいいわよ。貴方だって知ってるでしょ。クラスのみんなから、私が嫌われていることは。貴方、人気があるのに、私と仲良くしていたら、その人気が落ちるわよ」
「へえ、そうか」
和歌子は、感心したように言う。
(どうやら、分かってくれたらしい)
沙紀はホッとした。
だが、和歌子は
「私のこと、そんなに心配してくれてるなんて、沙紀ちゃんって優しいねんなあ」
と、沙紀が想定していないリアクションを見せた。
「そんなの、気にする必要ないよ。沙紀ちゃんと仲良くしたから人気が落ちるとか、考えすぎやって」
カラカラと笑う和歌子。
(この女、手強いな)
沙紀は相手に気付かれぬよう、チッと舌打ちをした。
「さあ、それより焼きそば屋のこと、決めていこうよ。まずは予算の配分かな」
和歌子がノートを広げ、シャープペンを握った。
「それより先に、準備を進めるスケジュールを立てた方がいいんじゃないの」
渋い表情で沙紀が言う。
「ああ、そうかも。ありがとう、さすが沙紀ちゃん、頭がいいわ」
「頭の良さは関係ないわよ」
「でも、アタシよりは絶対に賢いやんか」
(そんなことは分かり切っている)
比べる相手のレベルが違うだろうと、沙紀は心の中で見下した。
「えっと、そしたら沙紀ちゃん、今後のスケジュールも考えてくれる?」
「とりあえず、貴方がやってみたら?そっちが全て決めてから、もし意見があったら言うから」
「えっ、でも」
「そういうことを決めるのが面白そうだから、統括担当になったんでしょ。だったら、その楽しみを奪ったら悪いわ」
「うわぁ、親切やなあ。そしたらアタシ、やってみるわ」
沙紀が面倒を押し付けたとも知らず、和歌子はノリノリで作業を始めた。
「えっと、やるべきことは、まず屋台の手配があって、ポスターも作って、それから他には……」
シャープペンを走らせる彼女の様子を、沙紀は冷淡に眺めた。
だが、その表情は、次第に引きつったものへと変化していった。
と言うのも、あまりにも和歌子の要領が悪く、作業が遅いからだ。
「道具を集めて、あっ、そうか、材料の調達も早い内に考えておく必要があるんか。それと、ポスターは、いつぐらいに作ったらええんかな。えっと……」
熟考する和歌子の独り言を聞きながら、沙紀はイライラした。
道具なら道具、ポスターならポスターだけに絞ればいいのに、和歌子の考えは、あっちこっちへと散らばっているのだ。
(こんな奴に任せておいたら、いつまで経っても終わらないじゃないの)
「ちょっと貸して」
辛抱できなくなった沙紀は、和歌子からシャープペンとノートを奪い取った。
「やっぱり、先に私が決めるわ。意見があったら、後から言って」
そう告げると、沙紀はスラスラとスケジュール表を書き始めた。
「うわあ、早いなあ。すごい」
「早くなんかないわよ。整理して考えれば、スケジュールを立てる作業なんて、そんなに時間は掛からないわ」
ペンを止めずに、やや嫌味っぽく沙紀が告げた。
「でも、自分から書き始めるってことは、なんだかんだ言いながら、この仕事に沙紀ちゃんも意欲を持ってるってことやね。良かった、同じ気持ちでやれそうで」
和歌子は嬉しそうに笑う。
「勘違いしないでよ」
沙紀はノートに視線を落としたまま、低い声で言う。
「私は早く帰りたいから作業を代わっただけ。統括担当の仕事には、何の関心も無い。私の関心は勉強だけに向けられているの。それは、ちゃんと理解しておいてね」
「う、うん、分かった。ごめんね、変なこと言うて」
やや戸惑ったような表情を浮かべ、和歌子は謝った。
「分かってくれればいいのよ」
(これで少しは、おとなしくしてくれるはず。ずっと喋り掛けられたら、作業の邪魔になるし)
厳しいことを言ったので落ち込むかもしれないが、それぐらい言わないと、和歌子には通じないだろうと沙紀は思った。
だが、和歌子がシュンとなるだろうという沙紀の期待は、あっさり打ち砕かれた。
静かになったのは一瞬で、すぐに
「なあ、勉強以外には、全く興味が無いの?何かあるやろ、一つぐらい」
と、好奇心たっぷりに尋ねてきたのだ。
(質問するにしても、せめて学園祭関連のことにすべきだろうに、なぜ無関係な話題を振るのよ)
キッと鋭い目付きで、沙紀は和歌子を睨み付けた。
「あのね」
「うん、何?」
ニコニコと無垢な笑顔で、和歌子は沙紀を見つめる。
(ダメだ、この女、全く分かってない)
沙紀は額を押さえた。




