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誰がための存在証明(レゾンデートル)  作者: リョウト
Fourth Chapter ~Fire Fear Find~
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第64話 アンタに利益は無いでしょう

 ~宿屋【ストリングス】~


 苦々しそうな顔で呟いたセリオに、レイヴンが不思議そうに問う。


「どうしたんです?」

「いや、実に面倒な知り合いが……」

「あっ、灰」


 セリオはレイヴンの問いに答えているとその声でチェリッサ、ピィニィに気付かれ、不意に迂闊な事を言おうとしたチェリッサの喉元に先程受け取ったばかりの小太刀を鞘から引き抜き、直ぐに引いて切り裂けるように鍔付近を当てる。


「アンタ……仮にもそれなりに格ゲーのオンラインやってるわよね? 何平然と本名で呼ぼうとしているのネチケットなってないんじゃないの」

「い、いやあごめんごめん。つい、ね?」


 ものすごい形相で睨み付けて来るセリオにチェリッサは苦笑しながら後ずさる。


「全く……あんたよくあの大学入れたわね。結構名門な筈なんだけれど」

「まあ、教授を呼べるレベルだしねぇ。ていうか、教授は?」


 セリオが呆れてため息をつき、チェリッサはふと、ローゼの不在に気付く。


「ああ、山に出かけてったわ」

「柴刈り?」

「……昔話じゃないんだから」


 的外れたことをいうチェリッサにセリオはため息をつく。昔からため息をつくと幸せが逃げていくと言われるが、今日一日でセリオはどれだけ不幸になったのだろうか。あまり考えても意味は無いだろう。一日に何十回もため息をついてるわけでもないし。


「とりあえず、今は居ないから後日来て頂戴」

「あっ、そうだ」


 めんどくさそうに告げるセリオの言葉を無視して、チェリッサはポン、と手を叩く。


「PvPしましょうよ。PvP」

「えぇー……」


 気楽に告げられた言葉にセリオは明らかな拒否反応を示す。


「嫌よ。何にも得が無い、意味が無い、ないないづくしな事をなんでやらなきゃいけないのよ」

「え? 刀貰ったばっかりなんだし慣らしにすればいいじゃん」

「そうですねぇ。PvPフィールドなら耐久度も減りませんし」


 気楽に告げるハルとレイヴンの台詞にセリオの眉間に皺が生まれる。何とか回避しようとしたら完全に当たる方向に調整されたのだ。苦い顔をしたくもなる。


「でも、ほら、色々と勘繰られそうじゃない? なんというか、痴話喧嘩とか。それに、場所も」

「ああ、立会人やら場所なら僕が何とかしましょう。変な噂が立てられても困りますし。こう見えて、このゲームでは結構有名なんですよ?」


 更にセリオの眉間の皺が深くなる。何故か、逃げられない方向に話が進んでいるからだ。何故、どうして。セリオの頭に疑念は湧き出るが、もう、考えることすら面倒くさい。


「はぁ。分かったわよ。やればいいんでしょ、やれば。じゃあ場所、案内して頂戴」


 ―――――


 ~フォーリン・カーズ:広場~


 大通りをしばらく歩いて路地裏に入り、路地裏を歩いていき、開けた場所に出る。


「ここなら大丈夫でしょう? 広さも十分で交通に支障は無い。気兼ねなく戦えるでしょう。飛び道具を利用したってPvPフィールドは周囲へ影響を与えず、内部の状況、あー、状態、の方がいいでしょうか、それは解除される際展開前へと戻ります。地形も気にしなくて結構。真っ平らですしいくら崩そうが前述の理由で大丈夫ですよ?」

「……話し言葉で前述とか始めて聞いたわ」

「いいからいいから! さっさとやるわよ!」


 レイヴンの妙に説明的な台詞にセリオは眉を顰め、チェリッサはそんなの関係ないとばかりに肩を回しながらセリオを急かす。


「はいはい。所でレイヴン」

「はい、なんでしょうか?」


 セリオはチェリッサに呆れたように返事しながらレイヴンに疑問をぶつける。


「なんで無償でこんなことをするの? アンタに利益は無いでしょう?」

「いえいえ。貴女に知りえない形で利益は回収していますとも。それに、ここは穴場で、誰の土地でもないのですよ。意図的に作られた空き地。そこを紹介しているだけですよ?」

「不気味ね、アンタ」

「ローゼほどじゃないですよ?」

「……チッ」


 セリオは返答に詰まり、舌打ちする。なんで自分への嫌味の対応に平然と共通の知り合いを使えるのか、とか、自分に不気味と思える要素が無いということは、脅威に思えないのか、等のイラつきが腸を煮え繰り返すが、自らも抱くことがある感情ゆえに、返す言葉が無い。

 底知れない、圧倒的な実力差を年下であろう目の前の女顔の少年に感じ、これに平然と喧嘩を売れるローゼに劣等感を抱く。しかし、そんなものは引き篭もってた自分を連れ出した時にいくらでも感じただろう、とセリオはそれを振り払う。


「まあ、いいわ。チェリッサ、さっさと始めるわよ」

「はいはーいっ!」


 セリオがウィンドウを操作するとチェリッサの目の前にウィンドウが浮かび上がり、透明なフィールドが二人を中心として広がっていき、広場が完全に埋まりきらないまでの広さで膨張を止める。


【3】


「というか。なんでアンタそんな乗り気なのよ」


【2】


「だって。なんだかんだあんたに勝ったことないもの」


【1】


「……デカイ図体の癖してなんて器の小さい」

「いったわね!?」


【GO】


 ウィンドウが割れ、破片が飛び散る瞬間、二人の女性は己の武器を引き抜きながら好敵手に迫る。

 振るわれる小太刀を左の短剣で受け、右の短剣を突き出して心の臓を狙う。それを膝で弾き、小太刀を持つ手の片方を離し二本の指で眼窩から眼球を穿とうとする。それを頭を思いっきり後ろに引くことで躱しながら左足を振り上げ顎、水月を狙う。下から襲ってくる足に己の足裏を乗せ、中空を軽く舞う。

 これら一連の動きを接敵から流れるようにやってのけた女性二人に、レイヴンは感嘆のため息を漏らす。


「ほぅ、まるで演舞でも見てるみたいですね。打ち合わせでもしていたのでしょうか?」

「違う。あの二人は、よく、格闘ゲームで……互いをぶつけ合ってた。その中で互いの動きの癖を分かり合っている。……多分、だから相手の動きに条件反射とも言えるレベルで動けるんだと思う」

「いや、その見解は違うね」


 レイヴンの言葉に反応したピィニィの答えに、ハルはしっかりとした否定を示す。


「互いが、互いの戦い方と噛み合っているんだろう。セリーの戦い方は合気道にも通じる相手の力を利用し自らの勢いに転じさせ、敢えて後手に回って不意を付く所謂後の先を求める戦い方、あのデカイのの戦い方はかの宮本武蔵の二天一流に通じる、柔の剣かつ受け、攻めの手をはっきりとして思考を纏めやすくする、そして敢えて両手に短剣を持つことにより取り回しを重視し、体格によるリーチを、格闘術との違和感の消去を目的としたそれがだ」


 柄にも無く真面目な顔で頭の良いような事を言うハルにレイヴンが驚きの表情で冷やかしを入れる。


「へぇ。その戦いへの頭の回転を数字にも向けられれば1組入り確実だろうに」

「お前暗に俺を馬鹿って言ってない……!?」


 ハルはなんとも納得行かないといった様子でレイヴンに目を向けるが、レイヴンは既に戦闘を見ることに集中し、ハルへ意識を向けておらず、ハルは嘆息しながら自身もまた戦闘に目を向ける。


「相変わらず!」

「パターン化してんのよ、アンタ」


 小太刀の切っ先を向け、自由落下の勢いを載せた刺突を繰り出し、それを真下を潜り抜ける形で躱そうとしたチェリッサの顔面に靴を履いた爪先で蹴りを入れる。

 堪らず怯んだチェリッサの隙を付き、セリオはチェリッサの首筋に刃を立て、一気に引き裂く。チェリッサの身体が地面に崩れ落ちた次の瞬間、フィールドは消える。


「……あんた、まだ碌なスキルを覚えていないようね」

「いやぁ、あんまりレベルが上がらなくって」


 セリオはチェリッサを引き起こしながら問うと、チェリッサは苦笑しながら答える。


「……都合が合えば一緒に狩に言ってもいいわ」

「え? それって」

「別に。アイツとべったりなのもどうかと思っただけよ」


 仏頂面でセリオが告げた台詞に、チェリッサはニヤニヤしながら肩に手を回す。


「もぉ! 素直じゃないんだからぁ!」

「ちょっ!? あっついし重いのよアンタ! 離れなさい!」


 テンション高く纏わりつこうとするチェリッサとそんなチェリッサから逃げるセリオ。そんな二人を見ながらギャラリーは思い思いの感想を呟く。


「……なんだろう、アレ見てるとユウキとイルム思い出す。体格差?」


「私だけ……仲間、外れ」


「……ツンデレデレツン? どっちでしょうねぇー」


 まあ、割とどうでもいいことなのだが。

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