似合う男になるためには?
少しずつうとうとしていた俺の横で羽崎さんが体を起こす。
(どうしたんだろう?)
俺がそう思うと同時に頬に温かい感触が広がる。
チュッ
(え?えぇ!?)
「私、咲君の事が好き」
(ちょっ、ま、マジなのか)
俺は動くに動けず目を瞑り続ける。
すると羽崎さんが再び布団に入ると寝息をたてはじめた。
(なんか聞いちゃいけないことを聞いちゃったような)
このあとドキドキして寝れなかったのは言うまでも無い。
~2日後~
あのお泊りの翌日。俺はいつものように学校へ向かう。ただ心境は穏やかでは無かった。
(いつも通りに……)
ガラガラ
俺は教室のドアを開ける。
すると羽崎さんは既に俺の後ろの席に座って居た。
「羽崎さん…おはよう」
「咲君…おはよう」
それだけ言うと俺は座って教科書をしまう。
(ふぅ、ドキドキした。泊まりの日の事は悟られないようにしなきゃな)
そしてコンピューター室などで隣に座ると毎回ドキドキしている自分が居た。
~放課後~
「ありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
委員長の言葉の後に全員で返事をすると帰るものも居れば、黒板を消す者、お喋りに花を咲かせる者まで何人も居る。
私、羽崎咲花は学園祭の出し物の練習に向っていた。
「放課後に残るのなんて初めて」
今まで放課後は帰宅部か中学の後半からは不登校だったのもあって放課後に学校に残るのは初めてなのだ。
「ねぇ君、学園祭の練習に行く人?」
「は、はい……」
まだ初めての人と話すと小さい声になってしまう。
「私もだよ!、あ、私は2年の前川鈴よろしく」
「わ、私は羽崎咲花……1年です。よろしくお願いします……」
私は前よりもスムーズに自己紹介をする。
これも咲君のおかげ何だと思う。
「で、咲花ちゃんは何で学園祭の出し物コレに下の?」
先輩が興味津々に聞いてくる。
「あ、えーと……自分の中で何かに挑戦してみたかった……のとクラスに…す、好きな人が居て……私が頑張ってるのを見て欲しいなと思って……」
私は恥ずかしさも相まって声が小さくなる。
「へぇ、告白はしたの?」
「ま、まだです…けど」
「だったらこの出し物頑張って彼を好きにさせるチャンスじゃん!」
そう言うと先輩は私の手を取って練習場所、体育館へと急いだ。
俺は羽崎さんが来るのを待つ。
どうやら学園祭ので練習があるらしい。
まぁ、前に俺が課題を取りに来た時に待ってくれたし、俺も来るまで待ってようと下駄箱で待っていた。
「お待たせ……」
すると廊下から疲れた様子の羽崎さんが向かってきていた。
「い、行こうか…」
「おう」
羽崎さんと共に俺は教室を出ると下駄箱に向かう。
「土曜日は本当にありがとう…泊まりに来てくれて……//」
羽崎さんは少し申し訳無さそうに言う。
「別に良いって。日曜も暇だったし……それに羽崎さんの頼みなら……」
「う、うん」
羽崎さんはほんのり顔を赤らめる。
そうこうしていると下駄箱に着いたので靴を履き替える。
「行こうか」
「うん……」
俺は羽崎さんと校舎を出た。
あれから俺達は家に向かって歩いていた。
かなり坂もあるので意外とキツかったりする。
そんなこんな坂を登りきった所で羽崎さんが俺の後ろに隠れる。
「何かあったのか?」
俺は羽崎さんに聞く。
「前……」
前を見ると同い年くらいの男子がこちらに向かってきていた。俺達と違う学校の制服で髪は短く、何となく着方も雑に見える。言わゆるガキ大将な感じだ。
「よぉ、羽崎久しぶりだな」
「う…」
羽崎さんは怯えるように俺の後ろに下がる。
「アイツは?」
俺は羽崎さんにヒソヒソと聞く。
「小学校の時に私を虐めてきた子……」
羽崎さんはその時の事を思い出したのか辛そうに俯いて俺の後ろに行く。
「お前は小学生の頃、羽崎さんを虐めたんだな」
「あぁ、羽崎は反応が面白いからな」
俺は自分がどんどん腹立っているのが分かった。
「そんな理由で人が嫌がることをして楽しいか!」
「あぁ、何回やっても飽きないからな」
何かが切れた気がした。
「やられた相手は嫌な気持ちになって、またされるんじゃないかって、辛いんだぞ!」
俺は訴えるように力強く言う。
「お前何かに羽崎の何が分かる!」
「んぐっ……」
俺は言葉に詰まる。
(確かに。俺なんかに言う資格なんか……)
(でも…羽崎さんの……好きな人の悲しむ顔は見たくない!)
俺は一つの決心をしてガキ大将の目を見る。
「あぁ、普通なら言う資格なんて無いだろうな!」
「どう言う意味だ!」
「俺は羽崎さんの……彼氏だ!それに昔お前みたいな奴に散々虐められてな。羽崎さんの辛さは全てでは無くても分かってるつもりだ!」
そう。彼氏だと言えば相手も強くは言えなくなると考えたのだ。
「ぐっ、そうなのか羽崎!」
「う、うん」
羽崎さんは俺の後ろからビクビクしながらも頷く。
「くそっ!」
ガキ大将は諦めたように走り去っていった。
「ふぅ」
俺はひと息付く。
「咲君……ありがとう」
羽崎さんは上目遣いに俺を見ながら言う。
「あぁ、初めて会った日に言っただろう。俺が守るって」
照れくさくなって頬をかく。
「それよりごめんな。勝手に彼氏とか言って」
「良いよ……だって…う、嬉しかったし」
羽崎さんの顔がみるみるうちに赤くなる。
「でも…手を出さなかったのは驚いたよ…もっと殴ったりとかしちゃうのかと思ったから……。」
羽崎さんは不思議そうに聞いてくる。
「俺も一瞬頭によぎった、でもしたくなかったんだ。虐め子だからと言って虐める理由にはならないし、第一手を出したら結局アイツと何も変わらなくなっちまう。虐めの辛さを知ってるからこそしたくなかったんだよ」
羽崎さんは嬉しそうに微笑む。
「そうだったんだね」
俺達は再び並んで歩きだす。
少しは羽崎さんに似合う男になれたのかな。
前の俺なら言い返さずに逃げていたはずだから。
電気を消した部屋の隅。
咲君に初めてあった日にも入ったあの段ボールの中に私は居た。
この中に居ると落ち着けて、何だか疲れが抜けるような、スマホで例えたら"充電"みたいな感じだろうか。
「強くなりたい……私」
小学生の頃に虐めてきたアイツに咲君は言い返してくれた、凄くカッコよかった。
でも、私は咲君の後ろに居るだけだった。
「私、変われる…のかな」
ポツリと呟いた声は誰にも届かなかった。




