第92話 さながら俺は試金石か
中々に難産。っていうか何年かかってまだコロナとの決着すらついてないんだろう
~宿屋【ストリングス】・ロビー~
大きな手の中、騎士、国王、女王、道化師の絵札と数字札がかき混ぜられ、途中途中で中空に舞う。しかしそれは制御下から離れたわけではなく、着地地点はその大きな手の中だ。そして二枚の札が互いを支えにしてその薄い体を机の上に立たせる。それを隣り合わせに7組組み上げるとその頂点と頂点との間に水平に札が置かれていく。そしてさらにその上にも札を立て、組み上げていく。そして4段目も組みあがり、ラスト、頂点の一組に差し掛かったときだった。
「ちょっと」
「シェアッ!?」
ローゼの肩をセリオが叩き、思わず出た大声でトランプタワーは哀れにも崩れ落ちたのだった。
「さ、最後だったのに!」
「アンタそこまでてきぱきやってその状態で半時間無駄にするでしょうが。時間は有限なのにこんなことで無駄にしてどうすんのよ。そもそもそのトランプどこで買ったの? そこにハル寝てるわよ。それなのに自分だけで完結するトランプタワーってどれだけ寂しいのよ馬鹿じゃないの。ポーカーでもしてなさいよマジシャン気取り」
「そ、そこまで言わなくたって良いだろぉ!? ていうかキミエルどうしたんだよ!?」
「『学会忘れてた』って。論文の仕上げやってるとこよ」
ローゼはセリオの言葉にぶつくさ言いながらトランプを仕舞い、ソファに深く座りなおす。
「で、だ。流石にそろそろフォーリン・カーズでのんべんだらりと適当に依頼受けて適当に行動ってわけにもいかない」
ローゼはそういいながらテーブルの隅においてあったカップをもち、その中に注がれたコーヒーを啜る。
「ええ。そろそろ期限は近い」
「「だから」」
「湖行こうと思うんだよね! なんたって水多いから戦力増強の意味でさ! 海だと別のもんになりそうだし!」
「闘技大会場に言ってエントリーしないと。移動期間とか考えると、ねぇ」
「「ん?」」
「いやいやいや、このまんまだとコロナやトールとあたった瞬間ジ・エンドよ? お分かり?」
「そもエントリーしなければ機会すらないのよ。わかっているの?」
口を揃えたかと思えばばらばらな事を言い、そしてその後また口を揃えるなんて無意味なことをし始めた二人の声にハルが目を覚ます。ハルは一つ大欠伸をすると二人に向かってこういった。
「別に両立できるじゃん……大会会場言ってエントリーしてから最寄の水場行けば……」
ハルの言葉にセリオがウィンドウを開き、大会会場周辺マップを開くと確かに近くに湖があることを発見した。
「……キミ、寝ぼけてるほうが頭回ってるんじゃない?」
ローゼは顔を引きつらせながらそう呟くと、咳払いをしてフロントへと向かう。
「まあ下調べすんのが最優先だったよねって感じで兎に角。今日の目的はチェックアウトして大会会場へと出発。Okey?」
「Да、行けるよ」
「フン、言われなくてもわかってるでしょう?」
「そりゃま」
ローゼがそういって首を掻いたときだった。
「話は聞かせてもらったぁ!」
無造作に整えられた髪にアンテナのように一房の髪が逆立っている明るい茶髪の中性的な少年が大声で割り込んできたのは。その姿を見てローゼはとある人物を思い出す。
「レイヴン? どうしたんだいキミ」
「あれとは関係ねぇよ! んんっ、名乗り遅れた、僕ァブラック。まあ大会じゃあんたと当たる前にやられちゃったけどさ、知ってるだろう? ブラック・バードだ」
「……よく見ると目が違うね」
逆に言えば目以外はレイヴン・クロウとそっくりということで無関係というのは信じがたいのだが、ローゼは深く追求しないことにした。誰しも追求されたくないことはあるのだ。
ローゼはブラックに問う。
「何の用事?」
「遠い旅路、徒歩はきついだろう? なに、何なら馬車でも用立てようかと思ってね」
ローゼはブラックの言葉に眉をしかめる。なんたって都合が良すぎる。レイヴンだのミラーだのは割と裏が透けるし、レイヴンはエレメンツに勧誘しようとしているし、ミラーは友達の距離感をつかみきれてないだけだ。しかしブラックはローゼとしては全く持って関連性はない。いや、オンラインで戦ったことはあるし掲示板で話すことはあるがそれだけだ。贔屓にされるような覚えが何もない。裏もソースも取れてない申し出は判断しづらい。ローゼが利益不利益を計算しようとしたところ思わぬところから解決の光明が照らす。
「んあ、なに? ローゼと戦いたいの?」
「まあ一戦、なあ。まあ僕としてもいっぱしの戦士なわけですよ。有名だしね、ローゼさん」
クツクツと笑うブラックにローゼはこめかみを押さえる。
「有名になりたくてなったわけじゃないんだけどなぁ」
「そんな人間が超少人数でギルド相手に喧嘩売ったりしますかよー。じゃ、場所は裏手の空き地で。ま、あそこもうちの敷地だけどねー」
―――――
~フォーリン・カーズ:路地裏の空き地~
「おいっちに、さんし、にぃにっ、さんしっ」
「……何故に準備体操?」
「気分だよ気分ー。やっぱ偶発的じゃなきゃこうしたほうが調子出るしー」
腕を組み弾みをつけて腰を回すブラックにローゼが問うとブラックはこともなげに答える。
まあ、VR内とはいえ、リアルの癖がすぐさま治るわけもなく、むしろそれをしなければ落ち着かない、というのも普通にありうる話だ。どうせやるなら万全の状態でやってもらったほうが文句も出にくい。そう考えたローゼは準備運動も佳境に入ったのか腕を広げたり閉じたりしながら深呼吸をしているブラックを横目にウィンドウを開き、PvPフィールドの申請を行う。
「で、準備できた?」
「ん、おっけおっけ。関節もいい感じに伸ばしたしいつでもいいよ」
「じゃ、特に縛りなし。ただし範囲はこの空地よりもちょい小さめ。ギャラリー居るしな。それでいいか?」
「へぇ、何でもあり?」
「ああ、何でもありだ」
ブラックが不敵に笑うとローゼはそれに特にリアクションすることもなく返す。まあリアクションするポイントなぞやっぱりブラックがレイヴンによく似た感じの表情をするので無関係などあり得ないという疑惑をより強めたくらいなので(しかも先程追求せずと決めたばかり)当然っちゃ当然なのだが。
「んじゃあそれで。早く始めようよ」
「まあ急かすな」
ローゼがウィンドウを叩くとブラックの目の前にPvPの受諾ウィンドウが現れる。
それを見たブラックは口端を吊り上げ笑いながらYesを叩いた。
【3】
「それじゃあやらせてもらう……! あの人たちに近いあんたで、僕の現在値を見極めさせてもらう!」
【2】
「Hum,さながら俺は試金石か。だが言わせてもらうぞ」
【1】
「何を?」
「決まっているさ」
【GO!】
「目の前の相手に集中できないのに、どうして格上だと思う相手に勝てようなんて思うんだ?」
「ッ……!」
開始とともに放たれた銃弾は一緒に放たれた言葉で強張らせたブラックの頬を掠め、フィールドの端に到達し消滅する。
「目覚めの弾丸だ。刺激的だろ?」
ブラックは銃弾が掠めた頬をさすりながら強張っていた表情を満面の笑顔に変える。それも瞳孔は開き剥き出しの鋭い犬歯が顔を覗かせる凶悪な印象のやつだ。
「ああ、刺激的なエスプレッソをありがとさん。御蔭で」
ブラックはその腰のベルトにつけた二つのホルスターからオートマチックプルバック式の拳銃を二挺抜いた。
「―――目が覚めたっ!」
そして腕を交差させつつローゼに向かって銃弾を発射する。二挺拳銃の場合基本的にはローゼがやっているように右は右、左は左とそのまま銃を相手に向けるよりもこうして交差させたほうが互いの腕が互いの腕を支えあい、照準が安定しやすいのだ。さらに人間の腕は広げるよりも曲げるほうが素早く力が入る。筋肉の伸び縮みが人間の体の動きであり縮ませるほうが等筋肉の配置等が関係している。まあ筋力・体幹などに自信があればローゼのほうが対応幅は広いのだが。
ローゼは放たれた銃弾の隙間を縫うように移動しながらEx-Sで弾幕を張りつつD・G・マグナムを引き抜く。そしてD・G・マグナムのブレードを展開するとEx-Sは放ちつつダッシュしてブラックとの距離を詰める。
ブラックも銃弾を弾きつつ、ローゼへと接近する。
そして十分距離が近づくと、ローゼがEx-Sでブラックの右腕を折りたたむようにして押さえつける。そしてD・G・マグナムをブラックに突きつけようとすればブラックもそのままさせるわけもなく、左腕でD・G・マグナムを弾いた。
「ちっ」
「wow」
そのまま弾かれるように距離を開け、両者とも二挺拳銃での銃撃戦が始まる。この戦いの違和感に気づける人間は今寝ぼけている。そんなことなど知らずにセリオは二重円を描くように動きつつ銃を撃ち合う二人を眺め、ため息をついた。
「はぁ、やっぱりあれなのかしら、男ってのは『我こそが最強だという証明がほしい!』的な価値観なのかしらねぇ」
「随分と雑だけど、まあ大なり小なりそんなとこ。じゃなきゃあヒーローモノとか今日日流行んないだろうしー……男たる者誰か一人だけでも守れなくちゃ」
「腕節で?」
「Да、頭だけで乗り切れるほどお優しい世の中でもないし」
そうセリオに答えながらハルは目を細める。
「しかし、なぁ?」
「何よ」
「あいつ二挺拳銃なんて使えたんだな、ブラック」
「は?」
セリオがその言葉に怪訝な顔をして向きかえった瞬間、ブラックは両手の拳銃をローゼに向かって投げつけていた。
よし、この戦い終わったら二つほどイベントやって後のプロットは巻こう




