第59話 I'm a killer
やべぇローゼよりもコロナのほうが書き易い
~宿屋【ストリングス】~
コロナ・フェンサーとローゼス・ノブレス、葉楽が戦った次の日。2日後にRE:Mapping法を利用した機械を作っている企業の会長との会談を直にではなく学長伝いに取り付けられた葉楽は先日のショックが抜けきらないままにクリエイト・ワールドにログインした。
「……連絡先くらい公開しとくべきだったか……? でもなぁ、マスコミどこの国だろうとうざったいだろうしなぁ」
葉楽、ローゼはマスコミが苦手である。情報を得るためにずかずかと入り込んでくる姿勢が嫌いだ。葉楽だって人間だ。それを切り売りしている芸能人とは違い、プライバシーというものがある。
マスコミはどこの誰だろうと有名なら芸能人だと勘違いしているのではないだろうか。そんなことを思いながら葉楽は階段を下りる。
因みに、ローゼの情報収集の場はもっぱらアングラな掲示板だ。人間の負の面も正の面も興味深い葉楽にとって、生の感情が出やすい匿名掲示板は最高の情報収集の場だ。大体の話題は興味があるところだけ切り取って他の物は投げ捨てるが。
「あぁローゼ、ちゃんと来たのね」
「呼び出されたからって長いこと話すような内容俺に来るとでもぉ?」
「大学教授が呼び出される……教頭か校長?」
「学部長と副学部長だよぉ? もっぱら略されて学長と副長だけどぉ」
ハルが真面目な顔をしてすっとぼけた事を言い、ローゼは苦笑しながらそれを訂正する。因みにローゼ、荒戸葉楽が大学内で唯一完全に敬意を示しているのは学部長のみである。その所為で“学部長直属の傭兵教授”なんてあだ名もついていたりするが。
「じゃ、今日の予定は? どうするのかはロゼが決めてよ、リーダー」
「いつの間にリーダー? ま、いいけどぉ。それなら今日はぁ」
ローゼがそこまで言いかけたときに【運営からメッセージが届きました】とインフォメーションウィンドウが開いた。ローゼは少し開いた手を挙げ二人を制止し、ウィンドウを開く。その中にはこんなことが書かれていた。
【to:CN:ローゼ 様へ
違法ギルド・【GUN・HO・GUNS】壊滅の率役者であるローゼ様に個別での討伐依頼です。
違反プレイヤー【ダレイ】【ガドル】【ダグマ】の三人組を討伐してください。
罪状は【強盗殺人】【恐喝】【詐欺】【窃盗】です。
違反プレイヤーを討伐する際にはどんな手段を使ってもかまいません。
以来が成功した暁には運営から特別報酬を授与します。
其方にとっても悪い話ではないと思いますが
from:クリエイト・ワールド運営】
ローゼはそこまで読み終わると口を開いた。
「今日はそれぞれ別行動で。俺は個人で用事が出来た」
「え? そっかー。ロゼがいたら狩りも捗るかと思ったんだけどなー」
「ま、都合なら仕方ないわね。行って来なさいな」
「悪いね」
そのままローゼは宿屋の扉を空けて外へ出て行く。
「……気付いた? セリー」
「アンタよりも付き合い長いの。気付かないわけ、無いでしょう」
そのローゼの後姿を見ながらハルが呟き、セリオが答える。
「アイツ、声色は辛うじて何時も通りだけど喋り方に余裕が無かった。何に憤り感じてるのかしら」
―――――
~アクダク樹海~
アクダク火山の麓にある、鬱葱とした深き森。その木の枝の上で、ローゼはウィンドウを見ながらライフルの手入れをしていた。
「便利な物だ……ターゲットの位置が分かるなら、そいつらが通るルートもまた見易い」
宙に浮かぶウィンドウには樹海一帯の地図と、3つの赤い光点、そして一つの青い光点。赤は標的の位置を、青は自分の位置を示していた。
ローゼは青い光点を中心とした後から描かれたであろう円に赤い光点が入る前にもう一つのウィンドウを開き方角を確認する。そして地図の方角と実際の方角を合わせ、このまま軌道が変わらないままだと敵が円に入ってくるルートを考え、入ってくる方向を遠視スキルで見通し、ライフルに弾を籠め、トリガーに指をかけ、遠視スキルの視界の中にサイトを浮かび上げる。
「……」
ローゼは息を潜める。木の枝に、幹に体重を預け、全神経をサイトに注ぐ。
「……?」
しかし、ローゼはいつまでたっても視界の中にターゲットが入ってこない事に疑問に思い、マップウィンドウを見直す。
「……なにぃっ!?」
なぜか赤い光点が自らの位置を示す青い光点とは別方向へと向かっていた。獣道を考えて、このルートを通ると予想していたローゼだったが、予想が外れたとなれば移動せざるを得ない。
「チッ」
ローゼは舌打ちを一つして、ライフルをインベントリにしまった後Ex-S、D・G、短刀をそれぞれちゃんと身につけているかを確認し、帽子を押さえながら木の枝から飛び降りる。
「逃がさねぇ……!」
ローゼは見ず知らずの人間が殺されようと、脅されようと、そんなことにはなんら興味が無い。ただ、弱者を踏みにじる悪がのうのうと生きることが、空からの日差しを堂々と浴びるのがたまらなく嫌だった。許せなかった。それが今、ローゼの体を突き動かしていた。
―――――
「……通報なんてっ、へましやがって!」
「仕方ねぇだろっ、兄貴! あのときにさっさと殺しとけばよかったのに、実入りが少ないからって!」
「用心棒を引き受けたら、これだ! まだ強者と戦えてすらいないというに!」
「諦めろよガドル! 通報されちまった時点で俺たちは運命共同体だ!」
森の中を駆けるいかにも、といった三人組はローゼへの依頼にあった3人組であった。先頭を走る小物風な優男はダレイ、それを息を切らしながら追う気弱そうな男はダグマ、そしていつ襲われても対処できるように背負った獲物に手をかけている傭兵風の強面の男がガドルだ。
「待て、何か聞こえないか」
「何が? 兄貴」
「……I'm a thinker ……I'm a knower……」
森の中に透き通るバリトンの歌声が響く。それは不気味なほど聞こえ、不気味なほど理解でき、
「I'm a killer」
「さがれっ二人とも!」
不気味なほどいきなり接近してきた。
ガドルの声にダレイとダグマの二人は後ろに飛び退き、ガドルは獲物のアサルトライフルのストックで襲撃者の攻撃を辛うじて防ぐ。
「ッ」
しかし防いだアサルトライフルのストックはすっぱりと切り裂かれ、ガドルの左肩に刀傷が走る。
「ヒュウ! やるじゃん。ただの小悪党かと思いきや多少は骨があるんじゃあないの? 少なくともこの前のホリックとか言うのよりはあるな。うん」
樹上から強襲して来た襲撃者はその腰まである艶やかな黒い髪をたなびかせながら着地し、その手の十字架を模した真紅の大剣を肩に担ぎながら、不敵な笑みを口元に湛えながら三人を眺める。
「ま、名乗らせてもらおうか。俺の名はコロナ、陽炎の剣士! んで、ギルド・エレメンツ、クラン・テンス所属で会計やってる! あんたらの罪状は強盗殺人、恐喝、et cetera et cetera! てな訳で、狩らせてもらうぜ! Do you understand!?」
黒髪の剣士、コロナはズビシィと三人組のほうを指差しながら決め顔で微笑んだ。
「まずい! 逃げるぞ!」
「ガドルさん! 強敵だよ!」
「ふざけんな災害には関わらん主義だ!」
しかし三人組はそんなコロナを放ってコロナとは逆方向へと全速力で逃げ出した。
「……あっ、こら、待てって!」
突然の戦闘放棄に呆気に取られたコロナはワンテンポ遅れて追いかける。因みにこの所為でローゼの射程内に入ってこなかった。知らなかったとはいえ、いい迷惑である。




