第66話 ちょっとだけでいいからさ、話をしようよ
メモに保存してたキャラのパーソナルデータがぶっ飛びました。しばらくの間ただでさえおっそい更新が更に遅くなります。棒田丸田の出番は無理です。
例えば、箱庭の中で小山の大将を気取っている奴を見るとどう思うだろうか。
面倒事を察して逃げるだろうか、それとも憤って喧嘩に行くだろうか。
“あいつ”はそのどちらでもなかった。行動だけ見ると後者とも言えるだろうけれど、私にとってはそうじゃなかった。
当時、私はとある出来事で世間の矮小さを感じ、自らの部屋に引き篭もっていた。その“とある出来事”という奴も今思い返せば運悪く駄目な教員にぶつかってしまった、というだけなのだが、ギリギリ思春期を終えていない私を絶望、失望させるには丁度いい物だった。
付近で記憶喪失の青年が倒れていた、だとかその青年が留学しただとか、やくざの渚組の事務所にカチコミが、とかの噂は耳に入ってきていたけれど、正直私の心は揺り動かされることは無かった。何もかも、つまらないと思っていたから。どうせ知っていることの延長線上だと思えたから。
ある日、真っ暗な真夜中、そいつは現れた。窓ガラスをぶち破り、深紅のカーテンを自らの翼のように夜の風にはためかせながら。
「……不法侵入よ。通報されたくなきゃ、直ぐに出て行きなさい」
私はそれが精一杯だった。粋がって見せるのが、強がって見せるのが。そんなもの、通用するわけも無いのに。
「……Refusal、それは出来ない。依頼されたから。それは反故に出来ない」
机に降り立ったそいつは、見下ろしながら静かに告げる。感情の見えない人形のような容貌、鍛えられ質感たっぷりの肉体には不釣合いなほど、その顔は冷たく、幼く見えた。その顔に刻まれた、一つの大きな裂傷、どれだけの修羅場を潜ってきたのかはわからなかった。恐らく、その疵を刻まれた生気の無い右目は義眼だろう。
「そして、家主に許可は取っているし、警察に話をつけている。ドアか窓のガラスだとドアを選んだからね、ガラスを破らせてもらった」
「グルってわけ?」
「Exactly、別にとって食おうって訳じゃない、話をしたいだけなんだ」
そういうとそいつは机から飛び降りて私の前に立つ。そして私に向かって手を差し伸べる。
「俺の名は荒戸葉楽。ちょっとだけでいいからさ、話をしようよ」
―――――
~瀬尾邸~
「……夢、ねぇ」
布団から身を起こす灰羅は少し跳ねた長い金髪を撫ぜながら起き上がる。
「……少し昔でも、懐かしいもんなのね」
灰羅は背伸びをすると部屋に備え付けられた化粧台の鏡で自らの姿を見て、無造作に置かれた櫛を手に取り身だしなみを整える。
そして寝巻きを脱ぎ、普段着の服を着たあたりで呼び鈴が鳴った。
「あ、父さんに説明するの忘れてた……まあ、行くまで何とかなるでしょう」
扉を開け、廊下を歩き、玄関へと向かう。そこには見知った二人の巨漢が胸倉をつかみ合いながら言い争っていた。
「何が違うというんだね!? ほら! うちの灰羅に魅力が無いってのかい!? 君にならこの道場を任せてもいいとだね!」
「だぁからぁ! 俺は剣士の対策するために専門家に話を聞きにきただけだって言っているでしょう!? アンタが危ないことさせたくないからって歩術しか教えてないから出向くことになっている! ああ、灰羅、丁度良かった! 君の口からもこのわからずやの男に言ってくれ! 『そもそも荒戸葉楽に異性として興味が無い』ってさぁ!」
「……はぁ」
なんでこんな短時間でここまで言い争いが掴み合いにまで発展するのだろう。そんなことを灰羅は考える。まあ結局のところ葉楽が自身のことを全くといっていいほど信用してない、というのが大本の原因だろう。灰羅の父、紋寿はそんな葉楽の心とか考えを“知った上で”灰羅と結婚させようとしている。
灰羅からしてみれば死ぬほどいい迷惑なのだが、父だって孫の顔を見たいであろうし、灰羅の性格からして、付いてこれるであろう当てが葉楽ぐらいしかいない、となればくっつけようと躍起になる気持ちも分かる。分かるだけだが。
ともかくそんなこんなで葉楽は紋寿を苦手に感じ、灰羅は原因が分かっていながらも父に強く言えないのだ。
「父さん。そいつが言っていることは事実だからさっさと道場に案内してあげて。視認不可能の斬撃、らしいわ」
強くは、言わない。やんわりとは言うが。灰羅の言葉を聞いて、紋寿は眉をピクリ、と震わせる。
「その剣士の性別、背格好、大体の歳は?」
紋寿の問いにすかさず葉楽が答える。
「男、大体190センチくらいのロン毛の黒髪。高校1年生って言ってたから大体16」
「ふむ、俺の知り合いじゃあないようだね。浪士の奴は……あいつ、人の顔覚えるの苦手だから心当たりがあったとしても分からないだろうし。葉楽君、その時の状況は」
「空中で刀を取り出して気付かないうちに左肩から先を切り落とされた。ただ早い斬撃じゃあない。刀の全長から届くわけの無い距離だった。俺の専攻は脳科学だしそういうのに詳しい知り合いは連絡が付かない」
「SOEGってホウレンソウのなってない集団なの? 昨日から疑問に思っていたのだけれど」
灰羅の言葉に葉楽はしばらく黙り、何も無かったかのように説明を再開する。
「……隠し刀の類じゃあなく、感覚を暴走させたらおぼろげにだけど見ることは出来た。反応は不可能だったけど。心当たりはありますか?」
「図星つかれたからって無視してんじゃないわよ」
葉楽の問いに紋寿は少し考え、奥のほうへと歩き出す。
「心当たりは、ある。まあ付いてきなさい」




