<12:悩んで悩んで悩むのだ(2)>
角田雄一・・・3年3組の生徒。
星慎吾・・・角田雄一の親友でクラスメイト。
三上茂輝・・・角田雄一の親友。3年2組の生徒。
柳沢知良・・・角田雄一のクラスメイトで生徒会長。
美濃部昭宏・・・角田雄一の担任教師。
和田律子・・・パン屋のおばさん。
「雄一、さっき美濃部に何か言われてただろ。あれ、何だったんだ」
教室に戻って来た雄一に、親友の慎吾が声を掛けた。
「ああ、あれか」
雄一が暗い表情を浮かべる。
休み時間、廊下を歩いていた雄一は、担任教師の美濃部昭宏に呼び止められ、しばらく会話を交わしていた。
「三者面談までに、ちゃんと進路のことを決めておけって釘を刺されたよ。クラスで決まってないのは、俺だけだってさ」
「そりゃあ、そうだろうなあ。この時期になって進路を決めてない奴は珍しいだろ」
「冷たい言い方だな、他人事だと思って」
「実際、他人事だからな。それに俺は友達として、何も無いなら進学を選べってアドバイスしてる。それを受け入れないなら、後はお前が考えるしかないだろ」
慎吾はサバサバとした表情で言う。
確かに、その通りだ。
「ヤバいよなあ。自分でも、こんなことで、いつまでも悩みたくないんだ」
「ただダラダラと悩んでも、どうせ答えなんか出ないって。そういう時は、勢いでパッと決めちゃった方がいいんじゃねえか」
「勢いだけで決めて、後で失敗したと思いたくないじゃないか」
「勢いに任せるぐらいしか、もう深い悩みから抜け出す方法は無いんじゃないのか」
「だけど、俺にはパッと決めるだけの勢いも無いんだぞ」
「何だよ、そりゃ。だからさ、何も考えずに、とりあえず大学に行けばいいじゃねえか」
「だけど、お前みたいな軽い奴のアドバイスだけで、簡単に決める気にはなれないんだよなあ」
「おいおい、親友に向かって、それは無いだろ」
「うーん、進路決定って難しい」
雄一が腕組みしていると、教室にクラスメイトの柳沢知良が入ってきた。
彼は生徒会長を務めており、成績優秀な男だ。
「おおっ、生徒会長、ちょうど良かった」
それほど親しくもないのだが、雄一は待ち人が来たように声を発した。
「何か用?」
急に呼び止められ、知良は少し困惑した様子を見せる。
「生徒会長は、もう進路について決めた?」
「ああ、まあ一応」
「どうするの?そりゃ進学するよね。それは分かってるんだ、うん。それで、どんな大学の、どんな学部を目指すのかなと思って」
「えっ、何、どうしたの?」
早口で捲くし立てる雄一に、知良は困惑の表情を浮かべる。
そこで慎吾が、横からフォローを入れた。
「こいつ、卒業した後の進路が決められずに悩んでるんだ。それで、他の生徒の意見を聞いて、参考にしたいんだよ」
「ああ、そういうことか。俺は経営学部を狙ってるけど、そんなことを聞いて参考になるのかな」
「どうして経営学部なんだ?」
「将来は公認会計士になりたいんだ。その資格を取りやすいのは、経営学部じゃないかなと思って」
「さすが生徒会長、ちゃんとした人生設計を立ててるんだなあ」
慎吾が感心すると、雄一が拗ねたように
「悪かったな、ちゃんとしてなくて」
と漏らす。
「お前のことは何も言ってないだろ」
「まあ、いいけどさ、それで柳沢、そういう、社会人になってから何の仕事に就きたいかって、いつ頃から考えてたんだ?」
「俺は小学校の時から、夢は公認会計士だったよ。それが今も変わらず持続しているってことかな」
「小学生で公認会計士になりたいって、随分と大人びた子供だったんだな」
「そうだね。自分でも、そう思うよ」
そう言って笑う知良とは対照的に、雄一は重い空気を醸し出す。
知良と自分の、あまりの違いに落ち込んだのだ。
「引き止めて悪かったな、もういいよ、ありがとう」
雄一は、抑揚の無い口調で言う。
「良く分からないけど、役に立ったのかな」
「ああ、たぶん」
知良が自分の席に戻った後、慎吾は感服した様子で、
「やっぱり生徒会長になる奴は、俺たちとは違うんだな」
と口にした。
そんな慎吾を見据えて、雄一は質問を投げ掛ける。
「ちなみに慎吾、お前の小学生の頃の夢は、何だった?」
「俺か。俺はお笑い芸人だったな」
「じゃあ、いつの間にか、その夢が消えていったわけだ」
「決め付けるなよ。俺は今でも、芸人になりたい気持ちが全く無いわけじゃないぞ」
「でも、大学へ行くんだろ」
「大学生でお笑いをやる奴もいるだろ。卒業してから芸人になる奴だっているし。それより雄一こそ、どうなんだよ。小学生の頃、何になりたいと思ってたんだ?」
「俺のことは、別にいいだろ」
不機嫌そうに、雄一は返答を拒絶した。
「何だよ、隠すこと無いだろ。俺に言わせたんだから、お前も言えよ。もしかして、ウルトラマンとか、仮面ライダーとか、その手のノリだったのか」
「……新幹線だよ」
言いにくそうに、ボソッと雄一が呟く。
「何だって?」
「だから、新幹線だよ」
「新幹線の運転手になりたかったっていう意味か?」
「いや、新幹線そのものだ」
「乗り物?職業じゃなくて?」
あまりに突拍子も無い答えだったので、慎吾は改めて確認した。
「あの頃は、あのフォルムがカッコ良くて、そうなりたいと本気で思っていたんだよ」
ブスッとした表情で、雄一が主張する。
「何だか良く分からんが、すごいセンスだったんだな、お前って」
「馬鹿にしてるのか」
「いや、そうじゃないって。ただ、それだと、夢を持ち続けるのは無理だな」
「当たり前だ、今でも新幹線になりたいと思っていたら、ヤバすぎるだろ」
「そうか、新幹線になることが出来ていたら、お前も進路に悩まずに済んだだろうにな」
「……やっぱり、馬鹿にしてるだろ」
雄一は、慎吾を睨み付けた。




